超高齢化した党組織は2050年で〝自然死状態〟(生物学的生存危機)に直面するかもしれない、若者世代を迎えて党勢を立て直すには「開かれた組織」になるしかない、共産党はいま存亡の岐路に立っている(その17)、岸田内閣と野党共闘(82)

 党員現勢は、人数(量)と年齢構成(質)が公開されて初めて正確な実態を知ることができる。毎年3月に発行される国立社会保障・人口問題研究所編集の人口統計資料集『人口の動向、日本と世界』(以下、社人研資料という)は、目次が「Ⅰ 人口および人口増加率」「Ⅱ 年齢別人口」から始まっているのはそのためである。前回の拙ブログでは、入党者数と死亡者数から離党者数を割り出し、志位委員長在任中(23年2カ月)の党勢現勢の推移を算出した。しかし、年齢構成についてはこれまで一切公表されていないので、取り付きようがなかったのである。

 

 ところが今回、不十分ながらも党員の党歴構成が志位委員長の「開会あいさつ」で明らかになった。内容からして中央委員会報告として正式に公開すべきだと思うが、2024年1月現在の党歴構成は「10年未満」17.7%、「10~19年」14.0%、「20~29年」11.0%、「30~39年」8.0%、「40~49年」19.5%、「50年以上」29.8%というものである。党歴20年未満が3割、20~30年未満が2割、40年以上が5割という数字が示すものは、高齢者党員に著しく偏った「逆三角形」の人口構造そのものである。志位氏は、この状態を「60代以上が多数、50代以下がガクンと落ち込んでいる」と説明しているが、年齢構成については依然として曖昧なままにしている。年齢構成を明らかにすれば、党組織が〝超高齢化〟している深刻な実態が浮かび上がり、全党に動揺が広がることを恐れているからだろう。

 

 限られた資料から年齢構成を知るにはどうすればいいか。党規約上の入党資格は「18歳以上」だが、党員の入党年齢は個々バラバラで党歴構成から年齢構成を割り出すことが難しい。そこで平均入党年齢を暫定的に「25歳」と仮定して、年齢構成を割り出すことにした。「25歳」という平均入党年齢は、多くの関係者の意見を聴いて設定したもので、それほど間違っていないと思う。結果は「35歳未満」17.7%、「35~44歳」14.0%、「45~54歳」11.0%、「55~64歳」8.0%、「65~74歳」19.5%、「75歳以上」29.8%となり、65歳以上の「高齢者党員」が5割、75歳以上の「後期高齢者党員」が3割を占める結果になった。

 

 とはいえ、「党歴10年未満」の党員が必ずしも若い世代とは限らない。最近は拡大運動の行き詰まりから党員の近親者(親世代)を入党させる傾向が強まっていて、65歳以上の高齢者入党(とりわけ75歳以上)が増えているからである(末尾の備考欄参照)。こうしたことを勘案すると、党組織の高齢化はもっと進んでいて、高齢者党員が6割、後期高齢者党員が4割という水準に達しているかもしれない。

 

 志位委員長在任中の死亡者数(性別死亡者数は公表されていない)の推移を概観しよう。1990年代後半から党大会間の死亡者数が「開会のあいさつ」で公表されるようになった。第22回(2000年11月)から第25回(2010年1月)までは3万3442人(9年2カ月、年平均3648人)、第25回から第28回(2020年1月)までは4万5539人(10年、4554人)、第28回から第29回(2024年1月)までは1万9814人(4年、4954人)である。年平均死亡者数は、2000年代3648人、2010年代4554人、2020年代4954人と着実に増加してきている。

 

 党員数が減少しているにもかかわらず死亡者数が増えているのは、年齢構成が高齢化して死亡率(死亡者数/党員現勢)が上昇しているためである。男女合わせての党員死亡率は、2000年代0.94%、2010年代1.12%、2020年代(2024年1月現在)1.83%と急上昇しており、2020年代後半に2%を超えることはほぼ確実だと思われる。社人研資料「年齢(5歳階級)別死亡率」によると、死亡率2%は「男70~74歳人口」と「女80~84歳人口」の中間に位置するので、この死亡率から類推すると、遠からず党組織全体が「70代半ばの超高齢者集団」に移行していくことになる。同じく社人研資料「年齢(5歳階級)別平均余命」によれば、65歳人口の平均余命は男20.0年、女24.9年なので、現在の党員現勢25万人の5~6割を占める高齢者党員(10数万人)は、2050年までに全員亡くなることになる。換言すれば、党組織が人口学的に若返ることなくこのまま推移すれば、21世紀半ばには〝自然死状態〟(生物学的生存危機)に直面するかもしれないということだ。以下は、志位委員長在任中の死亡者数および死亡率の推移である。

