【番外編】旧満洲第731部隊軍医将校の学位授与の検証を京都大学に求める運動について、大学・研究機関における軍事研究を阻止するために

 さる4月2日、京都大学の大学記者室において「満州731部隊軍医将校の学位授与の検証を京大に求める会」の記者会見が行われた。趣旨説明は、会の事務局長を務める西山勝夫(滋賀医大名誉教授)が行い、共同代表の鰺坂真(関大・同)、池内了(名大・同)、広原盛明(京都府大・同)なども参加した。記者室では10人前後の記者が熱心に耳を傾けた。

 周知の如く関東軍731部隊とは、旧満州ハルビン市の郊外(平房)の研究施設で中国人捕虜を中心に3千人ともいわれる膨大な生体実験を行った日本軍細菌戦部隊のことであり、研究組織の中核に京大医学部出身の研究者が多数在籍していた。部隊長(石井軍医中将)が京大病理学教室の出身だったため、医学部を挙げて軍事研究(ペスト菌など細菌戦のための研究)に協力していたのである。

 医学部出身でもない私がなぜこの会の共同代表に名を連ねているかについては、少し説明が必要だろう。私は、731部隊ハルビン市郊外の平房地区で建設されていた頃(1938年前後)、ハルビン市内の満鉄社宅で生まれ、そこで育ったが、731部隊のことは帰国してからも何一つ知らなかった。ただ、ハルビン市はロシア帝国が建設した美しい都市であり、建築や都市計画に関しては興味深い対象なので度々調査に出かける機会があった。そうこうしているうちに、「15年戦争と日本の医療医学研究会」の中心になっている旧知の西山氏から声を掛けられ、731部隊遺跡の視察旅行に同行することになったのである。

 最初に訪れたのは2011年9月、その次が2016年5月でいずれも哈爾浜市社会科学院との研究交流が主だったが、731部隊遺跡の視察にも多くの時間が割かれた。731部隊遺跡の保存と整備は1980年代から本格化し、2015年からは「戦争史跡公園」としての建設計画が始まり、現在は世界遺産登録を目指して努力が続けられている。私は建築・都市計画研究者の端くれとして、遺跡保存と整備のための資料収集(日本の建設業者による設計図など)を続けているが、未だその志を果たせていない。なぜなら、731部隊の施設は日本軍によって爆破され、また関係書類は徹底して破棄(焼却)されたためにほとんど残っていないからである。また研究資料は、731部隊関係者の「戦犯免責」と引き替えに全てアメリカに持ち去られ、それ以降、日本政府は731部隊に関して「関知しない」「資料は残っていない」「調べていない」との態度を一貫して撮り続けているので、関係資料の発掘は極めて困難な状況にある。
 
本題に戻ろう。今回の京都大学に対する申し入れは、西山氏の長年の努力によって明らかになった731部隊軍医将校の学位授与に関する疑惑の検証を求めるものである。疑惑の中核は、「サル」を実験材料にしたペスト菌の感染実験が実は「ヒト」の生体実験を基にしたものではなかったかというものであり、そのことを裏付ける記述が学位論文自体の中に存在することを根拠としている(詳しくは下記の要請書、会のホームページを参照してほしい)。

会はこの問題を社会的にアピールするため、4月14日(土)13〜16時、京大時計台ホールで講演会を開催する。講師は731部隊の存在をはじめて学術的に解明した常石敬一氏(神奈川大学名誉教授)、タイトルは「研究者が戦争に協力する時―731部隊の生体実験をめぐって―」である。常石氏は講演に当たって、「2015年、防衛相と自衛隊が安全保障技術研究推進制度を創設したことに触発され、731部隊の問題に立ち戻り、21世紀における科学技術と社会のあり方を模索したい」と述べている。是非、来聴をお待ちしたい。

またこれと並行して、会は国内外で賛同者の署名運動を始めている。会のホームページに署名欄が掲載されているので、これにも是非賛同をお願いしたい。これらの成果は、7月上旬の目途に京都大学総長と医学研究科科長に届けることにしている。以下は要請文である。

京都大学総長 山極 壽一 様
京都大学医学研究科長 上本 伸二 様

要請書 旧満洲731部隊軍医将校の学位授与の検証を求めます

貴大学が、京都帝国大学時代に医学博士の学位を授与した旧満洲731部隊軍医将校(以下、同人)の学位論文(以下、当該学位論文)の主論文1)に人道上看過できないねつ造と医の倫理に反する不正な箇所が含まれている疑いがあります。
貴大学大学文書館所蔵の学位授与記録2) によれば、同人は1945年(昭和20年)5月31日付けの学位申請書と主論文「イヌノミのペスト媒介能力ニ就テ」などを貴大学に提出し、医学博士の学位申請を行いました。貴大学は、当該の学位申請を受け付け、医学部教授会の議を経て、総長より文部大臣に学位認可を申請し、文部大臣の認可(同年9月26日)を受けて同日に学位授与を決定し、学位記(学位記番号: 医 2556)を同人の代理人に届けました。

当該学位論文は、イヌノミのペスト媒介能力についての実験的研究ですが、論文中の「Ⅶ 特殊實驗」の項3)で用いられた実験動物のサルは実はヒトではなかったかとの疑いがあります4)。もしそれが事実であるとすれば、実験報告のねつ造であるに留まらず、実験が極めて非倫理的・非人道的であることは多言を要しません。
厳正な学位審査を行なうべき学術機関として、貴大学におかれましては、上記実験動物がサルであったかヒトであったかを検証する義務があります。もしヒトであったことが判明した場合、すみやかに学位授与を取消されるよう要請します。

満洲731部隊軍医将校の学位授与の検証を京大に求める会
住所: 〒604-0931 京都市中京区榎木町95-3 延寿堂南館3階 日本科学者会議京都支部気付
ホームページURL: https://war-kyoto-university.jimdo.com/