立憲民主党代表選を巡る世論動向のいま、〝保守中道路線〟が強まる中で野田氏が台頭、泉氏が埋没、共産党はいま存亡の岐路に立っている(その35)、岸田内閣と野党共闘(100)

 自民党総裁選と立憲民主党代表選に関する各社の8月世論調査がほぼ出揃った。自民党に関しては石破氏と小泉氏が1,2位を争い、高市氏が3位につけている。前評判の高かった河野氏は4位に入るのがやっとで、真っ先に手を挙げた小林氏もそれほどの人気はなくて期待外れだ。政権政党の党首選は、若くて見かけが良ければ人気が出るといった単純なものではないらしい。自民総裁選を巡る世論動向はかなり複雑で奥行きが深く、動向を見極めるのにはもう少し時間がかかりそうだ。

 

 これに対して、立憲民主党代表選の方は意外な展開を見せている。これまで選挙情勢はもっぱら泉氏と枝野氏を中心に推移してきたが、最近になって野田氏が急浮上している。毎日、読売、産経各紙の8月世論調査は、いずれも野田氏がトップになり、枝野氏が2位、泉氏が3位となった。注目すべきは、その差がかなり開いていることだ。毎日=野田27%、枝野14%、泉7%、読売=野田25%、枝野15%、泉8%、産経=野田20.1%、枝野16.4%、泉6.6%と、結果は驚くほど似ている。

 

 読売新聞は「本社世論調査、『次の立民代表』野田氏25%、枝野氏15%、泉氏8%」との見出しで調査結果を以下のように報じた(8月26日、要約)。

 ――読売新聞社が23~25日に行った全国世論調査で、次の立憲民主党代表にふさわしい政治家を聞いたところ、1位は野田佳彦・元首相の25%だった。2位は枝野幸男・前代表の15%で、泉健太代表は8%で3位になった。立民支持層に限ってみると、野田氏が4割弱、枝野氏が2割強、泉氏が2割弱の支持を集めた。無党派層に限ると、野田氏が20%、枝野氏が18%、泉氏が5%だった。野田氏への期待が高く出たことについて、野田氏周辺は「9月の自民党総裁選で若手候補が注目を集める中、野党第1党の党首に経験や安定感を求める人たちが、野田氏を支持しているのではないか」と話した。

 

 各紙が世論調査を行った8月23~25日時点では、野田氏と泉氏は出馬表明もしていないし、政策発表もしていない。にもかかわらず、なぜ野田氏が世論調査のトップに躍り出るのか。私は、その背景について(まだ仮説段階ではあるが)次のように推察している。

 (1)枝野氏の保守中道路線への転換によって立憲民主党代表選の性格が一変し、党内の対立軸が基本的になくなった。その結果、立憲民主党と「新しい自民党=自民党改革」を掲げる自民党との違いがなくなり、立憲の中でも自民に近い候補者が有利な立場に立つようになった。要するに、立憲民主党代表選は事実上、自民党総裁選の「1分派」として争われることになったのである。

 (2)そうなると、政権運営の経験がある野田元首相が代表選で浮上するのは当然のことと言える。松下政経塾出身の野田氏は、集団的自衛権の行使容認を主張する極め付きのタカ派であり、財務省の意を受けて自民・公明とともに消費税増税を強行した骨の髄からの保守政治家だ。自民党候補者の間で裏金問題を巡って決着がつかず、不透明な形で党首が選出されるようなことになれば、野田氏が「政治とカネ」問題を解決できるリーダーとして一躍クローズアップされることになるだろう。

 (3)枝野氏が野田氏に対してどのような形で差別化を図るかは目下不明だが、泉氏に関して言えば、20人の推薦人を集めて代表選に出馬することは極めて困難になったということだ。泉氏は政策面で野田氏との違いを出すことができず、政界では「小物」で片づけられる程度の存在でしかないからである。

 

