維新のキャッチコピー〝旧い政治を変える〟に呑み込まれた統一地方選挙、衆参5補選、統一地方選挙後半戦の結果から(1)、共産党党首公選問題を考える(その9)、岸田内閣と野党共闘(44)

 今回の統一地方選の際立った特徴は、投票率が過去最低水準に落ち込んだことだ。総務省が発表した平均投票率は、前半戦では9知事選46.78%、41道府県議選41.85%、6政令市長選46.61%、17政令市議選41.77%でいずれも過去最低を記録し、有権者の過半数が投票しなかった。後半戦でも、無投票当選を除く63市長選47.73%が過去2番目の低さになっただけで、280市議選44.26%、55町村長選60.80%、250町村議選55.49%はいずれも過去最低を更新した(各紙4月25日)。政治不信の浸透が深刻な選挙離れを招き、それに輪をかけた深い絶望感が今回の統一地方選の投票忌避行動につながったのだろう。

 

 メディアの選挙報道もいまひとつ精彩を欠いていた。4月上旬に発生した自衛隊幹部が乗ったヘリ墜落事故に続いて、衆院和歌山1区補選で遊説中の岸田首相に爆発物が投げつけられるという大事件が起こったからだ。メディアの関心は雪崩を打ってこの襲撃事件に向かい、安倍元首相の暗殺事件がまだ記憶に強く残っていることもあってその後の報道は襲撃事件一色になった。選挙のことなどそっちのけにして連日現場の状況が報道され、得体のしれないどす黒い不安感が国民の間に拡がった。身近な選挙のことを真剣に考える雰囲気が次第に薄れていったのである。事件発生後も遊説を続けた岸田首相への共感からか、直後の世論調査では内閣支持率が上昇した。岸田氏はこの機を逃さずと投票日前日の4月22日、再度和歌山に入って犯人を取り押さえた漁師に面会し、お礼の言葉を述べたという。にもかかわらず、和歌山1区補選の投票率は44.11%で2021年衆院選から11.05ポイントも下回り、自民候補は維新候補に敗れたのである(京都新聞4月24日)。

 

 私は、過去最低水準となった投票率低下の背後には、革新支持層や無党派層の深刻な選挙離れの広がりがあると感じている。革新自治体が躍進した時代には多くの有権者が挙って選挙に参加し投票率も上昇したが、最近は立憲民主党の変節で「市民と野党共闘」が崩壊した結果、革新支持層や無党派層が投票に行かなくなってしまった。私の周辺にはこんな人たちが大勢いるし、まして「革新自治体」なんて知らない最近の若者たちは、端から選挙などには興味がない。これでは、投票率の上がり様がないのである。

 

 しかし、この現象は独り革新支持層や無党派層だけのものではないだろう。「草の根保守層」といわれる自民支持層にも共通する現象であり、それが「なり手不足」による〝無投票当選〟の増加というかたちであらわれているだけの話なのである。日経新聞社説(4月24日)は、次のように言う。

 ――さらに問題なのが無投票当選の増加だ。市区町村の首長選で26市区70町村、議員選は14市123町村に上った。首長も議員も無投票だったところが32市町村あり、このうち16町村は道府議選も投票がないトリプル無投票である。なり手不足は道府県議と町村議に著しいが、無投票は議会の正統性に関わる問題だと認識し、選挙制度を含め真摯に改善すべきだ。

 

 日本維新の会馬場代表は4月24日の記者会見で、統一地方選の結果、維新の地方議員と首長が600人の目標を大きく上回り、計774人になったとする独自の集計結果を発表した。維新によると、2月5日時点での地方議員と首長は計468人、統一選を終えて306人増えたことになる(各紙4月25日)。私は維新が躍進したのは、野党共闘の崩壊で革新支持層や無党派層の多くが投票に行かなくなったことに加えて、自民の〝旧い政治〟に不満を抱く伝統的保守層(保守岩盤層)がかなりの割合で維新に「鞍替え」したからだと考えている。事実、共同通信が実施した出口調査によると、和歌山1区補選では支持政党が自民33%に対して維新26%と接近しており、自民支持層の22%、無党派層の62%が維新候補に投票している(産経新聞4月24日)。

