自分が播いた種は自分で刈り取ることが原則だ、(神戸空港はどうなる、その3)

 関西3空問題の解決策をめぐる最大の分岐点は、3空港の一元管理か独立採算重視かということだろう。前者は、昨年12月に関西3空港懇談会が合意した関西、伊丹、神戸空港の一元管理案だ。3空港を一元管理して経営改善を目指すという名目で、結果として3空港の存続を図ることに狙いがある。いわゆる「ドンブリ勘定」でいこうというものだ。

後者は、国土交通省の成長戦略会議の立場だ。長谷川座長(武田薬品工業社長)は「(各空港の)経営の透明性と結果責任があいまいになる」として一元管理案を退け、3空港の独立採算を求めていく方向で検討に入っている。その骨子は、(1)関西空港の運営会社は成田国際空港会社の株式売却益などを回して債務を削減して黒字化を目指す、(2)伊丹空港は国際線の復活も検討して関西の基幹空港として拡充を図るというものだ。

ここで注目されるのは、神戸空港が成長戦略会議の議論の俎上に上がっていないことだろう。前原国土交通相はもともと「神戸空港問題は別だ」という認識だし、これは国の基本態度でもある。神戸空港は神戸市が設置して運営している「地方空港」だから、「国は関係ない」というものだ。関西(大阪)財界も表向きは一元管理案だが、本音は「関空救済と伊丹存続」にあって、神戸空港は視野に入っていない。

これに対して橋下大阪府知事は、例によって「伊丹廃止」を言い続けている。そのときの気分によって彼の言い分はコロコロ変わるが、最終的には「関空一元化」の方向だけは変わっていない。関西州の「表玄関が関空」である以上、「勝手口の伊丹」は要らないという自分勝手な論理だ。ここでも神戸空港は視野に入っていない。

成長戦略会議は6月に報告書をまとめる予定だというが、目下、その前哨戦としていろんな提言が出されている。関西経済同友会は2月25日、1兆円以上の有利子負債を抱える関西空港会社の経営を改善するため、施設運営と空港島保有とを分ける「上下分離案」をまとめた。関空会社を施設運営(上)と1期島の資産保有(下)に会社分割し、下部を2期島の資産保有会社と合併する。新たにできる資産保有会社の株式をすべて国に集約することで、空港の土地・建物を実質国有地化するというものだ。

上下分離によって新関空会社は有利子負債を9割近く圧縮でき、着陸料を半額程度に引き下げることができるという。また向こう数年で発着回数が年13万回から15万回に増えることが見込め、「経常利益62億円の確保が可能」だとしている。新・運営会社は国からの補給金なしで設備投資などができるようになるという。

 大阪市も2月17日、関空会社について成田国際空港会社とともに土地と負債を切り離して別の機構に管理させる「上下分離方式」の導入を国土交通省の成長戦略会議に近く提案すると発表した。大阪市の構想によると、両空港会社の土地と負債を別の機構に分離し、機構は土地を空港会社側にリースする。その一方で成田国際空港会社の株式上場益を機構が受け取り、負債を大幅に圧縮するという。

 関西3空港懇談会も4月までに将来的な3空港の姿を打ち出す方針を確認した。国交省の成長戦略会議で3空港の独立採算などが議論されているため、同会議が成案をまとめる6月より前に地元の意見を打ち出すことが求められているためだ。だがここでも神戸市の姿は見えてこない。また神戸市の独自案の発表もない。3空港一元案の陰に隠れて出ようとしないのか、それとも提案のしようがないほどの苦境に陥っているからなのか。

6月に出る国交省成長戦略会議のまとめは、おそらく関空のバランスシートの改善と伊丹空港の民営化による一層の活用が報告の中心になるだろう。関空会社の経営改善方策としては、関西経済同友会の提言と案外近いものが出るかもしれない。一方、伊丹空港は「都市近接型空港としての役割を明確化しつつフル活用する」方向が明確になるだろう。週末の伊丹〜羽田路線が常時満席のドル箱路線である現実をみれば、利便性において「伊丹廃港」はあり得ない。6月以降は橋下知事の妄想も少しはトーンダウンするのではないか。

問題は、神戸空港問題の処理が取り残されることだろう。神戸空港の赤字処理まで抱え込むと財政負担が増え、関空救済はますます遠のくことになるからだ。もともと伊丹空港は黒字なのだから、関空問題の処理と切り離して考えることの方が簡単だ。「独立採算」を強調する成長戦略会議が神戸空港など「余分な支出」を許容するとは考えられない。関西財界も関空が救済されれば、自らの負担軽減にもつながる。こうして伊丹廃港によって関空を救済するという「橋下カード」が消える以上、神戸市は「自分が播いた種は自分が刈り取る」以外に道はないのである。