 

 〇2000年11月~2003年12月(3年2カ月)、死亡者数9699人、年平均死亡者数3069人、第23回党大会

〇2004年1月~2005年12月(2年)、同7396人、同3698人、第24回党大会

〇2006年1月~2009年12月(4年)、同1万6347人、同4086人、第25回党大会

〇2010年1月~2013年12月(4年)、同1万8593人、同4648人、第26回党大会

〇2014年1月~2016年12月(3年)、同1万3123人、同4374人、第27回党大会

〇2017年1月~2019年12月(3年)、同1万3823人、同4607人、第28回党大会

〇2020年1月~2023年12月(4年)、同1万9814人、同4954人、第29回党大会

 〇2000年代(9年2カ月)、死亡者数3万3442人、年平均死亡者数3648人、死亡率0.94%(3648人/38万6517人)

 〇2010年代(10年)、4万5539人、4554人、1.12%(4554人/40万6千人)

 〇2020年代(4年)、1万9814人、4954人、1.83%(4954人/27万人)

 

 今大会の特徴は、党の「生存危機」にかかわる議論がまったく見られなかったことである。田村副委員長の中央委員会報告「『大運動』と前大会以降の党づくり到達点と教訓」「党勢拡大の新しい目標と方針について」(赤旗1月17日)は、当面の拡大目標の提起に終始し、人口学的視点からの党組織の長期的動向や課題設定に関しては何一つ触れず、無関心そのものだった。党組織存続の危機が四半世紀後に迫っているにもかかわらず、不破・志位体制以来の拡大方針が「百年一日」の如く繰り返され、それ以外の選択肢はまったく示されなかったのだ。以下は、田村報告の抜粋である。

 ――前大会以降、「130%」を一貫して掲げて党づくりに奮闘したことは、大きな意義をもつものでした。この目標を機関でも支部でも真剣に討議し、挑むなかで、「130%」を達成した支部も全国に数多く生まれています。目標に正面から挑んだからこそ、前回党大会時の党勢を回復・突破してこの大会を迎えた党組織も次々と生まれました。この流れをさらに生かすことが大切です。同時に、党の現状からみて、党勢を着実に維持・前進させること自体が、大奮闘を要する大仕事であることも明らかになりました。こうした到達点をふまえて、新たな大会期の目標を次のように提案します。

 ――第30回党大会までに、第28回党大会現勢――27万人の党員・100万人の「しんぶん赤旗」読者を必ず回復・突破する。党員と「しんぶん赤旗」読者の第28回党大会時比「3割増」――35万人の党員、130万の「赤旗」読者の実現を、2028年末までに達成する。第28回党大会で掲げた青年・学生、労働者、30代~50代の党勢の倍化――この世代で10万の党をつくることを、党建設の中軸にすえ、2028年までに達成する。1万人の青年・学生党員、数万の民青の建設を、2028年までに実現する。そのためにすべての都道府県・地区・支部が、世代的継承の「5カ年計画」と第30回党大会までの目標を決め、やりとげる。

 

 党勢拡大の「目標」や「計画」は、紙の上では幾らでもつくることができる。問題はそれを実行できるかどうか、そのための条件が備わっているかどうかである。田村副委員長は、この点で矛盾に満ちた報告をしていることに気付いていない。拡大の実態は「極めて厳しい」の一言に尽きるにもかかわらず、その一方で国際情勢の変化や自民党政治のゆきづまりを強調して「為せば成る!」と断言しているのである。この論法は、超高齢化していると党組織の現実を見ないで「野党外交」や「未来社会論」の展望を熱く語る志位委員長の論法とよく似ている。将来の夢を語るのは結構なことだが、目の前の現実に真正面から向き合わないことは、政党活動の「リアリズム」から逸脱していると思われても仕方がない。

 ――私たちの運動は大きな課題を残しています。それは党建設・党勢拡大が、一部の支部と党員によって担われているということです。入党の働きかけを行っている支部は毎月2割弱、読者を増やしている支部は毎月3割前後にとどまっています。現状では、大会決定・中央委員会総会報告の決定を読了する党員が3~4割、党費の納入が6割台、日刊紙を購読する党員が6割となっており、抜本的打開が求められています。(略)同時に、客観的条件という点でも、主体的条件という点でも、いま私たちが「党勢を長期の後退から前進に転じる歴史的チャンスの時期を迎えている」ことが全面的に明らかにされました。

