菅政権が民自大連立政権へ向かう理由、護送船団方式の崩壊、(菅政権は「新ファシズム」のまえぶれか、その6)

参院選の余波が収まらないうちから、はやくも菅政権の相次ぐ政策変更がはじまっている。沖縄普天間米軍基地は予定通り辺野古地区に移設し、代替施設の工法は2006年日米合意と同じ「埋め立て方式」に絞る方針が決定された。たしか鳩山前首相は「埋め立ては自然への冒涜」などといっていたはずだが、当時副首相だった菅氏は、そんなことは全く眼中にないらしい。

次いで、民主党マニフェエストのなかでも「政治主導」の目玉だった「国家戦略局」構想が断念され、政策決定権限がなく、各省の調整機能もない、単なる「政策提言機関」(首相の知恵袋)に格下げされた。当初、構想されていた予算編成権限や外交方針決定権限を国家戦略局が掌握することなど、「夢のまた夢」となった。

さらに郵政改革法案の行方も混沌としてきた。国民新党との政策合意はまだ生きているというが、すでに統一会派は解消され、国会審議の日程は皆目見当がつかない。もともと菅首相が郵政改革に積極的でないことに加えて、枝野幹事長が盛んに「みんなの党」との連立をよびかけていることからも、みんなの党の言い分を「丸呑み」するという形で、郵政改革法案を葬る作戦だともささやかれている。

「政治とカネ」の問題についても、菅首相の態度は極めてあいまいだ。小沢前幹事長の資金管理団体陸山会」の土地取引事件で、2007年分の政治資金収支報告の記載事項を審査した東京検察審査会は、それを「虚偽記載」として起訴しなかった東京地検特捜部の処分を「不起訴不当」と議決した。しかし菅首相は、選挙戦のさなかに「基地問題と政治とカネの問題はクリアした」と演説していたので、検察審査会がたとえなんといおうと小沢問題は無視するつもりなのだろう。

一方、慎重なのは消費税問題の取り扱いだ。当初は今年度中に民主党の方針案を決定して、1〜2年のうちにも具体化するつもりだったらしいが、国民の思わぬ反撃にあって予定が狂ったのか、「少し時間がかかる」と言いはじめた。これに対して財界やマスメディアは、躍起になって菅首相の尻を叩いている。

その先頭に立っている朝日などは、「少なくとも崩壊しつつある社会保障を立て直し、国民の安心を取り戻す。それを再生の第一歩とする。そのためには消費税を軸とする税制改革は避けられない」、「民主党自民党という2大政党がともに「消費税」を掲げて参院選に臨んだことには歴史的必然性がある」、「敗戦ショックの民主党は消費税増税案の年度内取りまとめを先送りするのだという。いま大局を見失えば、かえって国民の不幸につながる」(7月15日)などと叱咤激励している有様だ。

菅政権は、当初、参院選過半数議席を獲得して「ねじれ国会」を解消し、消費税増税や両院比例定数削減を断行することで民主単独長期政権を目指していた。それが一転して政策変更となった最大の原因は、「消費税ショック」もさることながら、今回の参院選民主党の政治基盤である「集票マシン」の劣化と崩壊が予想以上に進んでいることが判明したからだ。

周知のごとく「連合」を中心とする労働組合は、毎回、組織代表候補を立てて組合員の投票動員を組織してきた。しかし、今回は「民主、労組頼みに限界」「集票マシン弱体化」などと書かれたように、前回の参院選と比較すると、自治労は50万から13万へ3/4減、日教組22万から13万へ4割減、情報労連31万から15万へ5割減、自動車総連26万から21万へ2割減など、もはや企業内組合の「集票マシン」が壊滅状態に瀕していることが明白になった。

この点に関しては自民党も同じ事情で、「業界離れ」「組織力の衰え」が急速に進み、日本建設業団体連合会が22万から14万へ4割減、日本医師連盟18万から7万へ6割減、日本遺族会23万から13万へ4割減という悲惨な有様で、全国農政連は候補者ひとりですら擁立できなかった。

その結果、今回の参院選と3年前の比例代表得票数・得票率を比べてみると、民主は2326万票(39.5%)から1845万票(31.6%)へ得票数21%減、得票率8%減となり、自民は1654万票(28.1%)から1407万票(24.1%)へ得票数15%減、得票率4%減となった。財界やマスメディアがこれだけ執拗に「2大政党制」を推進しているにもかかわらず、両党のシェアが前回の68%から今回の56%へ12%も大幅に低下したのである。

このことは、これまで民主・自民を支えてきた労組や業界団体などの「護送船団方式」がいよいよ崩壊のときを迎えたことを物語っている。労組や業界団体が政党からの利益供与と引き換えに、組合員・構成員の政治活動の自由を奪って投票動員するという「護送船団方式」がいよいよ「システム崩壊」をはじめたのである。

民主党の場合は、公務員削減方針と自治労日教組など公務員組合との矛盾が激化し、また非正規労働者の常態化を正当化する労働者派遣法の「ザル法的改正」など、党と労組の政策上の矛盾が拡大して、組合員の「労組離れ」・「民主離れ」をもはや喰い止めることができなくなってきたのである。

自民党の場合は、土地改良事業予算の大幅カットにもみられるように、野党転落による権益の喪失が「蜜に群がる蟻たち」の離反を招いている。政権与党に復帰できなければ、業界団体の「自民離れ」を喰い止めることは難しい。もはや民主と自民が「組織とカネで票を買う」時代は終わったのである。そしてこのことが、民主と自民の間でいかなる対立があるとはいえ、今後は両党が大連立政権に向かわざるを得ない背景になっている。(つづく)