『日本共産党の百年1922~2022』にみる党存亡の危機、志位委員長はこの危機を打開できるか(その1)、岸田内閣と野党共闘(61)

 1990年7月に書記局長に選出され、2000年11月に委員長に就任した志位和夫氏(1954年生)は2023年8月現在、日本共産党の最高幹部を在任すること実に33年の長期に及ぶ。志位氏が委員長に就任して間もなく刊行された『日本共産党の八十年1922~2002』(2003年1月)の最終章「あたらしい世紀を迎えて――日本共産党と世界の進歩的発展の展望」は、こんな希望に満ちた言葉で結ばれていた。

 ――日本共産党は80年前、非合法の党として出発しましたが、今日、40万人をこえる党員、200万人近い「しんぶん赤旗」読者を持ち、発達した資本主義国の共産党のなかで最大の勢力の党となりました。(略)60年当時、資本主義国で最大の党だったイタリア共産党は、社会民主主義政党に変質をとげて脱落しました。フランス共産党はその後、得票率3~4パーセントの少数政党に後退しました。これに対して日本共産党は、一進一退はあるものの、90年代の選挙で一連の躍進を記録してきました。ヨーロッパの諸党のなかには消滅してしまった党や、機関紙の存続や民営化など、国民とのきずなを喪失するような状況も生まれています。ヨーロッパの有力な諸党が、旧ソ連との関係に弱点をかかえてきたことが大きな要因の一つとなって、その勢力を後退させるなかで、日本共産党がこんにち地歩をえていることは、政治路線の正確さとともに、国民とむすびついた党をうまずたゆまずつくるための、草の根における、全国の支部と党員の不屈の努力の成果です。(略)発達した資本主義国で活動する日本共産党の果たすべき役割は、21世紀の人類の進歩を展望したとき、かってなく大きなものがあります。

 

 それから20年、最近刊行された『日本共産党の百年1922~2022』(タブロイド判、2023年7月)の「むすび――党創立百周年を迎えて」は、八十年史が世界資本主義国共産党の中での日本共産党の存在を誇らしげに語ったのに比べると、一転して危機的様相が色濃く滲み出たものになった。そこでは、61年綱領確定以降の60年余は、「政治対決の弁証法」と呼ぶべき支配勢力との激しいたたかいの攻防の連続だったと位置づけられ、「世界に冠たる日本共産党」といった趣はもはやどこにも見当たらなくなったのである。

 

理由は明らかだろう。志位委員長就任後、21世紀に入ってからの20年というものは、党勢は40万人だった党員が26万人(3分の2)に減り、赤旗読者も200万人から90万人(半分以下)に減少するという「歴史的後退」が生じた20年だったからである。本来なら、21世紀前半の党の展望を示す百年史の「むすび」は、この歴史的後退に関する徹底的分析とそれを打開するための戦略を具体的に提起するものでなければならなかった。ところが「むすび」は、(事態の指導部責任を回避するためか)最近20年間の分析を意識的に避け、はるか昔の「60年余前」に比べて党勢は大きくなったというだけで、何一つ展望を示すことができていない。これは、百年史の執筆に関わった志位委員長の意向を反映したものであろうが、〝科学的社会主義〟を標榜する政党の分析とはとても言えない。

 ――2022年7月15日、日本共産党は創立百周年を迎えました。(略)この百年、党にとって順風満帆な時期はひと時もなく、たえまのない攻撃にさらされ、それを打ち破りながら前途を開く――開拓と苦闘の百年でした。この歩みは、日本共産党が社会の根本からの変革をめざす革命政党であることの証にほかなりません。(略八十年史)党の政治的影響力は、党づくりで飛躍的前進を開始した1960年代に比べるならばはるかに大きくなっています。全党のたゆまぬ努力によって、1万7千の支部、約26万人の党員、約90万の「しんぶん赤旗」読者、約2400人の地方議員を擁し、他党の追随を許さない草の根の力にささえられた党となっています。(略)全国各地で奮闘が続けられてきたものの、党はなお長期にわたる党勢の後退から前進に転ずることに成功していません。ここに党の最大の弱点があり、党の現状は、いま抜本的な前進に転じなければ情勢が求める任務を果たせなくなる危機に直面しています。

