沖縄・大阪衆院補選における自民2敗は〝予定の行動〟だった、大阪維新はなぜかくも強いのか(3)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その151)

 

 統一地方選後半戦と沖縄・大阪衆院補選の結果が出た。統一地方選の結果については何れ論じるとして、今回は沖縄・大阪の2つの衆院補選に的を絞って考えてみたい。選挙結果についての各紙1面の見出しは「衆院補選 自民2敗(完敗)」というもので、いずれもが夏の参院選に対する影響の大きさを伝える内容だった。具体的には「政権『常勝』に陰り」(朝日)、「自民、参院選へ立て直し」(日経)、「自民完敗 参院選に危機感」(産経)、「自公2敗 安倍政権に打撃」(赤旗)など、かなり与党に厳しい論調となっている。

 

 だが、選挙情勢を深読みすると、安倍政権とりわけ首相官邸にとって今回の衆院補選における2敗は〝予定の行動〟だったと言えるのではないか。沖縄は最初から「負ける選挙」と諦め、大阪は敢えて「負ける選挙」だと位置づけていたので、選挙前から「自民2敗」はすでに織り込み済だったのである。自民党関係者が「今回の補選はそれぞれの地域事情に基づくものであり、夏の参院選にはさほど影響しない」と言うのはそのことを指している。

 

沖縄選挙がもはや利益誘導策では勝てないことは、自民といえどもわかっている。あれだけ民意を踏みにじってきたのだから、今さらどんな利益誘導策も通用しない。沖縄県民の誇りが許さないからだ。一方、大阪は少し事情が込み入っている。安倍政権の政治戦略からすれば、維新とりわけ大阪維新は改憲勢力の「盟友」であり、これを潰すことは絶対にできない。まして、安倍首相と菅官房長官は橋下氏や松井氏と酒食を共にする昵懇の間柄であり、個人的にもきわめて親しい関係にある。首相官邸が創価学会幹部と共謀して大阪都構想住民投票に漕ぎつけたのも、政府の総力を挙げて大阪万博の誘致に取り組んだのも、すべては維新を安倍政権の「手駒」として使うためだ。

 

 日本第2の都市大阪で、知事・市長という手駒を自由に使える政治効果は大きい。野党共闘を分断する上でも公明党を手なずける上でも、維新を自家薬籠中の物にしておくことは首相官邸にとって政権維持のための最重要事項といえる。これに比べると、自民の国会議員1人や2人を失うことなど物の数ではない。安倍首相や菅官房長官が大阪ダブル選挙で自民候補の応援に入らず、また衆院補選では「負ける」ことがわかってから首相(だけ)がアリバイ的に応援演説に入ったのは、すべてこの判断に基づいている。

 

 安倍政権にとって、大阪ダブル選挙や衆院補選で維新が息を吹き返し、野党に流れるかもしれない無党派票を食い止めることができればこれに越したことはない。そのためにも夏の参院選の橋頭堡ともいうべき大阪衆院補選で維新が勝利し、その勢いを強めることができれば「何倍もお釣りが返ってくる」と踏んでいるのである。可哀そうだったのは大阪自民だが、なにしろ「弔い合戦」としか言えないような旧い体質のままだから、こんな連中は切り捨てても仕方がないと思われているのだろう。

 

 ところで、大阪衆院補選にはもう一つ大きな問題がある。それは、共産の議席を投げ打って野党共闘候補として出馬した宮本氏が惨敗したことだ。宮本氏の得票数は1万4千票、得票率は9%で候補者4人中の最下位だった。

 

【大阪12区衆院補選確定票数】

        60,341(38.5%) 藤田文武 維新  

        47,025(30.0%) 北川晋平 自新、公明推薦

        35,358(22.6%) 樽床伸二 無前

        14,027( 8.9%) 宮本岳志 無前、共産・自由推薦

        156,751( 100%)

 

 毎日新聞と共同通信社などが共同実施した出口調査によると、宮本候補が惨敗した構図があからさまに浮かび上がってくる。以下はその要約である(毎日、京都19年4月22日)。

(1)大阪衆院補選で投票した有権者の政党支持率は、維新31%、自民27%、公明9%、共産5%、立憲民主4%、無党派層21%などである。ここで注目されるのは野党支持率の驚くべき低さであり、共産と立民を合わせても9%、これに数字としては上がってこない国民や自由を加えてもせいぜい10%余りにしかならない。これでは表向き「野党共闘」を掲げても、有権者にとってはせいぜい「弱小政党の集まり=烏合の衆」程度にしか見られないのではないか。

(2)宮本候補への支持政党別投票率は、共産支持層77%は当然としても、立民支持層27%、無党派層9%とあまりに少ない(国民はゼロ)。立民支持層の大半(57%)は樽床氏に流れ、無党派層は樽床41%、藤田37%、北川14%、宮本9%に分散している。つまり、宮本氏は「野党共闘候補」として位置づけられず、泡沫候補レベルの投票しか獲得できなかったのである。

※朝日新聞の出口調査でも、無党派層の投票先は樽床35%、藤田34%、北川22%、宮本9%とほぼ同じ傾向が出ている。また宮本氏は、「夏の参院選で野党共闘を進めるべきだ」と回答した投票者の中の僅か10%しか支持されていない。つまり野党支持者や無党派層の中の共闘推進派の中で、宮本氏はその代表として認識されていないのである(朝日19年4月22日)。

(3)大阪都構想に対する賛否は、藤田投票者が賛成93%:反対4%(以下同じ)、北川投票者42%:52%、樽床投票者53%:38%、宮本投票者34%:62%である。「大阪都構想の実現で大阪を成長させる」「維新はそのための改革の旗手になる」という維新のアピールが広く有権者に浸透し、宮本投票者の3分の1までが大阪都構想に賛成しているという世論状況が形成されているのである。この世論状況を勘案しないで「大阪都構想反対」一本やりの公約を連呼しても、有権者の耳にはなかなか届かない。大阪を元気にする政策提起をともなわない安倍政権批判や大阪都構想批判だけでは、有権者の心を掴むことができなかった――。このことが、維新圧勝の背景であり、宮本氏惨敗の原因である。

 

 これに対して、沖縄衆院補選では名実ともに野党共闘のレベルを超えた「オール沖縄」の共闘体制ができあがっている。そして「オール沖縄」は、普天間飛行場の辺野古移設に反対という強固な世論によって支えられている。屋良投票者の89%が辺野古移設に反対であり、無党派層の76%、公明支持層の31%、自民支持層の18%が屋良候補に投票している(毎日、同上)。無党派層による屋良候補投票76%と宮本候補9%との間には、「天と地の差」があると言ってもいい。

 

 ところが、2つの衆院補選の結果を受けて立憲民主党の長妻選挙対策委員長は、「自民党の失速を感じている。(今後は)野党共闘を強力に進めていきたい」と語ったという(読売19年4月22日)。また、共産党の志位委員長は「宮本候補を先頭とするたたかいは、今後に生きる大きな財産をつくった」と述べている(赤旗19年4月22日)。大阪衆院補選の惨憺たる結果からどうしてこれほどの能天気な総括ができるのか、その真意はいっこうに分からないが、低迷している野党支持率をそのままにして形式的な野党共闘を組んでも結果は目に見えている。沖縄のように無党派層はおろか保守層の一部までも引き寄せることのできる政策を共有することなしには、夏の参院選はおろか衆参同日選挙にも到底対応することはできないだろう。(つづく)