2023年11月24日、総務省から「2022年政治資金収支報告」が公表された。翌25日の赤旗には、日本共産党中央委員会(党中央)の政治資金収支報告概要が掲載され、財務・業務委員会の岩井鐵也責任者の談話が発表された。その中で私が注目したのは、次の4点である。
第1は、収入総額(前年比94.7%)、支出総額(前年比96.3%)がともに数パーセント前後縮小したことである。このことは、資金面から見て党活動が総体的に後退していることを意味する。また収支差引で3億円を超える赤字が計上されたことは、財政状況が急速に悪化していることをうかがわせる。共産党の資金三本柱である党費(前年比94.9%)、機関紙誌収入(赤旗購読料など、前年比98.1%)、寄付(前年比39.7%)が全て縮小していることは、党勢が構造的に衰退しつつあることを示すものといえよう。
第2は、収入と支出の太宗を占める機関紙誌収入が目減り(前年比98.1%)しているにもかかわらず、支出は逆に増加(前年比103.1%)していることである。このことは、機関紙誌事業の収支採算が極度に悪化していることを示しており、党全体の財政危機につながる可能性が大きいと言わなければならない。
第3は、党中央の経常経費の縮小幅(前年比95.7%)に比べて、地方党機関交付金の縮小幅(前年比79.8%)が大きいことである。このことは、党中央よりも地方機関への資金減のシワヨセが大きく、地方の党活動が資金面(2割カット)で困難な事態に直面していることを想起させる。
第4は、党中央を含めて全国の地方機関に寄せられる寄付を総合計すると、毎年約80億円に上ることが談話の中で明らかにされたことである。このことは、党中央への寄付が「前年比40%」に落ち込んだ不安を打ち消すために言及されたのであろうが、「中央委員会の2022年の個人寄付は前年より減っていますが、これは亡くなられた党員・支持者からの遺贈が多い年と少ない年があるためです」との説明は、却って個人寄付の不安定さを示すものとなっている。
共産党の財政状況については、ホームページに「日本共産党の財政」として過去26年度分の政治資金収支報告(1995~2022年度)が公表されている。その中で一番古い1995年度の収支報告(志位書記局長就任から5年目、党員36万人、赤旗読者250万人)をみると、上田均財務・業務局長の次のような説明がある(要約)。
――日本共産党の政治資金は、憲法違反の政党助成金とも金権腐敗のおおもとである企業・団体献金ともまったく無縁です。日本共産党の政治資金は、党を構成している党員の党費、日本共産党が発行している新聞「赤旗」(機関紙)、週刊・月刊紙誌等の事業収入、党の支持者などから寄せられる個人寄付という3つの収入を財源の原則にしています。
――中央委員会の収支についていえば、収支全体のなかで機関紙誌等の事業活動の収入と支出が圧倒的に大きい比率を占めています。全国的には全党組織の資金を総合計すると、党費、機関紙、個人寄付はそれぞれほぼ3分の1ずつを占めていますが、中央についていえば「赤旗」など機関紙誌の発行元として事業収入と事業経費が多くなるのは当然だということです。
――日本共産党の収入は311億円となっており、各党の「報告」のなかでは1位です。しかし中央委員会の収入の圧倒的部分(89.4%)が機関紙誌の事業収入です。これは日本共産党が近代的組織政党にふさわしく機関紙中心の党活動を他党にくらべて抜群に発展させてきたことを示すものであり、「収入」とは「利益」ではなく、一般の事業でいう売り上げにあたるものです。事業経費を差し引いた「実質収入」は、政治資金収支報告での収入額の3割弱の88億円となり、自民党229億円、新進党135億円よりはるかに少なく、社民党83億円とほぼ同じくらいです。
この説明から推察すると、1995年度の実質的な機関紙誌収益は55.4億円(収入278億円-支出222.6億円、全党資金の3分の1)なので、党費は機関紙誌収入と同じく55億円程度(党員36万人、1人当たり年1万5千円)、個人寄付も同じく55億円程度となり、資金総計は165億円と考えられる。ここから党中央の88億円(53%)を差し引くと、地方機関の資金は77億円(47%)となる。また、帳簿上の党中央の収入は311億円、支出は306.4億円で4.6億円の黒字となり、繰越金は69.4億円に達している。1990年代の党財政は、潤沢な機関紙誌事業の収益に支えられて繰越金を積み増すなど、順調に推移していたと言える。
共産党の政治資金収支報告は、党本部ビル建設や赤旗印刷のカラー化などの新規投資によって大きく変動するが、それらの影響を除いた通常年度の党費・機関紙誌収入・個人寄付の推移を辿ってみると、その消長がよくわかる。本部ビル建設(2005年1月竣工)が終り、財政状況が通常に戻った2008年度(党員40万人、赤旗読者150万人)と1995年度(同36万人、250万人)を比較すると、この14年間に財政状況が大きく変貌していることに気付く。以下は、その概要である。