 

 百年史の特徴は、「むすび」でも再三再四指摘されているように、日本共産党の最大の弱点が〝党勢後退〟にあり、しかもそれが長期にわたって継続する〝構造問題〟に転化していることを認めざるを得なかったことだ。党創立百周年を目前にした第28回党大会(2020年1月)では、異例の2つの大会決議(第1決議・政治任務、第2決議・党建設)が採択され、第2決議では「党創立百周年までに、野党連合政府と党躍進を実現する強大な党=党員と赤旗読者を第28回党大会比130%の党をつくる」ことが明記された。だが、党勢は党創立百周年(2022年7月)までにおいてもいっこうに回復せず、それ以降も後退を続けている。以下、その推移を簡単に記そう。

 

〇2020年1月~2023年1月(赤旗2022年8月2日、2023年1月6日、志位委員長幹部会報告)

 党員現勢は約26万人(2023年1月)で、27万人余(2020年1月)から3年間で1万人余減少した(大会比4%減)。この間の新入党者は1万1364人(発表分)なので、逆算すると、死亡者・離党者は2万2千人余(年平均7600人余)と推定される。日刊紙読者現勢は約90万人(2023年1月)で、約100万人(2020年1月)から3年間で10万人減(大会比10%減)となった。

 

〇2023年1月~2023年7月末現在(赤旗各月初旬発表)

 新入党者は391人(1月)、470人(2月)、342人(3月)、146人(4月)、230人(5月)、234人(6月)、641人(7月)、7カ月間で計2454人となった。この間の死亡者・離党者を4200人余(年平均7600余人の7/12)と推定すると、7カ月間で1700人余減、前大会から1万2千人余減となり、党勢現勢は26万人を割った(大会比4%減)。

 日刊紙読者(電子版を含む)は、253人減(1月)、201人増(2月)、1171人減(3月)、4556人減(4月)、934人減(5月)、568人減(6月)、60人増(7月)、7カ月間で計7221人減。日曜版読者は、339人減(1月)、2369人増(2月)、8206人減(3月)、2万3104人減(4月)、7048人減(5月)、3930人減(6月)、247人増(7月)、7カ月間で計4万11人減となった。日刊紙と日曜版読者を合わせると7カ月間で4万7千人減、赤旗読者現勢は85万3千人(大会比15%減)となった。

 

 この数字は、志位委員長らの叱咤激励にもかかわらず、党勢拡大運動がいっこうに前進しない党組織のリアルな実態をあらわしている。第28回党大会で掲げられた党勢拡大目標は、党員35万人(130%)、赤旗読者130万人(同)に拡大するというものだったが、その後の経過は逆に後退の一途を辿り、3年半後の現在、党員26万人弱、赤旗読者85万人余と見る影もない状態に陥っている。

 

この非常事態を打開するためか、8月2,3両日にわたって全国都道府県委員長会議が開かれ、その模様は赤旗で大々的に伝えられた。8月2日は小池書記局長報告に続いて志位委員長の異例の「中間発言」があり、3日は小池書記局長の討論のまとめと志位委員長の閉会あいさつで終わった。2日間の報告と討論は、全紙5面にわたる膨大なものだったが、その内容は「拡大大号令」一色の平板的なものに終始した。一言でいえば、この間の党勢の歴史的後退の原因の一切を支配勢力からの〝反共攻撃〟によるものとみなし(内部要因や指導部責任にはまったく触れず)、「反共攻撃による影響を放置するなら、党の政治的・思想的な解体につながっていく危険もあります。同時に、攻勢的に対応するならば党の前進の力に転化することができます」(赤旗8月4日、志位委員長の閉会あいさつ)と強弁するものだったのである。次回は、その発言の内容についてもう少し詳しく分析しよう。(つづく)