小沢民主党が承認した「偽装オール与党神戸方式」、(堺市長選、神戸市長選はどうなる、その3)

 民主党小沢幹事長は、昨10月1日、神戸市で記者会見し、神戸市長選(11日告示、25日投開票)で3選を目指す現職を「民主党単独」で推薦すると発表した。その理由は、これまでは民主、自民、公明、社民のオール与党から推薦を受けてきた現職が、今回は「民主党にだけ」推薦依頼してきたからだというものである。

 小沢氏はまた、「(民主党の)行政の考え方は明確に自民、公明両党と違っている。大きな実績を残してきた市長が、民主党の単独推薦で政令指定都市の市長選を戦うのは初めてのケースだ。決断を高く評価している。」と語った。だが、民主党の地方行政に対する考え方が、神戸市政では自民・公明両党と具体的にどう違うのか、現職の実績のどこを評価できるのかなどについては、詳しくは語らなかった。(語れないのであろう)。

 「選挙に勝つためなら、どんな手でも使う」というのが“小沢流”だ。だから、彼自身が知事選と政令市長選で自民・公明党との「相乗り禁止」を打ち出していたにもかかわらず、今年7月の兵庫県知事選では民主党県連が自公両党の推薦する現職を推薦し、民主党本部がこれを認めたのも小沢氏の意向によるものだった。小沢氏の言う「首長選挙自民党との対立構図を明確にし、同党の地方での支持基盤を崩す。」なんていうのは、兵庫県や神戸市の場合は真っ赤なウソで、「中央と地方は事情が違う」という“ご都合主義”こそが彼のホンネなのである。

 だが神戸市政の“実態”はどうか。どこでもそうだが、民主党市議団の体質は自民党とまったくかわらない。むしろ「それ以上」といってもよい。なかには、「自民党も真っ青」ともいえるような(建設族)市議が多数いるのも民主党だ。30万人もの市民が反対した神戸空港建設問題に関する直接請求署名運動でも、市民運動に真っ向から敵対し、建設推進の先頭に立ったのが民主党だった。阪神大震災の復興事業でも、神戸市(都市計画局、港湾局)の「焼け太り公共事業計画」に諸手を挙げて賛成したのも民主党だった。神戸市では「土木開発事業ならまず民主党のセンセイ」というのが通り相場になっているのである。

 今回の神戸市長選は、最初から「出来レース」だった。自公民オール与党の間では、現職以外の候補を検討することなんて夢にも考えられていなかった。すべては従来通りの各党の利権縄張りを前提にして、それを維持するための布石を打ってきたのである。ただ直前の堺市長選でオール与党推薦の現職候補が敗れ、また「首長連合」の一部メンバーが新人の対立候補接触したこともあって、彼らはひと工夫する必要に迫られた。それが、表向きは「民主党単独推薦」にして、自民・公明が「自主投票」することにするという「裏の筋書」なのである。

 だから堺市長選ではオール与党候補の現職攻撃にあれほど頑張った橋下知事が、今回はまったく動かなかった。またこれからも動かないだろう。小沢氏の意向が早い段階から橋下氏に伝えられ、「民主党の決定は重い」ということで、「首長連合」は動かないと決めていたのである。ただ“陽動作戦”として一部メンバーに新人候補の「面接」をさせたのか、そうとは知らないメンバーが勝手に動いたのか、そのあたりの詳しい事情は知らない。

 問題は、民主党が現職候補を「単独推薦」したことが、今後の市長選全体の戦況にどういう影響を与えるのかであろう。まず新人候補は、抜本的に選挙戦略の変更を迫られることになった。新人候補は早くから民主党接触して推薦を依頼し、それに大きな期待をかけていたからである。しかし土壇場になって、手を組むはずの相手が「敵側」に回ったのであるから、戦略戦術の転換は容易ではあるまい。

 もうひとつの問題は、これも新人候補が早くから接触してきた市民団体との関係である。市民団体が以前からの市長選挙の経験を通して積み上げてきた膨大な政策資料は、新人候補にとっては「宝の山」であったことは間違いない。神戸市という政令指定都市の市長選において、実のある選挙政策を打ち出すことは今日明日にできることではないからである。新人候補が市民団体に接触した背景には、この「宝の山」を手中にしたいという思惑があったことはまず間違いないといえるだろう。

 また市民団体にとっても今回の神戸市長選は、国政と神戸市政を横断する複雑極まる政治情勢のもとで行われる選挙であるから、今までの選挙とは比較にならないぐらい高度で総合的な政治判断が求められる。本来であれば、この種の政治判断は革新政党の役割のひとつでもあるが、神戸では現実にそれが求められない以上、市民団体が代行するほかはない。ただ市民団体が新人候補と粘り強く政策協議を続けてきた背景には、戦後60年も続いてきた「助役上がりのオール与党市長」をなんとか変えたいとする神戸市民の熱烈な願望があるのであって、今回の市長選挙を単なる「大義名分選挙」にはしたくないという気持ちは大いに理解できるものがある。

 このような複雑極まる政治情勢の下で、市民団体は過日、(1)新人候補を推薦する、(2)ただしこの決定は会員を拘束しない、(3)候補の一本化に向かって今後も努力する、の3点を確認した。「苦肉の策」ともいえる内容であるが、告示日が目前に迫った現状ではやむを得ない政治判断であり、行動の選択だろう。

 結論的にいえば、今後の選挙情勢を決定する最大の要因は、新人候補自身の神戸市民に対する“政治的誠実”をどのように表現するかということであろう。もはや民主党の推薦が受けられなくなった情勢の下では、新人候補は市民一人ひとりに対して真摯で誠実な呼びかけを続けていく以外に方法がない。その第一歩が、これまで政策協議を続けてきた市民団体との信頼関係にもとづく共同行動である。

 神戸市民は、小沢氏のもとで決定された「民主党単独推薦」の欺瞞性と、その背景にある「偽装オール与党体制」あるいは「偽装神戸方式」の薄汚い利権構造の匂いを鋭く感じ取っている。この神戸市民の気持ちを大切にするか、それとも政党との政治的取引の延長線上で選挙戦術を考えるかで、今後の選挙情勢は一変する。私のような京都からの岡目八目的な「神戸ウオッチャー」としては、「神戸が変わる」、「神戸を変える」今回の選挙の成功を遠くから祈らずにはおられない。(続く)