あとは野となれ山となれ!、(福田辞任解散劇、その2)

 福田辞任解散劇は、「客観的に自分を見ることのできる」福田首相自身が描いた稚拙なシナリオだった。彼が自民党集会の席上で「ワクワクするような総裁選挙をやってほしい」といったように、自民党の総裁選挙を民主党の代表選出の日程にぶっつけ、自公政権の行き詰まりや無責任な政権投げ出しを「小泉型劇場政治」の手法で乗り切ろうとしていたことはまず間違いない。

 そしてその後の政局の展開は、一時は「福田シナリオ」の通り進行しているかに見えた。すでに「出来レース」で本命は決まっているはずなのに、NHKはもとより民放テレビ各社も挙って「自民党総裁選挙特集」を組み、売名目的の泡沫候補でさえチヤホヤと取り上げる始末。とにかく国民を目眩ませるための「お祭騒ぎ」いや「乱痴気騒ぎ」がはじまったのである。

お祭騒ぎにはそれ相応の踊り手が必要だ。それも外見で人目を引くような踊り手が効果的だ。そこで「マダム回転寿司」といわれる紅一点の女性候補、灰色の原子力潜水艦の「鮫(シャーク)」のような不気味な雰囲気を漂わせる元防衛大臣、「一点の私心もない!」と大声を張り上げるだけで政策をまったく語らない若手候補などの「脇役」が次から次へと起用され、遂には小泉元首相までが踊り手のひとりとして登場する有様である。

だが「刺客騒ぎ」に明け暮れた郵政選挙のときの総裁選挙とは違って、今回の総裁選挙はいっこうに盛り上がらない。これでは総選挙の前哨戦として華々しく打ち上げた総裁選挙の意味がなくなってしまう。自民党員でもない国民を前にした全国各地での街頭演説でも、前回は「純ちゃん」を一目でもみたいと思う興味本位の人たちが大勢群がったが、今回は自民党関係者の動員ばかりで派手な声援ひとつ飛ばない。第一、いつもは動員の主力になる公明党創価学会関係者が今回はそっぽ向いているのである。
 
 しかし自民党の総裁選挙が盛り上がらない本当の原因は、候補者の顔ぶれやマスメディア対策の不足にあるのではない。それは総裁選挙と相前後してきた輸入汚染米の底知れぬ拡がりや、昨夜から突如浮上したアメリカのリーマン証券の経営破綻など、小泉改革路線の破綻が否応なく国民の目の前に明らかになってきているからだ。保育園の給食や病院・介護施設の給食に用いられたもち米からは、基準値の数倍にもあたる有害農薬が検出されたというし、国民的人気のある芋焼酎の米麹にも使われていたというのだから、大人にとっても子どもにとっても汚染米事件はもはや日々の最大の関心事になっているのである。

 汚染米が現在自由に流通しているのは、小泉時代に食糧法が改訂されて規制緩和され、米の流通や販売を扱う業者が登録制から届け出制(一定量以下なら無届け制)に変わったことが基本的な原因だ。それ以降、農水省の食料事務所は事実上「どんな業者」にでも汚染米を叩き売りするようになった。まともな国産米に比べて破格の低価格で手に入る汚染米は、これら悪徳業者にとっては「打ち出の小槌」になったのである。そして少しでも原材料の経費を節約したい施設経営者や食品メーカーが、これら「食用米」に飛びついたのはいうまでもない。

 汚染米事件がよりクローズアップされているのはそれだけではない。何よりもその立役者が、「食の安全行政は消費者がやかましいからやる」、「汚染米については人体に影響しない低濃度なのでじたばた騒いでいない」などと平然と発言する太田誠一氏が担当の農水大臣だからだ。福田辞任がなければ、事務諸経費問題でもうとっくの昔に罷免されていたはずの太田氏が「最後の任務」をいまだ全うしているところに、福田政権の無責任極まりない体質が余すところなく露呈されているというべきだろう。

 リーマン証券の経営破綻の日本経済に与える影響はもっと深刻だ。負債総額が64兆円に上るというから、日本の年間国家予算の3分の2にあたる巨額の倒産である。リーマン証券といえば、日本ではホリエモンの会社買収資金を提供して100億円を上回る利益を得たというが、そんな博打まがいの経営とサブプライムローンを組み入れた金融商品を世界中にばらまいてきたツケが今頃回ってきたのである。

 アメリカの金融不安にともなってこれから(今日からも)日本の株価が暴落し、アメリカへの輸出不振など日本の経済を支えてきた根幹が揺らぐようになると、自民党が「小泉改革路線を続行する」と能天気に叫んでいるだけではもはや総裁選はもたなくなる。労働者の賃金を限界にまで切り詰め、格安の輸出価格で世界市場を席捲してきた外需主導の経済政策が劇的に破綻しているその時に、これを打開する政策も能力も人材も持たない自民党はもはや捨てられる以外に運命がないからだ。(続く)