トヨタ社長、豊田章男氏(66歳)から佐藤恒治氏(53歳)へサプライズ交代人事、志位和夫共産党委員長(68歳)はこの事態をどう受け止めるのだろうか、「岸田降ろし」が起こらない理由(4)、岸田内閣と野党共闘(その35)

1月27日の各紙朝刊は、「トヨタ豊田社長交代、会長就任へ、53歳佐藤氏が昇格、トヨタ変革へ若返り」(朝日)、「トヨタ 社長交代、変革期に若返り」(毎日)、「豊田社長交代、『変革、自分には限界』」(日経)、「トヨタ 未来シフト、社長交代 トップ53歳」(読売)、「トヨタ社長に佐藤氏、53歳、14年ぶり交代 若返り図る」(産経)などの1面大見出しで、トヨタ豊田章男社長(66歳)が4月1日付けで社長を退き、後任に佐藤恒治執行役員(53歳)が昇格する突然の人事を伝えた。創業家出身の豊田氏は2009年6月の社長就任以来14年近くに亘って経営を率いてきた、いわば「トヨタの象徴」とも言える存在だ。それがなぜ突然、電撃的な退任表明に踏み切ったのか。

 

豊田氏が社長交代の記者会見で語った言葉が印象深い。朝日はその内容を「若さ武器に変革を。私はちょっと古い人間。一歩引くことが必要」といった巧みな表現でまとめているが、毎日記事も分かりやすい。

――「私はどこまで行っても車屋。(トヨタを新たな時代に対応した)モビリティカンパニーにする変革はできなかった」。26日、オンラインで報道各社の質問に応じた豊田氏が退任理由にあげたのは、大変革期を迎えた自動車産業への対応だった。自動車はガソリンで動くエンジンを動力にして発展してきたが、ここにきて電気自動車(EV)が台頭。自動運転技術も急速に進んでいる。EVでは米テスラがトップメーカーに躍り出るなど既存の自動車大手は変革を迫られている。自身を「ちょっと古い人間」と呼ぶ豊田氏は、自分がトヨタの先頭に立ち続けるよりも、若い世代に経営を託すべきだと判断し、昨年、社長退任を決めたという。

 

 このニュースは前日からもテレビで大きく報道されていたが、私はこの段階ではまだ志位和夫共産党委員長のことが頭に思い浮かばなかった。しかし、27日の朝刊各紙を読み比べてその影響の大きさに驚くと共に、(それとの連想で)いつまでも旧態依然とした「共産党の顔」であり続ける志位委員長のことが頭から離れなくなった。志位氏がこれまで党内外から幾度となく退任を求められながら、なぜ現在も(そして、これからも)長期にわたって共産党委員長の座に居座り続けるのかという疑問を抑えることができなくなったからだ。世界トップの自動車産業の社長が「自分の限界」を認識し、「変革のためには若返り」が必要だと決断し、そして66歳で社長を退任して自分より一回りも若い53歳の後継者に企業の行方を託す――豊田氏がこんな大胆な決断と行動ができるのに、「革新の党」「変革の党」を標榜する共産党党首の志位氏(68歳)がなぜできないのか、まったく理解ができないからである。

 

志位氏が45歳で委員長に就任して以来、68歳の今日まで実に23年もの長きにわたって党首の座にありながら、この間党勢が一貫して(構造的に)減退し、選挙のたびに得票数を減らしてきたことは周知の事実である。国政選挙の獲得目標も850万票から650万票に切り下げたにもかかわらず、それでも2021年衆院選では416万票に止まり、2022年参院選ではついに400万票を割って361万票にまで落ち込んだ。私の周辺の老いた「京童(きょうわらべ)」の間では、このままでいくと次期衆院選では200万票台に落ち込むことは必至だと囁かれている。

 

政治は「結果責任」の世界であり、選挙に負ければ党首や幹部が政治責任をとって退くのが世間の常識というものだろう。ところが、志位委員長は〝連戦連敗〟にもかかわらず、この当たり前の常識が通用しない。「政策は間違っていないので辞めるつもりはない」と強弁し、依然として党首の座に座り続けている。それどころか、結党100年を機にますます強気になり、機関紙「赤旗」の紙面は連日「志位一色」になる始末だ。新聞は斬新な企画と新鮮なニュースが生命であり、毎日同じ記事と同じ顔しか載らない新聞は読者に飽きられる。赤旗の減紙が止まらないのは、紙面が刷新されないからであり、読者を引き付けるニュースがないからだ。今国会本会議のテレビ中継も見たが、代表質問に立った志位委員長の姿は衰えを隠せなかった。精一杯声を張り上げていたものの、それに応える拍手もまばらで党勢の衰退だけが目立った(これは老いた京童共通の感想でもある)。

 

 2022年、日本共産党が結成されてから100年を迎えた。共産党が数々の記念行事を開催し、志位委員長の講演なども公表されているが、それよりも興味深いのは何冊かの「共産党本」(共産党を主題とする出版物)が一挙に出されたことだろう。発行順に並べると次のようになる。

