新型コロナウイルスの感染拡大を契機とする安倍流ショックドクトリン政策は成功するか、安倍内閣支持率下落と野党共闘の行方(32)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その209)

 

 近畿財務局職員の遺書の公開、黒川東京高検検事長の定年延長をめぐる森雅子法相の支離滅裂答弁、河合夫妻の公職選挙法違反疑惑に関する秘書逮捕などなど、最近の安倍政権には内閣が幾つも吹っ飛んでおかしくないほどの不祥事が続出している。それでいて一旦下がった内閣支持率が再び回復するなど、良識ある国民には理解しがたい出来事が起こっている。いったいこの現象をどう見ればいいのか、見識ある政治評論家のコメントを聞きたいものだ。

 

 3月21、22両日に行われた産経新聞世論調査では、前回36.2%にまで下がった内閣支持率が41.3%に5.1ポイント上昇した。自民党支持率も31.5%から32.6%へ1.1ポイント回復している。これに対して立憲民主党、国民民主党、社民党など野党支持率は軒並み低下している。「いったいどうなってるの?」と言いたくなるぐらいの現象なのだ。

 

 産経新聞(3月24日)は、この結果を「野党 支持離れ鮮明、政権追及空回り」「新型コロナ 政府対応 野党支持層も評価」「『次も安倍首相』トップ」などと、全紙を使って大きく伝えている。結論は、「支持が広がらない背景には、イベント自粛要請や小中高校の一斉休校など、新型コロナウイルスの感染拡大阻止に向けた政府の対応が一定の評価を得ていることがある」というものだ。事実、肺炎を引き起こす新型コロナウイルスの感染拡大について、「政府の対応を評価するか」との質問に対しては、「評価する」が前回49.4%から51.2%へ上昇し、「評価しない」が45.3%から38.9%へ低下している。

 

 具体的には、(1)小中高校の一斉休校要請の判断が「適切だと思う」68.4%、「適切でないと思う」25.3%、(2)イベント自粛要請の判断が「適切だと思う」86.8%、「適切でないと思う」25.3%など、国民生活の一大事に関する安倍首相の思い付きと独断が「適切」だと圧倒的に支持されているのである。新型コロナウイルスへ恐怖感がそれほど大きく、安倍首相の思い付きや独断までが「果敢な行動」だと映るような社会心理状態が拡がっているのだろう。

 

 安倍政権は3月10日、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためとして「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(2012年制定)の改正案を国会に提出し、立憲民主党などをも巻き込んで強引に成立させた。この特措法による「緊急事態宣言」は、住民への外出自粛要請や各種イベントの開催制限の要請・指示、医薬品などの売り渡し要請などができる。多数の者が利用する施設(学校や社会福祉施設など)の使用制限・停止要請では適用対象が拡大可能であり、ときの政権に批判的な市民集会とかが排除されるおそれがある。また、NHKや民放の「指定公共機関」に対しても「必要な指示をすることができる」とあり、憲法で定められた集会の自由や表現の自由を侵しかねない内容が含まれている。

 

政府は3月26日、首都圏での新型コロナウイルスの感染拡大を受け、改正新型インフルエンザ対策特別措置法に基づく政府対策本部を設置した。これに伴い全都道府県も知事をトップとする対策本部を設け、感染症の専門家らによる諮問委員会が緊急事態宣言を出す要件を満たすと提言すれば、安倍首相が「緊急事態宣言」を出すことができる。首相は対策本部の初会合で「国難というべき事態を乗り越えるために国や地方公共団体、国民が一丸となって対策を進めていく」(日経3月27日)と述べた。

 

安倍首相はこれまで幾度も「国難」を連発してきた。北朝鮮のミサイル発射に対しては「避難マニュアル」まで作らせ、児童や住民の避難訓練を実施させた。自分は友人たちとゴルフを楽しんでいる...と言うのにである。その一方、少子化と言う国難にはいっこうに立ち向かおうとしない。人口を回復させるという「希望出生率1.8」はそのまま棚ざらしになっている。自分のご都合で「国難」をでっちあげて一定の政治効果が上がったと見るや、次の「国難」を作っては強権政治への求心力を高める――こんなことの繰り返しをやってきただけなのだ。

 

だが、新型コロナウイルスの感染拡大を契機とする今回の「緊急事態宣言」への準備は、今までのご都合主義とは異なる真剣味を帯びている。対策本部の設置後、安倍首相は東京都の小池知事と首相官邸で会談した。小池知事は「国の大きな力強い協力が必要だ」と要請し、首相は「収束に努力している都を一体的に支援する」と応じた。小池知事は会談後、緊急事態宣言について「これから検討されることを期待したい」と記者団に語ったという(日経3月27日)。

 

安倍首相は「頭の片隅にもない」と言いながら、自民党総裁4選をいつも念頭に置いている。小池知事もまた7月に迫った都知事選で頭が一杯だ。全国民の関心が新型コロナウイルスの感染拡大の行方に集中しているとき、両者がこの事態を自分の権力拡大に利用しないわけがない。連日テレビ報道を一身に集めている現在は、安倍首相にとっても小池知事にとっても「果敢な決断」を示す絶好の機会なのである。国難を救う強力なリーダー像を演出する上で、これほどの機会はまたとやってこないからだ。

 

「独裁と化した安倍政権に強大な権限を与えると、戒厳令に等しい状況をつくられてしまう危険性がある」と、日弁連は警鐘を鳴らしている。政変・戦争・災害などの危機的状態の下で、人々がショック状態や茫然自失状態から自分を取り戻せないときに、安倍首相が「国難というべき事態を乗り越えるために国や地方公共団体、国民が一丸となって対策を進めていく」と言うのは、まさにこのことなのである。

 

安倍首相が「緊急事態宣言」の下で〝ショックドクトリン政策〟を実行に移すことを許してはならない。新型コロナウイルスの感染拡大防止という名目で〝恐怖政治〟を実質化することを許してはならない。今、野党は存在意義を懸けてそのことを国民に問う時なのである。(つづく)