自民党は地域(ローカル)政党としてしか生き残れない、(麻生辞任解散劇、その27)

 選挙結果が判明してから3日経った。投票日直前の日記で、私は「今回の総選挙が歴史的な転換点の前兆であることは変わりない。一刻も早く、そして徹底的に自公政権の息の根を止めたいものである。」と期待した。だが、これほどの自民党の惨敗ぶりは予想できなかった。またそれ以前にも都議選の結果を見て「公明党の危機」についても指摘したが、太田代表や北側幹事長以下、まさか全員が選挙区で落選するとは思わなかった。いずれもが「嬉しい誤算」となったのである。

 しかし民主党がかくまで大勝するとなると、選挙後の政界再編についての従来の考え方を大幅に変えざるを得なくなった。これまでの私の観測は、たとえ民主党が政権を担えたとしても、その「寄せ集め集団」としての性格から統一した政党運営は難しく、いずれは路線対立が激しくなり、そこに自民党内の分裂騒ぎが加わって、与野党を横断する政界再編が起こるというものだった。

 だが、民主党がかっての自民党を上回るほどの議席を得た現在、この巨大権力を分裂騒ぎで失うということはまず考えられない。今後党内対立が起こることは避けられないにしても、それが分裂騒ぎに発展するほどの大きな亀裂になる可能性は消えたということだ。なぜなら来年夏には参議院選挙があり、民主党が党内対立で国民の期待を裏切れば、自民党が再び復活するとも限らないからである。

 そうなると、民主党は少なくとも来年の参議院選挙で過半数議席を占めるまでは、党内対立を荒立てないで政権政党としての基盤を固めることに全力を挙げることになる。小沢代表代行が選挙対策に専念すると推測されているのもそのためだろう。そして自民党がここで議席を回復できなければ、次期総選挙で「捲土重来を期す」ことは難しくなる。

 今回の選挙で生き残った自民党議員の顔ぶれを見て感じることは、これでは「自民党再生は不可能」と思わざるを得ないことだ。自民党を壊滅に陥れた「A級戦犯」たちのほとんどが比例代表選挙の重複立候補制に救われて復活したからだ。また「衆愚連」ともいうべき歴代の無能首相が4人も当選した。この人たちが党内影響力を失わない限り、自民党が「解党的出直し」を図ることは不可能だろう。間直に迫った首班指名国会において、「総理になれない総裁」を誰にするかをめぐって速やかに結論を出せないこと自体が、そのことを象徴している。

 くわえて公明党が落城したことは、自民党の復活にとっては致命的な打撃になることは間違いない。「与党」の利権があるからこそ政党連立は成立するのであり、それが消滅した状況の下では、よほどのことがない限り「野党連合」が成立することは考えられない。まして自民党と連立政権を組んできた公明党幹部がほとんど議席を失ったいま、新執行部が「自民党と手を切る」ことは目に見えている。

 今回の総選挙で辛うじて比例復活して自民党議員のほとんどは、公明党創価学会票の支援によるものだ。公明党は自民票の見返りを十分得られないにもかかわらず、選挙区で自民党に投票したのは、政権与党としての利権の分け前にあずかるためだった。だから自民党が政権与党の座から滑り落ちた瞬間に、自公連立もまた消滅したのであり、自民党は今後公明党創価学会票の支援を期待できなくなったのである。

 自民党は戦後一時期を除いて一貫して政権政党だった。財界・業界と官僚機構を族議員を通して束ね、政財官の三位一体構造を構築することによって利権を独占し、それを選挙地盤に若干還元することで集票機能を維持してきた。だが小泉構造改革によって自民党が財界だけに奉仕する「純粋資本家階級政党」になったときから、自民党の政治基盤は壊れた。中小企業、商店街組合、農業団体、土建業界、郵便局、医師会などなど、もはや自民党から利権配分を得られなくなった諸団体の支援が得られなくなったのである。

 また「平成大合併」など小泉政権による「三位一体」の地方制度改革の後遺症も大きかった。自民党を支えてきたのは地方の「草の根保守主義」であるにもかかわらず、その担い手である地方自治体の首長・議員を大幅に削減したのは、「地方分権改革」と称する財界のための自治体リストラ政策だった。一方では財界への大盤振る舞いを聖域化しながら、他方では「小さい政府」を掲げて地方自治体の行財政基盤を徹底的に削減した「地方分権改革」が、自民党を支える草の根保守層を一掃したのである。

 それでは、自民党はこれからどうして復活するのであろうか。もはや政財官三位一体の利権構造に与かれなくなった現在、自民党は利権分配型の政治を継続することができない。多くの業界団体にとっては、「カネを持ってこない政党」など何の魅力もないのだから、これら諸団体が自民党を離れて民主党に接近していくことは避けられない。また政権与党としての地位を利用した公明党創価学会の支援を受けることも不可能になった。いわば、自民党は「利権」と「手足」の両方をもぎ取られた「裸の政党」に転落したのである。

 だが哀れなことに、麻生首相以下自民党首脳部の「衆愚連」は、このあまりにも厳しい現実が理解できていないらしい。そして現実を正確に把握できていないのだから、まして将来を予測することなど彼らの能力をはるかに超えている。だから、「真摯に反省して、捲土重来を期したい。」などと呑気なことを言っていられるのである。

 今後に予測されることは、自民党は、民主党に接近して利権の分け前に与ろうとするグループ、これまでの業界とのよりを戻して再び支援をしてもらおうと画策するグループ、財界の小間使いとなって走り回るグループなど、いろんなグループに分かれていくだろう。そしてそれがもはや自民党というひとつの政党の枠におさまらなくなった時には、政党としての分裂の危機を迎えることになるだろう。

 そして民主党政権が次期参議院選挙と総選挙で勝利するときは、場合によっては自民党が消滅することも十分考えられる。財界があまりに奢り高ぶって自民党を手足に使ったことで自民党が国民から棄てられ、民主党自民党を保守2大政党として育成し、交互に政権交代させて、資本主義体制を永続的に維持していくという戦略が崩壊したからである。

 むしろ可能性が高いのは、民主党自民党に代わる巨大包括政党に変貌し、それに対して共産党など革新政党が対峙するという保革対立の政治構造があらわれてくることである。そしてその時に自民党が生き残ろうとすれば、それは地域政党・ローカル政党に徹して、「地域の利益」「地方の利益」を守る本当の意味での「保守政党」としてのアイデンティティを明確にするほかはない。