 〇中北浩爾『日本共産党、「革命」を夢見た100年』(中公新書2022年5月)

 〇有田芳生・森田哲也・木下ちがや・梶原渉『日本共産党100年、理論と体験からの分析』(かもがわ出版2022年11月)

 〇鈴木元『志位和夫委員長への手紙、日本共産党の新生を願って』(かもがわ出版2023年1月)

 〇松竹伸幸『シン・日本共産党宣言、ヒラ党員が党首公選を求めて立候補する理由』(文春新書2023年1月)

〇有田芳生・池田香代子・内田樹・木戸衡一・佐々木寛・津田大介・中北浩爾・中沢けい・浜矩子・古谷経衡『希望の共産党、期待込めた提案』(あけび書房2023年1月)

 

 5冊の「共産党本」がほとんど同時に出版されたので読むのが大変だが、これらの出版物にはこれまでにない幾つかの特徴がある。政治学者の中北氏の著書は、これまで知られていなかった(隠されていた)史実が数多く明らかにされていて、「勉強になる」との評判だ。しかし、それ以上に京都在住の私にとっては、「かもがわ出版」関係の本が多かったのが驚きだった。「かもがわ出版」は京都では革新色の強い出版社として知られているが、そこから2冊が同時出版され、文芸春秋社から新書を出した松竹氏も「かもがわ出版」の編集長だった(現在は編集主幹)。加えて、著者の松竹氏と鈴木氏は党歴数十年の現役共産党員であり、しかも松竹氏は共産党本部の要職(政策委員会外交部長など)を歴任し、鈴木氏は京都府委員会の常任委員(政策委員長など)を長年務めていたことからも、その影響はこれまでになく大きい。

 

 目下のところ、共産党はこれらの出版物に対して表立った見解を表明していない。ただ、松竹氏が記者会見などを通して発表したことについては、「赤旗」(1月21日)が「規約と綱領からの逸脱は明らか――松竹伸幸氏の一連の言動について」と題する、藤田赤旗編集局次長の見解を公表した。趣旨は、(1)松竹氏の行動は「党の内部問題は、党内で解決する」という党規約に反する、(2)党首公選制は「各候補者が多数派を獲得するための活動をすることから、派閥・分派をつくることを奨励する」ので採らない、(3)松竹氏の主張は、「自衛隊は違憲という党の綱領の立場を根本から投げ捨て、自衛隊合憲論を党の『基本政策』に位置付けようという要求にほかならない」、(4)日本共産党に対して、日米安保容認、自衛隊合憲の党への変質を迫る議論は、総選挙以来、自民党や一部メディアによって執拗に繰り返されてきた攻撃であり、松竹氏の行動は〝日本共産党という党の存在に期待する〟といった装いを凝らしながら、こうした攻撃に押し流され迎合したもの、というものである。

 

 私は上記5冊の著書を詳細に読んでいるわけではないので、現在の時点では私見を差し控えるが、気になることはこの反論が党の正式決定文書ではなく、機関紙の編集長次長の名前で出されていることだ。機関紙の編集局は党の政策を決定する部局でもなければ、綱領や規約を審議する機関でもない。それがどうして松竹氏の主張や言動を「綱領や規約から逸脱している」と決めつけることができるのか。メディアも目下のところ、踏み込んだ論評はしていない。ただ、志位委員長が自らの見解は表明せず、赤旗編集局を前面に出して「責任逃れ」をしているのではないか――という点では一致している。以下は、日経(1月23日)と産経(1月23,26日)の関連記事である。

 

【日経1月23日】共産党の志位和夫委員長は23日、現役の党員が党首公選制の導入を求めていることについて党規約違反との考えを示した。同党の機関紙「しんぶん赤旗」が21日付で「規約と綱領からの逸脱は明らか」と題した論評を掲載した。志位氏は「的確な内容だ」と語った。共産党の現役党員の松竹伸幸氏は19日に都内で記者会見し、党員の直接投票による党首公選制の実現を訴えた。志位氏は2000年に委員長に就いた。20年以上にわたって在職しており「国民の常識からかけ離れていると言わざるを得ない」と主張した。党規約では党大会を「2年または3年の間に1回開く」と定める。代議員による選挙で中央委員を選出し、中央委員の中から委員長ら幹部を決める。

赤旗は21日付に藤田健編集局次長の署名記事を掲載した。松竹氏の言動に関して「『党の内部問題は、党内で解決する』という党の規約を踏み破るものだ」と批判した。共産党は「民主集中制」を組織の原則に掲げる。党の意思決定は「民主的な議論をつくし、最終的には多数決で決める」と定め、党内に「派閥・分派はつくらない」と規約に明記する。党首公選制は「この原則と相いれない」と指摘した。

