告示日1週間目の神戸市長選座談会、(堺市長選、神戸市長選はどうなる、その5)

A:10月11日の神戸市長選の告示日から1週間が経過した。その後の選挙情勢はどう展開しているのか、率直なところを聞きたい。

B:堺市長選のときとくらべると、市内は驚くほど静かの一言に尽きる。「いったいどこで市長選をやってるの?」という感じだ。候補者の選挙カー周辺の人だかりもまばらだし、選挙運動員の姿も少ない。これでは投票率は上がらないよ。

C:有権者の関心がないとは一概にいえない。静かなのは、現職側の選挙戦術のせいもある。なにしろ「基礎票を固めれば勝てる」という見通しがあるからだ。あまり「選挙」という雰囲気を出さないでいく作戦だろう。深く静かに潜行して、票を開けてみたら勝っていたという態勢に持ち込みたい計算だ。

B:現職候補の最初の2001年選挙の得票数は投票率38%で21.0万票、第2回目の2005年選挙のときは投票率30%で19.9万票だから、固い基礎票は20万票余りというところだ。これを固めれば勝てると踏んでいる。

A:でも投票率が上がると情勢は一変するよ。堺市長選のときもそうだった。前回に比べて投票率が一挙に11.5%もアップした。2005年の堺市長選で現職候補は9万票、今回2009年の得票数も前回とほとんど変わらない。つまり現職候補は基礎票を確保していたわけだ。ところが投票率が上がった分がそっくりそのまま「橋下代理人候補」に流れて大敗した。

C:それに神戸では裏取引があるとはいえ、表向き民主党の単独推薦になると、自民党は公然と現職候補を支持者に訴えるわけにはいかない。だから現職の「基礎票」はかなり減るはずだ。もっとも公明党はうちうち学会信者に指示して現職支持票を固める算段だから、公明票は減らないだろう。

A:もう少し現職候補の「基礎票」の内訳をみよう。直近の2007年の神戸市会議員選挙での投票率は、市長選よりは少し高い45%。政党別得票数は自民12.6万票(23・4%)、民主12.1万票(22・5%)、公明10.5万票(19.4%)、共産7.3万票(13.6%)といった内訳だ。自公民オール与党だと35万票(65%)となり、盤石の態勢だった。

B:だから市長選の結果は初めから決まっていた。新人5人が立候補した2001年選挙でも投票率は40%に届かなかった。前回は現職と新人2人の3人で投票率は30%だ。オール与党候補の現職を破るには対立候補を一本化する以外に方法がないのだが、それができない。

C:でも今回はチャンスがあった。これまでも共産党新社会党は市民団体と組んで候補者の一本化に努力してきた。だが今回は告示日直前になって共産党が突然「独自候補」にこだわった。本当の理由はよくわからないが、今まで一緒にやってきた新社会党も「呆れてものが言えない」と言っていた。党派の主張をぶっつける議員選挙とたった一人の市長を選ぶ首長選挙の違いがまるでわかっていない。要するに政党としては未熟でおそろしく程度が低いということだ。

A:しかし違った見方もあるよ。現職候補と共産候補が左右の対立を際立たせるようになると、その中間に位置する民間候補は「中間票」をひきつける磁場になる。現職側の「実質オール与党体制」には愛想を尽かしているが、さりとて共産候補までにはいかない有権者が中間の民間候補に投票するという構図だ。

B:問題は民間候補がどれだけの「磁力」を持っているかだろう。候補者自身が「磁力」が足りないことを自覚しているので、ついついいろんな応援団に頼ろうとする。しかしそのことが「候補者がブレテいる」という批判につながっている。最近は「みんなの党」の代表も引っ張ってきたというが、そのことが有権者を引き付けるか、あるいは離反させるかをよく考えてやっているとは思えない。

C:堺市長選の印象が強いのだろう。なにしろ橋下のアジ演説だけで対立候補が勝ったので、とにもかくもそんな強力な応援団がほしいというところだ。目下、尼崎で公明の冬柴に勝った田中康夫をなんとか口説いて応援に来てもらおうとしているらしい。

B:でも田中は小沢の盟友だというし、尼崎で選挙に出たのも小沢戦略の一環だから、小沢が推している現職候補に反対するはずがない。それは「ないものねだり」か、「神頼み」といった程度のことでしかない。来れば、面白いことになるかもしれないが。

A:あと1週間、各陣営はどんな作戦で後半戦を戦うのだろうか。

B:現職陣営はとにかく内部固めに徹する作戦だ。派手な街頭宣伝やパフォーマンスはやらない。市役所ОBや市労連などを中心に自民の後援会組織や公明の学会組織に働きかけて「票固め」をギリギリまでやりきるということだ。

C:共産陣営は従来通りの街頭宣伝やビラまきが中心になる。でも突然の立候補でどれだけの票を獲得できるかは未知数だ。もし惨敗でもしたら、幹部連中は厳しく責任を問われることになる。

A:市民団体の推す民間候補は、もっぱら街頭演説とインターネットで選挙運動をやるといっているが、それだけで大都市の首長選挙を戦えるのかは疑問だ。選挙態勢は素人集団の良さが出ているというよりは、むしろ粗雑さの方が目に付く。後半戦の雰囲気を一挙に変えることなしには勝利はおぼつかない。だれか「知恵者」がつかないと駄目なのではないか。(文中敬称略、続く)