総選挙に向けて早くもスタートを切った共産党、統一地方選挙の総活はいったいどうなる、共産党党首公選問題を考える(その14)、岸田内閣と野党共闘(53)

 次期衆院選を巡る解散・総選挙の情勢が混沌とするなか、共産党機関紙「赤旗」は2023年6月4日、1面トップで「総選挙に向けスタート、『もとから変える』党伸びてこそ」との見出しで、比例南関東ブロック候補を応援する志位委員長の街頭演説の様子を伝えた。

 ――日本共産党の志位和夫委員長は3日、横浜市の桜木町駅前で、総選挙での躍進に向けたスタートを切る街頭演説を行いました。志位氏は、日本の政治を「もとから変える」党――日本共産党が伸びてこそ平和と暮らしの切実な願いを実現できると語り、「総選挙で南関東から日本の世直しののろしを上げよう」と熱く訴えました。

 

 共産党は2023年5月13日の赤旗で、5月21,22両日に開催予定だった第8回中央委員会総会(8中総)を、「国会日程との関係で総会開催が困難になった」という(理由にならない)理由で6月中旬以降に延期すると発表したばかりだ。それが、今度はいきなり「総選挙に向けスタート」というのだから、統一地方選挙の総活もしないまま次期衆院選に突入するつもりなのだろうか。それとも延期した8中総を6月中に開催して総活をするというのだろうか。

 

 このところ、赤旗には立て続けに総選挙を意識した訴えが出るようになった。「総選挙募金・供託金募金にご協力をお願いします」(中央委員会5月31日)、「6月こそ『130%の党』、総選挙躍進への活動の飛躍を起こす月に」(7中総決定推進本部6月2日)などである。募金協力への呼びかけには、「比例代表650万票獲得」「衆院11ブロック現有議席絶対確保」「小選挙区・沖縄1区議席死守、全国で候補者積極的擁立」の目標が掲げられ、立候補者1人当たりの供託金は比例代表600万円、小選挙区300万円が必要だとされている。

 

2021年総選挙における共産党比例代表候補者は40人、小選挙区候補者は105人だった。比例代表候補者数を概ね前回通りだとすると600万円×40人=2億4000万円、小選挙区候補者は「全国289小選挙区の多くに積極的に擁立」としているので、仮に150人とすると300万円×150人=4億5000万円、供託金だけでも7億円近い資金が必要になる(供託金は有効投票総数の10分の1以上を得票すると返還される)。これに選挙運動費用1人当たり800万円~1000万円を加算すると、(800万円~1000万円)×190人=15億2000万円~19億円、合計22億1000万円~25億9000万円という巨額の資金が必要になる。必要な基金の積み立ては行われているというが、果たしてこれだけ巨額の選挙資金を用意できるのか、選挙資金が党財政を圧迫して党運営が困難にならないのか、いずれにしても疑問は尽きない。

 

さらに気になるのは、7中総決定推進本部による「総選挙躍進」への呼びかけだろう。8中総が開かれていないので新しい方針が出されず、その論旨はこれまでの主張の繰り返しでしかない。直近5月の党勢拡大の結果が依然として後退が続いているにもかかわらず、これまでの党勢拡大方針が相変わらず一本調子で繰り返されているのである(赤旗2023年6月3日)。

――全党のみなさん。政治の転換をはかるうえでも、「130%」をめざす党づくりにとっても、大きな勝負の月となる6月を迎えました。解散・総選挙含みの緊迫した情勢のもとで、国会が会期末を迎えようとしています。情勢の大激動をはらんだ6月、わが党は国民の中にうってでて、宣伝とたたかいを広げ、党躍進の風を起こそうではありませんか。

 

しかし、こんな勇ましい掛け声とは裏腹に、「130%の党」づくりの方針が第28回党大会(2020年1月)で決定されて以来、党勢は逆に〝後退一途〟をたどってきたのである。その経過を再掲しよう。

〇党員拡大は、第28回党大会後の2年6カ月で9300人を迎えたが、党員現勢は(死亡・離党者の増加で)党大会時比1万4千人余減、日刊紙1万2千人弱減、日曜版5万2千人余減、電子版で2千人余増となった(志位委員長幹部会報告、赤旗2022年8月2日)。

