非正規労働者を激増させ、若者を結婚できない状態に追い込み、子どもの貧困を野放しにしながら、「ストップ少子化戦略」を謳う究極の矛盾、日本創生会議の「人口急減社会=地方消滅論」を批判する(その3)

次に提言の内容を見よう。まず提言の第1目標は「国民の『希望出生率』を実現する」ことであり、そのために第1段階として2025〜30年に生涯子ども数1.8人を実現し、次に第2段階として2035〜50年に人口置き換え水準の2.1人を達成することになっている。そうすれば2090年人口は1億人に及ばないが9千万人台で一応安定することになり、なんとか目標をクリアーできるというわけだ。

この数値目標は単なる図上計算にすぎないから、実現すればそれはそれに越したことはない。だが最大の問題は、それを実現するための「ストップ少子化戦略」にどれだけの政策リアリティがあるかということだろう。ストップ戦略では「若者(男女)が結婚し、子どもを産み、育てやすい環境を作る」といった政策が掲げられ、その第1項目に「若者・結婚子育て年収500万円モデル」を目指した雇用・生活の安定が謳われている。そしてモデル実現の方策として、「政労使会議での議論等を通じて、非正規のキャリアアップ・処遇改善に向けて、『多様な正社員制度』の導入をはじめ多様な形態の正規雇用の実現・普及を促進すべきである」と書かれている。しかし現実はどうか。

総務相を歴任した増田氏なら知らないはずがないと思うが、総務省によると、非正規社員数は1990年の881万人(全体の比率20%)から2013年の1906万人(37%)へ2倍以上に増え、しかも直近の2014年1〜3月期には1970万人と5期連続で増加して、前年同期に比べて100万人も増えている。その一方で正規社員は3223万人で前年同期より58万人も減っており、非正規社員は減るどころか、正規社員から非正規社員への流れがいっこうに収まっていないのである(毎日新聞、2014年7月6日)。

一般に少子化の原因は非婚・晩婚による少産化にあるといわれるが、この点で決定的なのは、非正規就業者は男女を問わず正規就業者に比べて未婚率(結婚しない・できない比率)が著しく高いことだ。厚生労働省の数字で見ると、30歳代男子の未婚率は正規31%:非正規76%、同女子の未婚率は正規22%:非正規47%で、非正規は正規の半分も「結婚できない」という厳しい現実に置かれている。これが40歳代になると、男子では正規15%:非正規46%、女子では正規6%:非正規22%となってその差はさらに広がる(厚生労働省、『社会保障を支える世代に関する意識等調査報告書』、2010年)。

新聞社説で「働く人を使いつぶすな」(毎日新聞、2014年8月4日)といった悲惨な現実が繰り返し糾弾されているのが日本の現実だ。雇用制度を破壊して非正規就業者を大々的に増やし、人間の尊厳を否定して労働力を使い捨てにし、若者が結婚できない状況に追い込んできたのはいったい誰なのか――。こんな「ブラック企業国家」ともいうべき非人間的労働政策を進めてきた政府の下で、「政労使会議での議論等を通じて多様な形態の正規雇用の実現・普及を促進すべきである」といった能天気な「ストップ少子化戦略」を謳うことがどれほど空虚なことか、増田氏がそれを知らないはずはないのである。

それでは、生まれてきた子どもたちは本当に幸せなのか。厚生労働省国民生活基礎調査によると、日本の子ども貧困率は1985年(10.9%)にデータを取り始めて以来増加傾向にいっこうに歯止めがかからず、2012年には過去最悪の16.3%を記録した。子どもの6人に1人が平均的な所得の半分を下回る世帯で暮らしており、なかでも母子家庭の子どもの貧困率は5割にも及んでいる。母子家庭の仕事による年収は平均で僅か180万円にすぎず、世界屈指の先進国でありながら「子どもの貧困、ひとり親世帯を救おう」との社説を掲げなければならないのが日本の悲しい現実なのである(朝日新聞社説、2014年7月30日)。

こうした窮状を反映してか内閣府の2014年版「子ども・若者白書」は、日本で将来に希望を持つ若者は62%で調査7カ国中最低、40歳になった時に自分が幸せになっていると思う人の割合も66%で最低だったことを明らかにしている。この国際比較結果を分析した山田昌弘中央大教授は、「希望に限らず、『感情』にはその人が置かれた環境が影響する。日本で若者の非正規雇用率が4割程度であることを考えると、将来に希望を持てない若者の割合はこの数字と重なる」とコメントしている(毎日新聞、2014年7月2日)。(つづく)