731部隊検証の新たな展開(2)、京都大学が検証求める会の要請に応じて「予備調査」に着手した、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その132)

 7月26日、京都大学が会議室を用意して検証求める会の要請趣旨を聞き、要請書を受理した。大学側からは、研究倫理・安全推進担当副学長の野田亮氏(医学系研究科教授)をはじめ、当該事務局の室長など5人が出席した。検証求める会からは鰺坂、池内、広原の共同代表、西山事務局長、賛同人の福島雅典氏(医学部名誉教授)など7人が出席した。会は出席者の配席表が予め用意され、当日は配席表にしたがって名札が置かれるなど、かなり緊張したものだった。

 野田副学長の挨拶の後、西山事務局長が要請書を読み上げ、国内外からの賛同署名500名余を手渡した。共同代表3人及び福島氏が要請趣旨についてそれぞれ発言し、大学側の真摯な対応を求めた。これに対して、野田副学長は以下のように述べられた。
(1)皆さんの要請を深く受け止める。(2)過去を変えることはできないが、未来に生かすようにしたい。(3)未来に生かすということは、現在の問題としてとらえ、過去の検証をすることも含まれている。(4)皆さんの言われたことを執行部で検討する。(5)9月上旬に大学執行部で検討し、その結果を会に報告する。 またこれに関連して、当該事務局室長は「大学として必要であれば、医学系研究科として調査することになる」と付け加えた。

 9月18日、野田副学長より西山事務局長に対して以下のようなメールが届けられた。「この度、貴殿からの旧満州731部隊軍医将校の学位授与の検証に関する要請について、『京都大学における公正な研究活動の推進等に関する規程』及び『京都大学における研究活動上の不正行為に係る調査要項』を準用し、当該論文に関する調査を実施することといたしました。つきましては、当該要請書に関しすでにご提出いただいた資料以外に貴殿がお持ちの関係資料がございましたら、平成30 年9 月25 日(火)までに、研究倫理・安全推進室までご提出頂けますでしょうか。それをもちまして、予備調査を開始いたします。なお、追加の資料がない場合もその旨ご連絡いただきますようお願いいたします」。

9月26日、検証求める会は当該通知に対して、「当会は、この回答を当会が要請する検証の具体的措置の更なる一歩であり、画期的なものとして受け止め、関係資料を期限までに提出いたしました。京都大学が『過去を変えることはできないが、未来にいかす』との方針で速やかに予備調査を終え、さらに進んで、過去を真摯に省みる本調査の実施を決定されることを当会は要請いたします」との回答を送り、同日に記者会見を開いて内容を公表した。各紙の反応は大きかった。以下は、各紙9月27日の見出しである。
 〇朝日新聞:「731部隊論文『人体実験の疑い』、京大 調査開始を決定」
 〇毎日新聞:「人体実験の疑い、京大論文調査へ、731部隊軍医に学位」
 〇読売新聞:「731部隊論文 京大調査へ、ペスト研究で人体実験の疑い」
 〇産経新聞:「人体実験疑いの731部隊論文、京大、予備調査の方針」
 〇京都新聞:「731部隊将校に博士号、京大が検証 有識者グループに回答」

 各紙ともほぼ同様の内容であるが、その一例として読売新聞記事(抜粋)の内容を紹介しよう。
 「西山氏らが問題視するのは、ペストの感染拡大に蚤が果たす役割を研究した香川県出身の軍医将校の論文。将校は京都帝大医学部の出身で1945年、文部大臣(当時)の認可を基に医学博士の学位授与が決まった。将校は戦時中に戦死している。論文はサルの動物実験を基にしたとされるが、『頭痛、高熱を訴えた』などの記述がある。このため西山氏らは人体実験が行われた疑いが強く、倫理上の問題があると主張している。西山氏らは7月下旬に野田亮・副学長ら大学幹部と面談し、論文の検証を求め、9月18日に野田副学長から『調査を実施する』と記したメールが届いた。1〜2カ月かけて予備調査を行い、その後、本調査に入る予定という。西山氏は『京大は誠実に過去の問題と向き合おうとしている。画期的な決定だ』と話した」。

 この決定に関して、私が記者会見で述べた内容は以下の通りである。
(1)検証求める会の要請に応えて、京都大学が「予備調査」を実施するとの今回の決定は、京都大学が長年731部隊との関係を不問に付してきた過去の経緯から考えると、「歴史的決定」ともいえる重みを持っている。
(2)しかも、研究倫理担当副学長が医学系研究科教授であることは格別の意義を有している。なぜなら、研究倫理担当副学長は研究科の枠を超えて選出されるポストであり、医学系研究科以外の教授が担当しても何ら不思議ではない。その場合には、担当副学長と医学系研究科との間で意思疎通が必ずしもうまくいかにことも考えられるが、しかし、今回の決定は今年4月から担当副学長に就任した野田医学系研究科教授の下での決定であるだけに、背景には医学部での何らかの合意があると考えるのが自然であろう。当該室長が「大学として必要であれば、医学系研究科として調査することになる」と付け加えたことも、そのことを裏書きしている。
(3)日本学術会議が軍事研究に関するこれまでの声明を再確認し、京都大学がそれに応えて「軍事研究は行わない」と公式サイトで発表したことも、この決定に大きく影響を与えていると思われる。日本学術会議での軍事研究に関する討議では山極壽一氏(京都大学総長)の果たした役割が大きく、そのことが同氏の学術会議会長就任につながり、さらには京都大学の声明公表へと発展したことは周知の事実である。このような基本姿勢を表明した京都大学において、検証求める会の要請を拒否することは難しかったのではないか。

 「予備調査」は通常30日以内とされているが、60日に及ぶ場合もあるとされているので、恐らく11月下旬には京都大学からの回答が届くものと思われる。この場合の判断は、(1)予備調査の段階で検証を終える、(2)本調査によって本格的な検証を進める、の2つに分かれる。検証求める会は、本調査における本格的かつ真摯な検証を求めており、その要請は必ずや受け止められるものと期待している。(つづく)