関西3空港問題をめぐる橋下発言の意図、(神戸空港はどうなる、その1)

神戸市が市民の大反対を押し切って神戸空港を開港してから、この2月16日で4年を迎える。2月13日(土)づけの日経新聞は、「神戸空港、浮上策見えず」という大見出しで、「利用客数が最小」、「JAL全面撤退」、「用地売却も停滞」など四面楚歌の窮状を伝えている。

この日は土曜日で市役所はお休みだった。平日であれば市当局も市議会もあたふたと対応に駆け回るところだったであろうが、今日あたりからその動きが始まるのだろう。しかしそれにしても、この記事は神戸空港のリアルな実態を完膚なきまでに指摘していて、当局も議会も「声なし」というところではないか。矢田市長は今後どんな理屈で「市長会見」や「市長インタビュー」をこなすのだろう。

思えば、神戸空港建設はあまりにもお粗末なプロジェクトでありすぎた。架空・過大の搭乗客数予測と空港用地売却見込みのもとに、市当局も市議会も遮二無二空港建設を強行してきただけのことだ。空港建設工事をめぐるよほど巨額の開発利権と政治取引がその背後にあったのだろう。だが、そのツケが開港からわずか4年で白日のもとに晒されるとは、おそらく当事者の誰もが予測していなかったのではないか。実態が暴露されるまでの時間が長ければ長いほど、当事者の責任逃れも容易になる。だが今回のようにこれほどの短時間で原因と結果の関係が明らかになってくると、責任の所在を誤魔化すのは難しい。さぞかし神戸市当局は頭を抱えていることだろう。

神戸空港をふくむ関西3空港問題の行方については、目下、下妻関経連会長が座長をつとめる「関西3空港懇談会」で議論が続いている。しかしここでは参加者の異論百出という有様で、「3空港の一元管理」が2011年度から実現するとはだれも考えていない。それどころか、舞台裏では大阪府兵庫県関経連国土交通省の間で激しいバトルが繰り広げられているのは周知の事実だ。たとえば、関西空港を「関西州」実現のための「政治的道具」に使おうと考えている橋下大阪府知事は、一元管理案を「ヘボイ案」だと一蹴して、伊丹空港の廃止と関西空港への統合を強固に主張している。

「目的のためには手段を選ばない」のが橋下氏一流のやり方だ。3空港問題に関する橋下発言を文字通り理解しようとすると、彼の真意がわからなくなる。橋下知事の目的(野望)はあくまでも「関西州」の実現にあるのであって、空港問題の解決をまともに考えているわけではない。大阪府庁のWTC移転も、新大阪駅と難波を結ぶ地下鉄新線の建設も、夢のまた夢の関空リニア新幹線も、彼にとってはすべて「関西州」実現の政治的手段にすぎないのである。

しかしこんな橋下知事の狙いも見抜けないで、朝日が「関西3空港、伊丹廃港も視野に入れて」(1月12日)などと社説で掲げたのは笑止千万だというべきだろう。社会面や経済面であればともかく、社説で橋下発言を取り上げるのであれば、彼の発言の政治的意図や背景を十分に考慮に入れたものでなければならないはずだ。朝日の論説委員の識見が問われるというものである。

こんなマスメディアの論調が背後にあるからか、橋下知事の暴走は止まらない。「関西州」の構想には同意しようとはしない兵庫県知事には「非難のための非難」の言葉を選ばないし、意のままにならない神戸市に対しては、こともあろうに市長と市民を同列において、「神戸空港は失敗作。トップを選ぶのは神戸市民の判断だから、そういうリーダーを選んで神戸空港を進めた神戸市民は責任をもってほしい」などと根拠のない非難中傷を浴びせる始末だ。(朝日、1月28日)

だが空港建設反対の大運動を繰り広げた神戸市民と、それを押し切って建設を強行した市長の政治責任を意図的にごっちゃにして八つ当たりするような首長を選んだのは、いったい「どこのだれ」なのか。そしていまだ以て「70%」もの高支持率を表明しているのは「どこのだれ」なのか。「関西州」の実現を公約にして当選したわけでもない橋下知事をリーダーに選んで、その好き放題の言動を許しているのは「どこのだれ」なのか。橋下知事は神戸市民ではなく、大阪府民にこそその問いを投げかけるべきだ。

話を元に戻そう。関西3空港問題の行方を考えるためには、国土交通省の成長戦略会議における議論に注目する必要がある。同会議は、昨年10月26日の第1回を皮切りに、今年2月5日の第8回に至るまで猛烈なテンポで議論を続けている。当初の数回は各委員からの報告と提案が行われ、目下、5月の最終報告をめざして集中的に議論が行われているというわけだ。そして最終報告の結果は、来年度予算に反映しさせるとされている。

現在時点では、国土交通省のホームページで議事録の全てが公開されているわけではないので、議論の方向はよくわからない。しかしこれまでの委員提案によると、「関西、伊丹、神戸空港の民間売却」、「競争による淘汰」、「人為的な棲み分けは行わない」、「空港補給金はワンタイム・ラストタイム」(これで最後の1回きり)、「民営化後は(ハブ空港化ではなく)ポイント・ツー・ポイントの航空路線就航」などの提案がずらりと並んでいる。(続く)