八方塞がりの安倍首相、全国小中高の臨時休校の強行でさらに窮地に、安倍内閣支持率下落と野党共闘の行方(28)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その205)

 

 今年2月期の各社世論調査で、最後に実施された産経世論調査(2月22、23日実施、25日発表)の結果が目を引いた。産経新聞の意図は、「首相主催の『桜を見る会』の問題と『新型コロナウイルスによる肺炎』の問題とでは、どちらをより優先して審議すべきだと思うか」との質問を設け、「桜より肺炎」89%の回答を導くことにあったようだ。新型肺炎の感染拡大が日に日に勢いを増すなかで、国民の眼を新型肺炎問題に引きつけ、あわよくば「桜」疑惑から首相を救出したいとの思惑が透けて見える。

 

 確かに、新型肺炎への国民の不安は日ごとに高まっている。新型コロナウイルスに「大いに不安」41.3%、「ある程度不安」43.7%、日本経済への影響は「大変懸念」48.1%、「ある程度懸念」42.7%と、圧倒的多数がその行方に不安と懸念を抱いている。だが、新型肺炎への政府の対応については「評価する」46.3%、「評価しない」45.3%、情報提供については「十分だと思う」23.9%、「思わない」68.6%と否定的だ。もちろん、「桜を見る会」の首相説明に「納得していない」78.2%、カジノリゾートに「反対」63.8%、手続きを「凍結すべき」58.4%との態度も変わっていない。要するに、これまでの懸案が何一つ片付いていない上に、新型肺炎が発生したという非常事態の下で、安倍政権に対する不信・不満が日ごとに高まっているということだ。

 

 その結果が、内閣支持率と自民党支持率の急落という形であらわれた。そして、全国的に注目されたのはこちらの方だったのである。

  1. 内閣支持率が前回44.6%から36.2%へ8.4ポイントも急落し、不支持率が38.9%から46.7%へ7.8ポイント急増した。その結果、不支持が支持を10.5ポイント上回った。不支持が支持を上回ったのは2018年7月以来、1年7カ月ぶりのことである。
  2. 最大の理由は、首相の人柄を「評価する」37.9%よりも「評価しない」45.1%が上回ったこと、首相の指導力を「評価する」が前回51.2%から38.7%へ12.5ポイントも急落したことだ。
  3. 自民党支持率も39.3%から31.5%へ7.8ポイント下がった。これまでは、内閣支持率に変動があっても自民党支持率は高位に安定していたが、今回は同時に急落した。このことは、首相の虚偽答弁や辞任閣僚の雲隠れを擁護し続けてきた与党・自民党にも批判の眼が向けられ始めたことを意味する。

 

 ロイター通信(東京)は2月25日、「安倍首相はどこにいる?」とのニュースを世界中に配信した。歴代最長の在任期間になった安倍首相が、新型ウイルス対応策の代表者として陣頭指揮を執らず、その任務を加藤厚労相に「丸投げ」しているという批判だ。安倍首相は、政府の新型コロナウイルス感染症対策本部会合では冒頭の短いコメントを読み上げるだけで(いわゆるテレビカメラの頭撮り)、その後はさっさと退席して身内の者との会食に出かけるか、そうでなければ、会議運営を全て加藤厚労相に任せて座っているだけだ。

 

 その加藤厚労相がまた後手後手に回っていて、いっこうに効果的な対策を打ち出せていない。英国船籍のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」での新型ウイルス感染拡大への対処を巡り、日本は厳しい国際世論の批判にさらされた。各国がチャーター機(あるいは軍用機)で自国国民を救出しなければならないほど、日本の検疫体制や感染防御体制は信用されていないのである。

 

 また、国内では感染者が全国に広がっているというのに、現在に至るも満足な検査体制が整えられていない。政府は新型コロナウイルスの感染者数を最小限に抑えるため、検査回数を意図的に抑制しているのではないか、との臆測さえ生れている。東京オリンピック開催を至上命令とする安倍首相が、IOCの疑惑を払拭するため感染者数の拡大を極力抑えようとしているためだ――こんな噂が流れているのである。

 

 安倍首相はまた、中国からの旅行者全員の入国を拒否していない。4月の習近平国家主席との国賓訪日を妨げないための思惑が先行しているためだ。それに、日本経済は近年、中国からの観光客に大きく依存するようになってきている。訪日外国人旅行者の4分の1を占める韓国人客を失いつつあるいま、いまや命綱になった中国人客までが引き上げられるとなると日本の観光業が壊滅状態になり、安倍首相肝いりの「観光立国政策」が完全に破綻するからだ。

 

 専門家らは日本での感染拡大スピードを抑える上で、今後数週間が重要な時期だとしている。抑えられなかった場合、患者の数が急増して医療態勢が追い付かなくなり、経済に打撃が及びかねない。日本の2019年10-12月期の国内総生産(GDP)は昨年10月の消費増税が響いてマイナス成長となり、年率換算の減少幅6.3%は約6年ぶりの大きさだった。また、世界同時株安の影響で日経平均株価は2万2千円台を割り、今後さらなる下落が予想されている。アベノミクスはもうとっくに破綻しているが、それでも安倍首相は旗を降ろすわけにはいかない。オリンピック開催に「最後の望み」をかける所以だ。

 

 八方塞がりの安倍首相が政権維持のため緊急対策として打ち出したのが、2月27日の「全国小中高臨時休校」だった。全国すべての小中高校などを週明けの3月2日から臨時休校にするよう突如求めたのである。この方針は文部科学省との協議すら行わず、官邸主導で行われたもので、文部科学省幹部は「驚いている。しかし政府の方針が示された以上、教育現場が混乱しないよう最大限の措置をとる。そのための具体策を検討している」と話したという(産経2月28日)。

 

  政府方針は、年度末でもあり教育現場に及ぼす影響は深刻だ。年間に必要な授業時数は確保できるのか、学習に遅れは出ないのか、母子家庭や共働き世帯などでは低学年生の世話を誰が見るのかなどなど、学校や家庭に混乱が広がっている。感染症の専門家からも、「感染が広がっていない地域で休校することにいったいどんな意味があるのか」との疑問が出されている。千葉市長は「全国一斉春休みまで休校、いくらなんでも…。社会が崩壊しかねません」「医療関係者や福祉関係者、警察・消防など社会を支える職種で、親等に預けられない事情を抱える方々を何とかしなければ…」と指摘した(朝日電子版2月27日)。

 

 しなければならない新型肺炎検査を怠り、自らの責任を棚に上げて全国小中高の臨時休校に踏み切る...こんな本末転倒の緊急対策を国民が許すはずがない。私は「最後のあがき」ともいうべきこの措置によって、安倍首相はますます窮地に追い込まれ、オリンピック開催中止とともに去ると見ている。(つづく)