志位氏は23日、記者団から党首公選制に関する見解を問われて「(赤旗の)論説に尽きている」と強調した。「赤旗にお任せして書いてもらった」とも言及した。

 

【産経1月23日】共産党が、記者会見で党首公選制導入などを訴えた現役党員の松竹伸幸氏に猛反発している。機関紙『しんぶん赤旗』は「党規約に違反する」と反論。現実的な安全保障政策への転換を求めたことについても、党が掲げる「日米安全保障条約廃棄」「自衛隊解消」に反すると退けた。志位和夫委員長は赤旗に同調する考えを記者団に示したが、独特な価値観が共産離れを招く可能性がある。「あの論説に尽きている。赤旗にお任せし、書いていただいた」。志位氏は23日、松竹氏の提案を「規約と綱領からの逸脱は明らか」と断じた赤旗を高く評価した。党首としての具体的な見解は口にせず、「論説に尽きている」と繰り返した。松竹氏の処分に関しては明言を避けた。

赤旗は21日付の編集局次長名の記事で、「党の内部問題は、党内で解決するという党の規約を踏み破るものだ」「(党首公選制は組織原則である『民主集中制』と)相いれない」などと松竹氏を批判した。また、松竹氏が日本の防衛戦略の姿勢である「専守防衛」を党の基本政策に位置付けるよう主張していると指摘した上で、「自衛隊合憲論を党の『基本政策』に位置づけよという要求に他ならない」と強調した。共産は立憲民主党などとの野党共闘再構築、党員や赤旗読者の増加を目指している。記事が示した見解が広く共感を集め、党勢回復に寄与すると考えるかと問われた志位氏は、「的確な内容だ」と断言した。

しかし、立民では自民党などと同じく党首公選制が採用され、執行部は日米安保条約や自衛隊を肯定的に評価している。改めて浮き彫りとなった共産の特殊性は、他党や国民の警戒を強めかねない。党本部勤務経験を持つ元共産党員は「(志位氏は)矢面に立たず説明を赤旗に丸投げしている。赤旗を読んでいない人たちへの説明意欲も感じられない。国民をますます遠ざけてしまうのではないか」と語った。

 

【産経1月26日】共産党の志位和夫委員長は26日の記者会見で、党首公選制導入などを求めた現役党員の松竹伸幸氏に関して従来の回答を繰り返した。志位氏は23日、松竹氏の主張を「規約と綱領からの逸脱は明らか」と批判した赤旗記事について、「的確な内容だと考えている」「論説に尽きている」などと高く評価していた。26日の会見では、記者が松竹氏の主張に触れつつ、志位氏に、ご都合主義との批判がある共産の「自衛隊活用論」への見解▽党勢が衰える中、委員長就任から20年以上が過ぎていることへの説明▽春の統一地方選に進退をかけるか-などを尋ねた。これに対し、志位氏は「松竹氏のさまざまな発言等々については(赤旗の)藤田健編集局次長の論説が出ている。それに尽きる。私としてそれ以上、言うことはない」と述べるにとどめた。

その上で、志位氏は「あなた自身の質問として提起してほしい。そうしたら答える。松竹さんがどう言っていた、こう言っていた、それについてこれ以上、私は藤田さんの言っていること以上に述べることはない」と要求。質問者が統一選について再び問うと、志位氏は「今、統一選の前進・勝利のために全力をあげているところだ。それ以上のことはありません」と答えたが、自身の進退には触れなかった。

 

 志位委員長が躊躇するのも無理はない。統一地方選を直前にしてこの問題に言及することは、党内に深刻な波紋を招く恐れがあるからだ。松竹氏の問題提起はもとより、京都では鈴木氏の『志位委員長への手紙』もよく読まれている。万が一、この問題が松竹氏や鈴木氏の除名にでも発展するようになったら、事態は収拾のつかない状態に陥る恐れがある。共産党が抜本的な議論をするのではなく、小手先の対応で事態を乗り切れると考えているとしたら、この認識はあまりにも甘すぎる。志位氏が党首の座に留まり続ける限り野党共闘は進展せず、岸田内閣は支持率の如何にかかわらず安心して政権運営できる状況が続くと思うからだ。

 

結党100年を迎えた今、共産党が今後も「革新の党」「変革の党」を標榜するのであれば、「自分の限界」を認識し、「変革のための若返り」を決断し、「党首交代」を実現して若い後継者に未来を託す以外に道はない――、これが老いた京童一同の率直な感想だ。しかし残念ながら、事態は反対の方向に向かっている。共産党は体質的には「革新の党」から「保守の党」となり、「変革の党」から頑迷固陋な「旧守の党」に後退しているかのようだ。この危機を憂慮する人たちが5冊の「共産党本」を世に出したのである。ならば、赤旗を前面に出して攻撃するような「墓穴を掘る」行為は止めるべきだ。オールドリベラリストをはじめ、心ある人たちはみんながそう思っている。(つづく)