〇党員拡大は、2022年8月からの5カ月間で2064人を迎えたが、党員現勢は26万人で党大会時比1万人余減、赤旗読者は約90万人で10万人減となった(赤旗2023年1月6日)。

〇2023年1月の拡大成果、入党391人、日刊紙339人減、日曜版208人減、電子版86人増(小池書記局長報告、赤旗2023年2月4日)。

〇同2月の拡大成果、入党470人、日刊紙203人増、日曜版2369人増、電子版2人減、(中央委員会幹部会報告、赤旗2023年3月4日)。

〇同3月の拡大成果、入党342人、日刊紙1197人減、日曜版8206人減、電子版26人増(赤旗2023年4月4日)。

〇同4月の拡大成果、入党146人、日刊紙4548人減、日曜版2万3104人減、電子版8人減(小池書記局長全国都道府県委員長会議報告、赤旗2023年5月3日)。

〇同5月の拡大成果、入党230人、日刊紙945人減、日曜版7048人減、電子版11人増(赤旗2023年6月3日)。

 

注目されるのは、統一地方選挙の期間中においても赤旗読者の減少が止まらず(3月9377人減)、選挙後はさらに大規模な減少が生じていることである(4~5月3万5642人減)。この状況がどれほど深刻な事態であるかは、党機関紙活動局長が「赤旗読者拡大でなんとしても前進を」と訴えていることでもわかる(赤旗2023年5月30日)。

――「しんぶん赤旗」が、現状の延長線上の取り組みでは「130%」に向かって進むどころか、党員拡大とともに先月に続き5月も大幅後退になりかねない事態にあることを、全党のみなさんに率直にお伝えしなければなりません。しかも、このまま後退を続けるならば、いよいよ「赤旗」の発行自体が危機的事態に直面するギリギリの状況です。そして何より、解散・総選挙含みの緊迫した情勢のもとで、統一地方選挙の最大の教訓とした自力づくり――入党の働きかけを広げぬき、日刊紙・日曜版・電子版ともこの5月からの前進の軌道にのせることがどうしても必要です。

 

事態は極めて深刻であり、まさに〝党の存亡〟に関わる危機的状況にあると言わなければならないだろう。「130%の党」づくりを決定した第28回党大会から現在までの状況を要約すると、以下のような〝党勢後退一途〟の状態が明らかになる。

(1)第28回党大会(2020年1月)から3年間で入党1万1364人(年平均約3800人)を迎えたが、2023年1月現在の党員現勢は26万人で1万人余の減(年平均3300人以上減)となった。これは、この間の死亡者と離党者が約2万2000人(年平均7000人以上減)に達するためである。赤旗読者は10万人減(年平均3万3000人以上減)となった。

(2)2023年1月から5月までの直近5カ月間は、入党は1579人で従前と変わらないが、死亡者数が増えているので党員減少数(離党者を含む)は年平均8000人に達する可能性が高い。赤旗読者数は、日刊紙6826人減、日曜版3万6197人減、電子版113人増、計4万2910人減となり、すでに過去3年間の年平均3万3000人減を大きく上回って減少している。

(3)この傾向をトレンドすると、来たる第29党大会(2024年1月)には第28回党大会に比べて党員は1万5000人減の25万5000人、赤旗読者は20万人減の70万人になる公算が大きい。この数字は「130%の党」(党員35万人、赤旗読者130万人)を目指した第28回党大会の方針が完全に破綻したことを物語るものであり、抜本的な見直しと解党的出直しが要求される。

 

もし岸田政権が6月解散、7月総選挙に踏み切れば、共産党は中央委員会総会も開かず、統一地方選挙の総活もしないまま、次期衆院選に突入することになる。統一地方選挙での「手負い」のままで選挙戦をたたかうとなると、共産党は劣勢を回復する暇もなく、新しい方針を出すこともなく、さらに大きなダメージを被ることにもなりかねない。それでも志位委員長は、「政策は間違っていない」「党の自力が足りないだけだ」と言い張り、党首の座に居座り続けるのだろうか。歴史の審判はすでに下っているのである。(つづく)