 

 言うまでもないことだが、政治情勢の変化に応じて「変革の波」を引き起こすためには、それに見合うだけの体力がなければならない。しかし党員が高齢化の一途をたどり、党員現勢が最盛期の2分の1、赤旗読者が4分の1に後退している現在、情勢分析から直ちに政治方針を導き、それに見合う党勢拡大方針を提起し、拡大運動に党員や支持者を総動員するといったやり方は、いわば「高度成長時代の残像」ともいうべきものであって政治的リアリティがあるとは思えない。こんな時に、志位委員長や田村副委員長がいくら檄を飛ばしても「大言壮語」としか響かないし、党員や支持者の行動を促す力にもならないのではないか。

 

 それでは、党組織の現実はいったいどうなっているのだろうか。これまでは「赤旗を読む」「支部会議に出席する」「党費を納める」という〝党生活確立の3原則〟が党活動の基本であり、それを守らない党員は「実態のない党員」として離党処分の対象になってきた。前回の拙ブログは、不破・志位体制の下での「数の拡大」を至上目的とする拡大方針によって、20数万人もの「実態のない党員」が生み出されて大量の離党処分が行われたこと、それが党勢後退の基本的原因になってきたことを指摘した。また「実態のない党員」を生み出した拡大方針が、原因究明もされることなく現在まで継続され、さらにこれからも踏襲されていこうとしていることも指摘した。

 

 不破・志位体制から50年後の現在、党生活3原則を維持している党員は25万人の6割(15万人)に過ぎず、残りの10万人は党費も納めず、赤旗も購読していない。また党員拡大で動いている支部は2割弱(3千支部)、読者拡大を働きかけている支部は3割前後(5千支部)にとどまっている。当時、志位書記局長は「実態のない党員」問題を解決したことが「前衛党らしい党の質的水準を高めるうえでの重要な前進」になり、委員長になってからは「全党員が参加する党をつくろうという新たな意欲と機運を呼び起こした」と強弁した。だが今日の事態は、これらの発言には何の根拠もなく、離党者の大量発生に対する指導部責任を免れるための方便にすぎなかったことを明らかにしている。

 

 田村報告は大会決議として採択されたが、2028年末までに第28回党大会時比「3割増」すなわち35万人の党員、130万の「赤旗」読者の実現を達成する――という目標達成は容易でないだろう。低所得で年金生活を余儀なくされている多数の高齢者党員にとっては、党費や赤旗購読料の負担は大きく、「実態のない党員」にならざるを得ない状況が広がっているからである。また、支部の2~3割しか拡大運動に参加していないのは、思想建設の遅れといった理由からではなく、身体的不自由な高齢者党員が党全体の5割を占めているという実態の反映にほかならない。

 

 今後5年間で党員10万人、赤旗読者45万人を2~3割の実働支部(3~5千支部)で増やすことは、1支部当たり党員30人(年平均6人)、赤旗読者100人(同20人)近くを増やさなければならない。最近4年間の年党員増減数(年平均)は、入党者4千人-死亡者5千人-離党者4千人=5千人減であり、赤旗読者は4年間で15万人(年平均3万7千人)減となっている。このようにもはやエンジンが老朽化して動けず、坂道では逆に後退していくような党勢の動きを止めることは容易でない。党中央からは相変わらず「全支部が活動すれば目標を達成できる」といった檄がとばされているが、こんな現実の姿を見ない「たられば」の空理空論はもはや通用しない。動きたくても動けない高齢者党員が党組織の多くを占めているからである。

 

 こうした状況が広がっているにもかかわらず、党中央主導の拡大運動が今なお是正されないのはなぜか。そこには「身体部分」がやせ細っても「頭部」だけが大きい共産党独特の組織構造が横たわっている。「民主集中制」の組織原則の下に運営される党組織は、必然的に党中央の図体が大きくなり、組織改革が進みにくい体質を有している。その結果、指導部の世代交代がなかなか進まず、特定の指導者の影響が長年にわたって続き、政策や方針が刷新されにくくなるという結果をもたらしている。50年余に及ぶ不破・志位体制は、その典型だといえるのかもしれない。

 

