告示日直前の神戸市長選座談会、(堺市長選、神戸市長選はどうなる、その4)

 明日、10月11日は神戸市長選の告示日だ。しかし、橋下知事の殴り込みで大いに沸いた(掻き回された)堺市長選とは違って、神戸市内は意外に静かなのだという。市民の間に「何も変わらない」というあきらめの気持ちが漂っているからなのだろうか。それとも現職と対立する2人の新人候補のどちらにしようか、と迷っているからなのだろうか。

 京都の「神戸ウオッチャー」である私のところへは、いろんな神戸市民からの意見や情報が届く。だが正直なところ、今回の神戸市長選は複雑(怪奇)で事情がよくわからないことが多すぎる。そこで断定的な主張を避けて、新聞の記者座談会風に情勢判断を中心とした日記を書いてみようと思う。(文中敬称略)

A:まず告示日直前の神戸市内の様子から入ろう。市内は意外に静かで、どこに市長選があるのという感じだが、どうだろうか。

B:その通り。市内を歩いていても選挙という雰囲気がまったく感じられない。現職側が「深く静かに潜行している」からかも知れない。

C:現職は表向き「民主党単独推薦」なので、実質は「オール与党」の自民・公明をあまり刺激したくないというのが本音だろう。それに自民の一部には「独自候補」を立てるという動きがあったばかりだしね。

B:あれは「俺たちのことをコケにしたら承知しないぞ」という現職への脅しのポーズだ。また市民向けとしては、「自民があまり落ちぶれていない」ことを示す陽動作戦の意味もある。

C:でも自民市議団の幹部連中の間ではすでに筋書きが決まっているから、分裂でもしない限り独自候補の擁立は無理だ。なにしろ告示日までの時間がないしね。案の定、振り上げた手を呆気なくおろしてしまった。まあ猿芝居並みのレベルというところだろう。

A:ところで肝心の民主党はどう動いているの。小沢幹事長の腹心で神戸選出の石井一代議士が民主党全体の選挙責任者になったというから、地元でのこの選挙は負けるわけにはいかないだろう。

B:民主党の「単独推薦」を現職に飲ませたのも石井だったといわれている。来年の参議院選挙で過半数を取ることが小沢の至上命令だから、神戸市労連や兵庫の連合を敵に回すわけにはいかない。現職を支えているのは、実質市労連や教組だからね。自公は実質「オール与党」体制のうまい汁を失いたくない。民主は参議院選で市労連や連合の票がほしい。そのギリギリの選択が、実質は「オール与党」だが、表向きは「民主党単独推薦」になった舞台裏だ。

C:でもこのままでいったら、自民・公明は来年の参院選で苦境に立たされるよ。現職の応援は期待できないからね。そこまで偽装して「オール与党」体制を維持するメリットはないと思うが。

B:国会議員選挙と違って、市長選は市議団の発言力が強い。自民は「自分党」だから、自分の利益に絡む市長選は市議団が仕切っていてほかに渡さない。これに異議を挟むと、次の国会選挙では市議団に応援をしてもらえなくなる。

A:話を対立候補のほうへ移そう。またもや対立候補を一本化できなかったね。なぜだろうか。

B:2つの要因があると思う。1つは共産党の問題、もうひとつは「市民派」といわれる市会議員の一部が担ぎ出したという新人候補自身の問題だ。

C:共産党の問題は構造的だ。市労連や教組のなかの党支持者から「対立候補を立てないで現職を支持しろ」という有形無形の圧力がかかっている。だから本気で市長選を戦って勝利しようということにならない。現職を落としたら大量の党支持者が離れる恐れがあるからだ。

B:阪神大震災直後の市長選でも、党推薦の対立候補に対して市労連幹部は現職支持で公然と反旗を翻した。共産党はそれでいてそのなかの党支持者を「規律違反」で処分できなかった。それほど市労連の影響力が大きいということだ。彼らと喧嘩したら県委員会の組織が持たないとまでいわれていた。

A:神戸の「オール与党」体制は、政党のみならず労働組合まで巻き込んでいるところに、その「根がらみの体質」があるというわけだよね。ところで市民派市議が担ぎ出したという民間企業出身の新人候補の問題とは。

B:民間企業の経営者というだけあって、思想的にも体質的にも根っからのビジネスマンであることに変わりない。だから彼にとっては「オール与党」で担いでもらうのが最高だった。でもそれは現職がいる限り不可能だ。そこで最初は「市民派」と手を組むことを考えた。「市民派」と名乗ることで「オール与党」批判の市民票を獲得できると計算したのだろう。

C:だが民主党への政権交代で情勢は劇的に変わった。民主党の支持さえあれば当選する可能性が出てきたからだ。そこで民主党へ接近したが、それが「小沢ルート」でなかったこと、また神戸の「オール与党」体制の強さと特殊性を頭に入れていなかったことが彼の誤算だった。

A:首長連合にも頼ったというね。現に前の横浜市長と会っている。それから堺市長選の後で橋下に会いに堺まで行っている。何を頼んだの。

C:自分のマニフェストを説明して、首長連合の推薦を依頼した。でも橋下はにべもなかったというね。橋下はこれから関西広域連合を立ち上げて関西州をつくるという構想一本で動いている。これには小沢民主党の協力が不可欠だ。そんな「大事」を前にして、神戸市長選ごとき「小事」で民主党推薦の現職と対立する人物を推すはずがない。

A:しかしそんな当たり前の政治判断もできずに、橋下にすがるとは市長候補としての資質に欠けるのでは。

B:そこは首長選挙のつらいところだ。なにしろ1票でも多く取ったほうが市長になるのだから、「藁にもすがる思い」で頼みに行ったのだろう。

C:新人候補を推すか推さないかで揉めている市民団体のほうでも、とにかく「助役上がりのオール与党市長」を倒して神戸に風穴をあけるか、それとも新人候補の資質やマニフェストを精査するかで意見が分かれている。

A:このあたりの判断が、今回の神戸市長選の勝敗の分かれ目になるように思うよ。とにかく市長を変えてから市政を改革していくか、市政を変えられるだけの資質と明確な政策を持った候補が現れるまで待つかの判断だ。でも選挙は所詮勝たければ意味がない。そんな三拍子のそろった候補者なんていないよ。

B:問題は、それだけの大局的な判断ができる人材が神戸にいるかどうかということだ。「建設的野党」を掲げる共産党が「大義名分党」でしかないという現実がそのことを物語っているしね。市民団体の中でも意見をまとめることは不可能に近い。

A:そろそろまとめに入ろう。今の情勢でいったら、現職の圧勝ということになるのでは。

B:そうとは必ずしも言えない。告示日の蓋を開けてから雰囲気がガラリと一変することもある。問題はそれを実現するための「サプライズ」をだれが演出するかということだ。

C:目下のところ「サプライズ」の材料はない。あるとすれば、市民団体が候補者の一本化を掲げているわけだから、それを最後まで追求することだ。市民団体の中からは共産党の志位委員長へ盛んにメールを送っているというが、まだ返事は来ていないらしい。

A:新人候補の側でも何らかのサインを出すことが必要だよ。橋下に頼みに行ったんだから、志位委員長に会いに行くとか考えてもいいのでは。それが「サプライズ」になればの話だけけど。(おわり)