地方公務員100万人の臨時雇用で麻生予算の組み替えを、(福田辞任解散劇、最終回)

 歳末ギリギリになっても、この頃は日々「派遣切り」や「雇い止め」一色の暗いニュースばかりだ。厚生労働省の発表によれば、来年3月までに職を失う派遣労働者数がつい先日の3万人台から一挙に8.5万人に跳ね上がった。また大和総研は、金融危機の深刻化を背景とする急激な景気後退に伴い、2008年11月から09年6月までの8カ月間で非正規労働者を含む170万人の雇用が削減される可能性があると25日に発表している。すでに08年11月現在の完全失業者数は256万人、これに170万人が加わるとなると、半年後の失業者数は426万人、失業率は6.5%に急上昇することになる。

 こんな情勢の下で、麻生内閣はかってない規模の「生活経済防衛予算」を組んだというが、肝心の大企業の派遣切りや雇い止めを食い止める手立ては何ら打っていない。大元の大企業のやりたい放題の首切りを放任して、その後始末対策だけをやるというのでは、「生活防衛」どころか、まるで「底の抜けたバケツ」に水を注ぐようなものだ。派遣労働を原則自由にした派遣労働者法を改訂して一刻も早く元の姿に戻すこと、そして当面の緊急雇用対策を大規模に打ち出すことが何よりも必要だ。

 私は来年度の当初予算を組み直してバラマキ給付金2兆円と道路特定財源1兆円を振り替え、計3兆円を当面の緊急雇用対策予算として確保して、地方自治体の臨時職員を100万人雇用することを提起したい。こうすれば1人当たり年収300万円として100万人雇用すれば年間予算は3兆円で済み、失業者と派遣労働者のなかでも最も深刻な状況に直面している人たちの相当部分を吸収できる。自治体での職務は事務職、現業職でもいいし、労働力が極度に不足している民間福祉施設へ派遣してもよい。要するにかっての失対事業の拡大版を大々的に実施するのである。そして行き過ぎた民営化と行政リストラを将来にわたって是正していく切っ掛けとするのである。

 しかし新聞各紙やテレビの報道は、路頭に放り出された派遣労働者の惨状を伝えながらも(このこと自体は1歩前進だが)、その解決策については一向に方針を示そうとしない。また大企業の首切り計画については「事実報道」「客観報道」として伝えるだけで、その事態をメディアとしてどう把握し評価するかについての論説や解説がまったくない。自ら批判的に伝える能力がないのであれば、それに代わる気の利いたコメントでも取材すればよいのだが、それもしようとしない。これでは「社会の木鐸」としての役割を放棄したのも同然だ。

 つい先日も、日本経団連で労使問題を担当する副会長が来年の雇用情勢に関する記者会見で、企業のリストラが非正規労働者にとどまらず正規職員にも広がる可能性を「前宣伝」したが、その記者会見を批判的に伝えたメディアは皆無に近かった。経団連記者クラブで常日頃から事務局の資料提供と資料解説を受けていると、この程度の記事しか書けないナマクラ記者になってしまったとでも言うのだろうか。

 おそらく経営者団体もマスメディアも現状に対する本当の意味での危機意識がないのだろう。普通の国民感覚からすれば、働く意欲と能力を持った労働者が景気変動ひとつで路頭に放り出されるような状況はまさに「危機そのもの」に他ならないが、経団連などからすれば、そのような事態は痛くも痒くもないのであって、ただただ企業経営の現況や景気見通しだけが関心の的なのである。そしてこの国の労働者は「羊」のようにおとなしく、また労働組合の組織率は20%に満たず、しかもその中核部分は大企業の正規従業員クラブの「連合」で占められているので、経営者がいかに振舞おうともその支配体制が揺らぐことはないとタカをくくっているのであろう。

 だが現在の事態を甘く見てはいけない。確かに今の若者はおとなしい。また失業や首切りは「自己責任」だと思い込まされているので、極限状態に置かれてもどう行動すればよいのかわからない。しかし経営者がこのような状態がそのまま続くと思っているのであれば、それは麻生首相に輪をかけた“KY資本家”だといわなければならないだろう。若者は学習する力と行動するエネルギーを持っているのであって、すでにその前兆は各地で現われている。なにしろ全労働者の3分の1の1800万人が非正規労働者であり、昨年度の派遣労働者は過去最高の384万人に達しているのである。

 このような日本における非正規労働者のマス状態は、先進国の中でも群を抜いた存在だ。アメリカのような人種や階層によって労働者の連帯が分断されている国とは違って、日本の労働者はまだまだ均質性が強く平等主義も根強い。だから一旦意識や行動が組織されれば、そのマス状態と行動力は経営者団体やマスメディアの想像を超える巨大なエネルギーを発揮するだろう。

 目下、政界やマスメディアの関心はもっぱら与野党間の政局再編に集中しているが、本当の政治・社会変動は非正規労働者のマグマによって生じるものであることに留意しなければなるまい。おそらく来年は国会レベルではなく、戦後有数(最大)の政治・社会変動が起こる年になることは確実だ。そしてその時は「福田辞任解散劇」から「麻生辞任解散劇」へと政局が劇的に移行するときでもある。(終わり)