小さな記事だったが、2022年2月26日付の日経新聞に〝国家レベルの労使協調路線〟が着々と加速していることを窺わせる記事が載った。「自民、連合との協調明記、運動方針案 参院選にらみ接近」というもの。そこには「自民党と連合をめぐる最近の動き」が時系列で列挙されている。これを見ると、芳野氏の連合会長就任から僅か数カ月足らずで連合が自民党に急接近し、これまでにない〝ハイレベルの協調関係〟が形成されつつあることがわかる。
連合は神津里季生前会長が2017年、小池百合子東京都知事や前原誠司民進党代表と秘密裏に画策して民進党を解体し、「希望の党」(第2保守党)への合流を企てた。しかし、この画策は小池知事の「排除発言」が災いして破綻し、枝野幸男氏らの立憲民主党結成につながった。こんな苦い経験に懲りたのか、今度は「表向き」で政界再編をやろうということで、連合初の女性会長を表に立てて次のステップに乗り出したのである。
芳野氏は高卒で中小企業に入社し、連合の労組幹部になった異色の経歴の持ち主だ。神津前会長など大企業労組出身の大卒男性幹部とは一味違ったイメージを打ち出せるということでトップに抜擢されたのであろうが、その活躍ぶりは連合の「期待」以上のものがある。日経の「連合と自民党をめぐる最近の動き」でその活躍ぶりを見よう。
〇2021年10月、連合会長に初の女性会長、芳野友子氏が就任
〇同、衆院愛知11区でトヨタ自動車の労働組合が候補者擁立を見送り(自民党候補を支援)
〇同12月、芳野氏が自民党の茂木敏充幹事長らと会談
〇2022年1月、岸田文雄首相が連合の新年交換会に出席
〇同2月、芳野氏が自民党の小淵優子組織運動本部長らと会食
〇同、国民民主党が2022年度予算案での採決に賛成
なおここでは漏れているが、この他にも就任早々(2021年10月)、岸田政権肝いりの「新しい資本主義実現会議」のメンバーにも選ばれている。財界首脳や東大教授らと肩を並べる「ハレの舞台」だから、さだめし「新しい資本主義=労使協調路線による経済政策」実現のために頑張る決意を固めていることだろう。
本題に戻ろう。自民党が2月25日、2022年の運動方針案をまとめたという。それによると、これまで野党の後ろ盾となってきた労働組合の中央組織、連合との関係を〝協調する〟と明記したことが目を引く。方針案は今年の参院選を「最大の政治決戦」と位置づけ、「連合ならびに友好的な労働組合との政策懇談を積極的に進める」「多くの働く人々の共感が得られるよう、わが党の雇用労働政策を引き続きアピールする」と記している。運動方針は3月13日に都内で開く党大会で採択される(日経、同)。
自民党が連合との協調路線に舵を切ったのは、連合が野党共闘分断の前線部隊として動いているからだ。芳野氏はその最前線で野党分断の旗を振り、自民党の期待に応えている。連合は2月17日、夏の参院選の基本方針を発表し、共産党を念頭に「目的や基本政策が大きく異なる政党と連携・協力する候補者を推薦しないという姿勢を明確にする」と明記した(各紙2月18日)。共産党を拒絶する理由は、「連合の労働運動は自由で民主的な労働運動を強化、拡大していくというところから始まっている。その点で共産とは考え方が違い相いれない。現実的にも連合の組合と共産党系の組合は職場、労働運動の現場で日々競合ししのぎを削っている」というものだ(毎日インタビュー2月3日)。
芳野氏はまた17日の記者会見で、「参院選は比例代表、選挙区ともに個人名を徹底することが基本だ。人物重視、候補者本位で臨む」「参院選の政策協定について「(連合と立憲、国民の)3者で結ぶのが一番望ましい」「立憲民主党や国民民主党は支援政党として明記しないが、ただし連携はする」としたうえで、自民党と連携する可能性に関しては「ありません」と明確に否定していた。しかし、その舌の根も乾かない17日夜、芳野会長と連合幹部が、自民党で団体との窓口となる部門の責任者を務める小渕組織運動本部長らと東京都内の日本料理店で密談していたことが判明した。岸田政権発足や連合新体制発足に伴う小渕氏と芳野氏の顔合わせが目的だったいうが、「表向き」の行動と併行して「裏取引」も行われていることが明らかになったのである(JNNニュース2月18日)。
国民民主党は2月22日、衆院本会議で野党としては異例の2022年度予算案採決の賛成に踏み切った。ガソリン価格高騰の歯止めをかけるためだというが、こんな些末な理由で100兆円を超える本予算案に賛成するというのだから前代未聞のこと。自民党の方が却って(表向き歓迎しているものの)呆れたに違いない。各党は事実上の「与党入り」だと受け止めているが、驚いたことに芳野会長は2月24日、玉木国民民主党代表と会談し、「連合は予算に反対しているわけではない。理解している」と国民民主党の行動を支持したという(日経2月25日)。要するに、連合と自民党の一連の裏取引ですべてが決定され、それに沿って国民民主党が動くという構図が出来上がっているのである。
さすがに見かねたのか、朝日新聞社説(2月26日)は、「国民民主党 野党の役割捨てるのか」との見出しで厳しい警告を発している。その一部を紹介しよう。
「先の衆院選で玉木氏は、首相の経済政策は具体性に欠けると指摘。安部・菅政権下の不祥事を念頭に、『ウソやごまかしの横行する政治』を改めようと訴えた。野党共闘とは距離をおいたが、候補者調整に応じ、他党の支援を受けて当選した議員もいる。与党へのすり寄りは、野党としての国民民主に期待して投票した有権者への背信行為というほかない」
「今年夏の参院選の帰趨を握る1人区で、与党と1対1の構図をつくる野党共闘の行方はますます不透明になった。国民民主には、6年前に野党統一候補として議席を獲得し、今回改選を迎える現職も複数いる。玉木氏は一体、どんな立ち位置で臨むつもりなのか」
国民民主党の予算案採決においてとった行動は、前原国民民主党代表代行のいる京都でも波紋を広げている。国民民主党の選挙対策委員長も兼ねる前原氏は予算本会議でも「体調不良」を理由に欠席した。立憲民主党も「対岸の火事」とは見ていられない党内事情を抱えている。政治は「一寸先は闇」なのである。(つづく)