第1は、2008年度の収入総額は249億6100万円(1995年度比80.2%)、支出総額は250億875万円(同81.6%)、収支差引は4775万円の赤字、繰越金は22億2860万円(同32.8%)となり、収支は2割減、繰越金は7割減と大きく縮小していることである。これは、収入総額の86%を占める機関紙誌収入の減少が大きく影響している。
第2は、党員が40万人と1995年度から見かけ上増加(1割増)しているにもかかわらず、党費9億1603万円(1995年度比68.2%)、機関紙誌収入215億5847万円(同77.6%)が3割前後も減少していることである。これは、無理な党勢拡大運動の結果、当時から「実態のない党員」(いわゆる幽霊党員)が多数存在しており、それが党員数と党費・機関紙誌収入との大きな乖離をもたらしていたと考えられる(2014年には党員40.5万人のうち4分の1にあたる10万人が「実態のない党員」として整理され、30.5万人に修正された)。
第3は、機関紙誌収入が大きく減少(1995年度比▲62億3716万円)しているにもかかわらず、同支出がそれ以上に減少(同▲68億5555万円)しており、収益が61億4933万円(同△13億2461万円)に増加していることである。これがどのような原因(例えば印刷費の大幅合理化など)によるものかわからないが、機関紙誌収益が経常経費やその他の政治活動費を支える重要な資金源であるだけに、この段階ではまだ、機関紙誌収益の縮小が党機関や党活動の存続の危機に直結していなかったのであろう。
次に、2008年度から2022年度に至る14年間の変化を見よう。この間の変化は前半の14年間よりもさらに厳しいものとなっている。
第1は、党員と赤旗読者の減少が依然として止まらず、2022年度は収入総額190億9543万円(2008年度比76.5%)、支出総額194億6019万円(同77.8%)、収支差引3億2802万円の赤字、繰越金11億13万円(同49.3%)と財務諸表の全てが縮小していることである。この結果、収支は4分の1減、繰越金は半減し、党勢の衰退傾向はいまや動かしがたいものになっている。とりわけ、赤字が3億円を超えたことが注目される。
第2は、党財政の基盤である機関紙誌収入が166億5329万円(2008年度比77.2%)に落ち込み、機関紙誌収益が43億7070万円(2008年度比71.2%)に縮小したことである。党費も5億1435万円(同56.1%)と大きく減少し、党員減に比べてさらに落ち込みが激しい。これは、党員数の減少に加えて党員の高齢化が進み、党費減免対象者である低収入・年金生活者が増えたことによるものであろう。
第3は、機関紙誌収益と党費の縮小にともない、党中央の経常経費(2008年度比80.4%)と地方党機関交付金(同69.8%)が削減され、党活動の困難さが増していることである。全党で年間80億円に上る寄付がこれらの収入減をどれだけカバーしているかはわからないが、党専従者の生活支援募金の呼びかけが年々増えているところをみると、党組織の維持が「危機レベル」に達していることがうかがわれる。また、機関紙誌支出(同79.8%)も縮小していることから、赤旗の編集・印刷にも無視できない支障が生じていると聞く。最近、「赤旗記者」の募集広告を頻繁に見かけるのは、記者の早期退職が相次いでいるからであろう。
こうした状況を反映してか、2010年代末から2020年代初頭にかけて党財務・業務委員会責任者から悲痛な訴えが連続して出されるようになった。例えば、「しんぶん赤旗と党の財政を守るために」(赤旗2019年8月29日)、「しんぶん赤旗を守り党の財政と機構を守るために心から訴えます」(同2021年12月22日)、「財政の現状打開のために緊急に訴えます」(同2023年6月9日)などである。訴えの趣旨は、(1)2019年8月に赤旗読者が100万人を切った、(2)日刊紙の減紙で赤字がさらに増え、安定的な発行を続けることが困難な状況になっている、(3)日曜版の大きな減紙は機関紙誌事業の収入減につながり、日曜版収入でようやく支えている日刊紙の発行を困難にし、党中央財政と地方党組織財政の危機を招き、日常活動と体制維持を困難にしている、(4)しんぶん赤旗の危機は党財政の困難の増大そのものであり、危機打開のためには赤旗拡大を前進させる以外に道はない――というものである。
だが、赤旗読者はその後も減り続けて85万人にまで落ち込み、来年1月に開催される第29回党大会を目前にした現在においてもいまだ回復の兆しは見えない。「民主集中制」に基づく党運営は必然的に党中央組織の肥大化をもたらし、それを支える財政基盤を確立するための党勢拡大運動はいまや破綻寸前となっている。戦後における経済成長と人口増加にともなって形成された共産党の「20世紀成長型モデル」は、経済停滞と人口減少を迎えた今、次の「持続可能型モデル」への転換を求められている。次期党大会において如何なる議論が展開されるのか、その行方を注目したい。(つづく)