 

京都でも、維新の府内首長、地方議員は統一地方選前の19人から39人に倍増した。前半戦の府議選では6増の9人、京都市議選では6増の10人となり、20代、30代の新人候補が軒並み上位当選し、両選挙の立候補者20人中、落選者はわずか1人だった。後半戦の6市議選では、1増4市、2増2市、計15人が当選した。これに対して自民は、府議選1減(29→28)、京都市議選1減(20→19)にとどめたものの、得票率では前回と比べ府議選3.1ポイント減の36.5%、市議選5.9ポイント減の25.2%となり、全政党の中で最も減り幅が大きかった(京都新聞「与党の危機感」4月25日)。

 

 自民と固い同盟関係を結んできた公明にも維新の影響は及んでいる。公明は4年に1度の統一地方選では公認候補の「全員当選」を毎回目標に掲げ、しかもそれを言葉通り実現するという驚異的な実績を誇ってきた。それが今回の統一地方選では公認候補1555人のうち12人が落選したのである。山口代表は4月25日の記者会見で、「目標には届かなかったものの、圧倒的に各自治体で全員当選を勝ち取っている。基盤の揺らぎはなく、安定的な政権運営にも何ら支障はない」と強調しながらも、「日本維新の会など新しい勢力の候補者が当選し、自民や公明など既成政党が割を食った」と認めた(毎日新聞4月26日)。

 

 立憲民主党は衆参5補選で立てた3人の公認候補が「全敗」した。なかでも、事実上の野党統一候補として臨んだ参院大分補選で自民新人に敗れた衝撃は大きい。形式的には野党共闘が成立していたが、各党が「本気」で取り組まなかったことが敗北につながったのだろう。しかし今回の「全敗」に対して、立憲執行部の泉代表はもとより岡田幹事長なども誰一人責任を取らないのだという。立憲は4月25日、幹部が集まる常任幹事会で3補選全敗の結果を議論したが、全議員の意見を聴く場を設けるよう求める意見が出た一方、泉代表ら党執行部の責任を問う声は上がらなかったという(朝日新聞4月26日)。

 

 立憲は、「市民と野党共闘」から離脱し、維新との国会共闘によって「野党」としての維新の存在感を高めることに貢献した。しかし、そのことが「野党第1党」としての役割をあいまいにし、与党や野党かわからないような国会対応につながった。国民民主党の玉木代表は4月25日の記者会見で、次期衆院選を巡り、憲法、安全保障、エネルギー政策で一致しない政党とは選挙協力しない考えを示し、「国家の根幹に関わる政策で一致しないところと選挙の調整をしても票は増えない」と述べ、立憲民主党については「党としては(基本政策が)一致していない」と明言した。そして、統一地方選で躍進した日本維新の会については「最も近い政党だ」と語ったのである(読売新聞4月26日)。

 

 岸田首相は、次期総選挙の実施時期をまだ明らかにしていない。しかし、今回の衆参5補選の結果や統一地方選での躍進で、維新は次期総選挙で全小選挙区に候補者を立てると言明するようになった。大阪市議会では初めて過半数を獲得し、もはや公明党に頼ることなく「維新単独」での議決が可能となったからだ。維新馬場代表は松井前代表の意向を受けて、かねてから「公明との関係は一度リセットさせていただく」と言っていたが、統一地方選後においては公明との協力関係は「白紙状態」だと強調している(各紙4月25日)。「常勝関西」で公明が議席を失えば、自公連立政権にひびが入るかもしれないし、立憲が「野党第1党」の座を失えば、政局に構造変化が起こるかもしれない。広島でのG7サミットが終われば、いつ総選挙があってもおかしくない。次回は、維新の影響を最も受けた共産の動向について考えよう。(つづく)