 田中均元外務審議官は、毎日新聞(2024年1月23日)の「時代を見る目」で自民党の裏金問題を題材に、日本の議会制民主主義や政治家の質の劣化の原因を論じている。その中で1994年の政治改革法により(自民党では)党中央の力が強くなり、「最高権力者であった人が権力の座を降りても引き続き強い影響力を行使続けるならば、世代交代は起こらず、思い切った改革、政策イニシアティブは出てこない」と指摘している。旧日本軍の『失敗の本質』を解明した野中郁次郎一橋大学名誉教授は、日経新聞(2023年10月8日)の「直言」欄で「数値偏重では革新起きず」との興味深い問題提起をしている。骨子は「数値目標の重視も行き過ぎると経営の活力を損なう」「計画と評価ばかりが偏重されると実行との改善に手が回らない」「計画や評価が過剰になると身体知(本質的な力)が劣化する」「計画や評価は高度成長期には躍進の原動力だったとしても、今では成長を阻害する原因となっている」というものである。また仏教学者の末木文美士氏は、毎日新聞オピニオン欄(2024年1月10日)「宗教と社会の今を考える」というテーマで旧統一教会や創価学会の問題を論じている。その中で「共産党は党員の高齢化が進んでいるようです。創価学会も新規の会員が増えているとはあまり聞きません」との質問に対して、「どちらも、2世や3世の若手はいても、これまで全く縁のなかった人が入る例は少ないのでしょう。個人単位の時代に、旧来型の組織形態が合わない面があるのかもしれません」と答えている。

 

これらの有識者の指摘は、共産党にもそのまま当てはまるのではないか。数値目標が重視され、目標達成のための計画と点検が偏重されるようになると、行動が軽視され、本質的な力が失われる。数値目標は高度成長期には「躍進」の原動力だったが、今では成長を「阻害」する原因に転化している――、まさにその通りだろう。個人単位の時代には「旧来型」の組織形態が合わないという指摘も頷ける。今大会では「1万人の青年・学生党員、数万の民青の建設を2028年までに実現する」と決議されたが、共産党綱領に学び、「民主集中制」を組織原則とする規約の下では、民青が若者世代を引きつけることは容易でないだろう。〝解党的出直し〟という言葉がある。この言葉には、まるで「共産党のため」と思えるほどの強い響きがある。マスメディアや世論をいたずらに敵視することなく、市民社会の流れに沿って自らの体質改善につなげる――これ以外に共産党再生の道はないと思うが、どうだろうか。

 

 (備考)最後に党員死亡数に関する資料として、赤旗に毎日掲載される「党員訃報欄」を挙げておきたい。党員訃報欄には死亡者氏名、死亡年齢、入党年、在住地などが記されているが、本人や遺族が望まない場合は掲載されないので、その数は実態よりかなり少ない。筆者は2017年1月からカウントを始めたが、第28回党大会公表の3年間(2017年1月~2019年12月)の死亡者数と比較すると、死亡者1万3823人に対して掲載数5257人、掲載率38%となる。第28回から第29回党大会に至る4年間の掲載数7442人だから掲載率38%とすると、4年間の推計死亡者数1万9584人(7442人×100/38)となり、この数字は第29回発表の死亡者数1万9814人とほぼ一致する(誤差230人)。したがって、掲載率は年によって多少変動するかも知れないが、赤旗掲載数から死亡者の大まかな動向を把握することは不可能ではない。以下は、赤旗に掲載された死亡者の基本属性である(2017年1月~2024年1月、7年1カ月)。この数字の2.6倍(100/38)が推計死亡者数となる。

 

(1)死亡者数、計1万2882人、男8833人(68.6%)、女4049人(31.4%)、男が女の倍以上となっている。2017~2021年までは年平均1700人台だったが、2022年からは1900人台に増加している。

(2)死亡年齢、「70歳未満」1075人(8.3%)、「70~79歳」3498人(27.2%)、「80~89歳」5175人(40.2%)、「90歳以上」3134人(24.3%)、80代と90代が合わせて3分の2を占めていて長命者が多い(100歳を越える場合も珍しくない)。

(3)入党年、「~1959年」2084人(16.2%)、「1960~79年」7459人(57.9%)、「1980~99年」1339人(10.4%)、「2000年~」2000人(15.5%)、党員の「団塊世代」ともいうべき60年代と70年代の入党者が死亡者の6割近くを占める。「2000年以降」が6分の1近くを占めているのは、高齢入党者が多いためである。

(4)在住地、「北海道・東北」1941人(15.1%)、「関東」4245人(33.0%)、「中部」1898人(14.7%)、「近畿」2898人(22.5%)、「西日本」1900人(14.7%)、関東と近畿で6割近くを占め、それ以外の地方は6分の1程度で分散している。(つづく)