神戸市長選の波紋、座談会その2、(堺市長選、神戸市長選はどうなる、その7)

〈選挙結果をどうみるか〉
A:10月25日の開票日から程なく1週間経とうとしている。この間、市長選の結果をめぐっていろんな意見や評価が乱れ飛んでいるようだが、なかにはバトル気味の意見対立もあって、全体の政治構造がよく見えてこない。今回の選挙構造が錯綜しているので、選挙運動に参加した人の見方も混乱しているのだろう。忌憚のない意見を聞きたい。

B:混乱の最大の原因は、(神戸の)共産党の選挙行動やその前後の発言をどう評価するかで市民団体の意見が分かれているためだ。現職批判のために独自候補を出したとする共産党の言い分にそのまま同調するか、それともしないかが判断の分かれ目だろう。

C:そんな建前は世間では通用しないね。政治は結果責任だ。自分たちの方針や行動がどんな結果をもたらすか、それを予測することが政治のプロの役割だし、また選挙運動のイロハだ。今回の市長選で共産党が独自候補を擁立したことは、明らかに現職批判票を分散させることで事実上現職候補側に加担したということだろう。結果論としてはっきり言えば、「現職側の別働隊」として動いたということだ。

B:それはちょっと言いすぎではないか。それでは共産党までが「隠れオール与党」になってしまう。過去2回の市長選で共産党は市民団体と共闘してきた実績がある。今回の独自行動はよほどやむにやまれぬ事情があったのではないか。聞くところによれば、民間新人候補の政策が気に入らなかったという。とくに教育政策が民営化の方向に流れることへの反発があった。

C:そこが首長選挙と党派選挙(議員選挙)の根本的な違いだ。議員選挙は党派と党派の戦いだから、政策の違いがなければ勝負にならない。しかし首長選挙はたった1人しか選べないのだから、独自候補でもない限り首長候補と政党の政策が一致するはずがない。自分たちの候補が単独で勝つ見込みがないのであれば、政策に多少の違いがあったとしても、総合的にみて推すか推さないかを決めるほかはない。「小異を残して大同につく」というのが首長選挙の鉄則だ。ここがわかっていないのでは、政党としては致命的とさえいえる。

A:問題は何を「小異」とするか、何を「大同」とするかで意見が分かれることだ。市民団体の方はあらゆることにも増して「政権交代」を重視した。一方共産党の方は「全国レベルの政策原則」を神戸にも適用しようとした。とりあえず「政権交代」をしてから、徐々に神戸市政を変えようとするのか、最初から方向性をはっきりさせないと神戸市政は変わらないという、政治に対する考え方のズレだ。

C:そんな綺麗ごとの世界ではないね。事実、現職側の選挙陣営では、「今回の市長選の最大功労者は共産党だ」と言っているよ。いわゆる「敵の敵は味方」という論法だ。何しろ共産党は新人候補の票を分断することに協力してくれたのだからね。戦国時代の国取り合戦では、武力対決よりも「調略」で相手を寝返りさせて城を落とす方が多かった。「調略」を成功させるには、仕掛け人と仕掛けられる側のパイプ役が要る。今回はその両方がいたのだろう。

A:真相が明らかになるまでは相当の時間がかかるから、目下のところは「藪の中」という他はない。でもこんなことが常習犯のオール与党であればともかく、清潔さと透明さを売り物にする政党がかかわっていたとすると大きな痛手となることは間違いない。前回の市長選で共産党新社会党が市民団体と手を組んだ候補は10・6万票弱をとったが、今回は投票率が若干上がったにもかかわらず、共産党の独自候補は6.2万票弱しか取れなかった。実に4割強の票を失ったわけだ。

C:不思議なことに、これだけの大量の票を失いながら内部から責任追及の声がいっこうに上がってこないのはどうしたことか。これでは政党としての自浄能力がないといわれても仕方がない。得票数はなによりも民意の表れだから、自分たちの方針がこの程度の結果しか出せなかったということであれば、市長選の総括に真正面から取り組むことなしには、次の突破口への出口は見いだせないだろう。またこんなことでは、今後市民団体と手を組むことも難しいね。

〈神戸市政への波紋〉
A:少し話題を変えよう。市長選後の神戸市役所のなかの様子はどうなっているの。現職はかなりのショックを受けているというが。

B:率直なところ、当局をはじめとしてほとんど全ての関係者が茫然自失状態にあるといってもいい。現職はもはや3期目だし、もう「次がない」ことは誰の目にもはっきりしている。たとえ圧勝したとしても、次のない現職は「レームダック」(影響力を失ったリーダー)になることは避けられない。まして今回の選挙結果は辛勝そのものだから、首長としては全く権威を失ったといってもいいね。

C:現実はもっと厳しいというよ。もともとそれほどの資質と能力のある人物でもないから、オール与党体制のなかで何とか泳いできたにすぎない。それが今回の選挙でオール与党体制に「ヒビ」が入った。とりわけ自公と民主の「隙間風」が目立つというね。現職は民主単独推薦でありながら、支持者の半分程度しか票を固められなかったのはなぜだと、冷たくあしらわれているらしい。

B:問題はもっと深刻だ。昨日あたりの全国紙で神戸空港の破産状態が一斉に流された。これは市当局が市長選の後で機を見て発表したものだが、内容が余りにも酷い。神戸空港は造成工事などで生じた1982億円という多額の借金を造成地の売却で返す計画だったが、造成地がほとんど売れないので資金調達のめどが立たなくなった。来年度に返済期限がくる空港島造成の借金395億円の償還が困難になったとして、新たに市債を発行して返済を最長で20年先送りする計画だ。

C:それに外側では日航の再建計画が急展開している。例の「選択と集中」とういう方針で、採算性の悪い路線は容赦なく切り捨てられる計画だ。もし神戸空港から日航が全面的に撤退するとなれば、空港が事実上閉鎖状態になるのと同様の事態に陥る。それに大阪財界からは神戸空港廃止論も出てきている。これは単なるアドバルーンとはいえない節もある。

C:返済を先送りすると、2011年度以降も毎年度374億〜205億円を返済しなければならず多額の金利負担が新たに発生する。これまで市当局が空港関連費用には一般予算から充当しないと公約してきたことがご破算になる可能性もある。こうなると、市民生活に直結する教育、福祉、医療などの予算が削減されて、赤字再建団体同然の財政運営になる。しかし、こんな難局を現職が乗り切っていけるとはだれも思っていない。

A:すでに実権は財政官僚の手に移っていて、現職はその傀儡にすぎないという観測もある。戦後60年にわたって続いてきた神戸市一家体制は今や完全に破綻しているというわけだ。にもかかわらず、それを打破する「政権交代」が今回の市長選でも実現できなかった。次の神戸市政を担う人材と政治体制が現在も生み出されていないところに、神戸市民の不幸がある。政党や各種団体から独立した「神戸市政刷新会議」でもつくり、新たなスタートを切る必要があるのかもしれない。次回はそのことについて議論しよう。(続く)