 野田氏がクローズアップされる背景には、維新との関係が急接近していることも一つの要因に挙げられる。政界に大きな影響力を持つベテラン議員の小沢一郎氏は、「(立憲民主党の党首は)国民民主党や日本維新の会と連携できるリーダーが望ましい」「選挙間近ということを考えると、やはり国民民主党あるいは維新の方々、どのように連携していけるかと。そういうリーダーと、そういう執行部を作れるかどうかが判断のポイントだ」(朝日テレビニュース、8月26日)と述べ、従来の共産党を含めた野党共闘路線にこだわらない態度を示した。

 

 一方、維新の側にも野田氏にすり寄らなければならない事情がある。8月25日投開票の箕面市長選では、維新結党後初めて公認の現職市長が敗れた。それも対立候補の3万2千票に対して1万4千票もの大差をつけられるという大敗ぶりだった。敗因は、大阪・関西万博の経費増額や工事の遅れなどに対する批判に加えて、パワハラ疑惑で連日追及を受けている斎藤兵庫県知事の居直り問題が大きく影響している。馬場維新代表は、昨年4月の統一地方選で躍進するや立憲との国会共闘関係を解消し、「立憲をたたきつぶす」「維新は第二自民党でいい」などと豪語するまでに増長していた。それが自民の裏金問題によって状況が一変し、朝日新聞8月調査(24,25日実施)では維新支持率が2%にまで急落した(朝日新聞、8月28日)。維新は支持率回復のために立憲と手を組み、野田氏に抱き着いて次期衆院選を戦わざるを得なくなったのである。

 

 枝野氏の出馬表明以来、共産党には目立った変化が見られない。というよりは、この情勢に対応する方針を打ち出せないままの状況が続いている。8月26日には小池書記局長が国会内で記者会見したが、内容はこれまでの主張の繰り返しで、枝野氏の方針にはまったく触れなかった(赤旗8月27日、要旨)。

 ――立憲民主党の代表選挙を巡り、2021年の総選挙で日本共産党と立憲民主党が「限定的な閣外からの協力」で合意したことが失敗であったかのような報道がされているとして、「事実にまったく反する」と述べました。日本共産党が「野党共闘で政権交代をはじめよう」と訴えたことは、自公政治からの転換を求める国民の声に応えるものだったと述べました。小池氏は、市民と野党の共闘は発展途上にあると述べた上で、「政治を変える道は共闘しかない。これまで築き上げてきた合意、公約を誠実に守り抜き、野党共闘の大義を発展させるために今後も力を尽くしたい。そのためにも共産党そのものを躍進させることが何より重要だ」と語りました。

 

 また、田村智子委員長は8月27日、共同通信加盟社論説研究会で講演し、次期衆院選での自民党政権打倒に意欲を見せた。「古い政治を打ち破る大きな一歩となるよう、覚悟を固めて臨みたい」と述べ、立憲民主党など他の野党との連携を促進したい考えも示した。田村氏は立民と共闘した21年衆院選で両党が議席を減らした結果に関し「政権交代を問うところまで進んだ。失敗ではない」と重ねて強調。7月の東京都知事選などで展開された「立憲共産党」批判には「市民と野党の共闘は、妨害があっても乗り越えて前に進める」と主張した。自民裏金事件に「トップが代われば問題が清算できるものではない」と追及を続ける意向を示した(共同通信ドットコム、8月27日)。

 

 小池・田村両氏の見解は、立憲民主党などとともに従来通りの「野党共闘を進める」というもので、それ以外の選択肢は示していない。一方、志位議長は8月27日、国会内で記者会見し、8月29日から9月10日までベルリン、ブリュッセル、パリを歴訪し、欧州の左翼・進歩諸党と交流し、平和のための国際連帯をはじめ一致する課題での協力関係の強化を目指すことを明らかにした(赤旗、8月28日)。自民・立憲の党首選挙を目前にして志位氏が欧州歴訪の旅に出ることは、この間の党首選挙に共産党がコミットすることなく「静観」することを意味する。共産党の影はますます薄くなるばかりである。(つづく)