世襲議員とお笑い芸人が自民党を滅ぼす、(麻生辞任解散劇、その17)

 麻生首相が鳩山総務相を更迭して以来、解散・総選挙をめぐる自民党内の動きが一段と激しくなってきた。麻生首相の求心力が衰えるにしたがって、もはや各派グループの勝手な行動を止められなくなってきたからだ。なかでも目を引くのが、古賀選挙対策委員長の派手な動きだろう。東国原宮崎県知事に直接会って、マスメディア公開の席上で総選挙への出馬を促したのだという。

 だが、東国原氏の回答がフルッテいる。それは「自民党総裁候補に担ぐのなら出馬してもよい」という荒唐無稽きわまりないものだ。通常の感覚なら、「言う方も言う方なら、聞く方も聞く方だ」ということになる代物である。しかしテレビの経論家筋によると、もっと用意周到な「裏のシナリオ」があるというのだから、油断がならない。

 筋書きはこうだ。まず内閣改造を行って東国原氏をどこかの大臣ポストにすえる。次に東国原氏は自民党総裁選に打って出て、日本中を走り回って派手な街頭選挙を繰り広げる。本来なら国民が選挙権を持たない自民党総裁選挙など何の関係もないのだが、次の総選挙で首相になるかもしれない人物選びなので、国民は無関心ではいられない。マスメディアも必ずや面白おかしく連日騒ぎ立てるだろうから、東国原氏は絶好の「客寄せパンダ」に利用できるというわけだ。

 もちろん麻生首相は「麻生降ろし」に直結する総裁選などに乗るはずがないし、自民党も東国原氏を本気で総裁にする気などさらさらないだろう。多くの自民党議員が「恥を知れ!」と思っていることだろうから、仮に総裁選になったとしても、本命は談合であらかじめ決めておく。そのうえで総裁選はできるだけ派手な「お祭り騒ぎ」に持ち込んで、「お笑い芸人」に思い切り盛り上げてもらおうとの魂胆にちがいない。

 大阪府知事選では、橋下氏はもともと自民党対立候補だった。しかし橋下氏が芸能事務所の取り仕切りで選挙戦に圧勝した有様を見て、その「成功体験」を今度の総選挙に活用ししようと思い立ったのだろう。橋下選挙を上回る「お笑い選挙」を全国展開して、「元気な自民党」を演出するのである。そして比例区候補として東国原氏に大量得票を稼いでもらい、ちょうど小泉郵政選挙で「ヒラリーマン」の杉浦太蔵氏が当選したような波及効果を狙うのである。

 ここまで書いてくると、なんだか「本当のこと」になってしまいそうな感じがしなくもない。だが、いつまでも「柳の下に2匹目のドジョウはいない」と思いたい。こんな「お笑い芸人」にだまされる程度の国民なら、日本の前途は救われないからだ。きっと志のある人たちが大勢立ち上がって、「お笑い選挙」を本当の「笑い話」にしてしまうのではないか。

 とはいえ、今回の日記で書きたいことは、選挙の行方を占うことではなく、なぜこんな「お笑い選挙」が半ば本気で画策されるのかという“政界事情”および、それがまことしやかに語られる“社会的現実”についてである。昨日までは一介のお笑い芸人やテレビタレントにすぎない人物が、国民の生活を左右する自治体の首長選挙に出て当選するばかりか、本人たちがいつの間にか「首長としての自分」に酔ってしまい、さらなる「野心」を燃やすという、この摩訶不思議な政治社会的構造についてである。

 私は、その根本的な原因が「自民党世襲政党化」にあると考える。長期にわたって政権を独占してきた自民党が人材育成を怠り、世襲議員自民党の中枢部を固めるという政治構造が出来上がってしまったからだ。世襲議員には世にいう「出来の悪い後継ぎ」ということもあるが、本質的には親の政治基盤すなわち「後援会という名の利権共同体」を継承する結果、政策も行動もそこから逃れられなくなるという致命的な「負の遺産」を負っていることだ。

 だから国際情勢も経済政策も勉強する必要がない。自分の選挙区の有力者を機嫌取りをしていれば、次の選挙が安泰だという日常生活になる。また世襲議員の大物になるとそれすらも必要がなくなる。「世襲がブランド」になるのである。昼はマンガを読み、夜は宴会とバー通いを続けていても、いつの間にか自民党総裁に担ぎ出されるという「政治家コース」が用意されるのである。

 この程度の世襲政治家(首相)を目の当たりにすると、お笑い芸人やテレビタレント出身の首長が「俺でもできる」と思うようになるのは無理がないというべきだろう。まして総選挙の洗礼を受けない世襲議員が3代にわたって首相を務めるような事態が続いているのである。「世襲議員」どころではなくて、もはや「世襲首相」が不思議でなくなってきている時代なのだ。これでは、どこか隣の国の「世襲国家」すなわち「王朝体制」となんら異なるところがない。「バカ殿」が連続して再生産される仕組みが出来上がっているのである。

 次の総選挙がどうなるか、私にはよくわからない。でも確実にいえることは、「世襲議員とお笑い芸人(テレビタレント)が自民党を滅ぼす」ということだ。そして今回の総選挙は、お笑い芸人が首相の座を狙うところまできた。それを本人が「真剣に考えている」という究極のところまで来たのである。このことの意味は深刻だ。その程度にまで国政が劣化してきているのである。

 自民党は彼らを「客寄せパンダ」として利用するにすぎないと考えているのであろうが、「総裁」や「首相」の座は、「パンダ」の場所ではない。そのことをわかっていない政党は滅びる。これが鉄則である。