明日はわが身、九電“やらせメール”事件にみる企業国家崩壊の前兆、(私たちは東日本大震災にいかに向き合うか、その21)

 7月14日、九州電力は、玄海原発2、3号機の運転再開をめぐる国主催の県民向け説明会に対して、再稼働賛成の“やらせメール”を社内・社外にわたって大規模に組織したことを公式に認めた。同社の内部調査報告書によれば、“やらせメール”を要請(指示)した人数は、社員519名、取引会社・協力会社などの社員2416名、計2935名の多数に上るという。

 もっとも、要請(指示)に応じて実際に「賛成メール」を送ったのは、社員45名、協力会社17名、取引会社75名、顧客4名、計141名だというから、およそ社員の9%、取引・協力会社社員の4%、全体の5%程度が要請(指示)に従ったことになる。

 これを「多い」と見るか、「少ない」と見るかは意見の分かれるところだろうが、私などは、正直言って「意外に少ない」と感じた方だ。なぜなら、九州の「殿様企業」である九州電力の正社員であれば、上司の命令を実行しない部下などいるはずもないし、また取引・協力会社の社員であれば、この際、「成績」を上げて親会社の心証を良くしておこうと考えるはず、と思うからだ。

 したがって結果としては、要請(指示)された九電社員のうち91%、取引・協力会社社員のうち96%がこれに応じなかったのであれば、それはそれとして「立派な数字」だと言えるのではないか。九州電力は、「わが社にはコンプライアンス意識の高い社員がこれほどいる!」と誇ってもよいぐらいだ。

 ただし、この種の説明会に寄せられる電話やメールなどの数には、(場所や規模によって異なるが)およその「メド」というものがある。いくら地元テレビで放映されたとはいえ、千を超える電話やメールが殺到すれば、日頃の平均視聴率からして「これは怪しい!」ということになりかねない。だから、九電が一定の数に抑えたという観測も成り立つ。なにしろ、賛成意見の「例文」まで添えての綿密な要請(指示)だったからだ。

 でもそうだとすると、初めから一定数の社員に「必ず賛成メールを送れ」と命令しておけば済む話であって、3千人近い人たちに要請(指示)文をばら撒く必要はない。このあたりの九電の感覚が不可解で、私にはどうもよくわからない。メディアには、関係者の「直撃取材」をしてその真相を明かしてほしいものだ。

 だが、事態はこれで「一件落着」とはいかないように思える。経済産業省資源エネルギー庁は、過去5年間に原発建設に関する国主催の地元説明会を開いた北海道、中国、四国、東京、中部、東北の電力6社に対して、九電のような「やらせ事件」がなかったかどうか、7月29日までに回答することを求めた。

私としては、「過去5年間」に限定せず、「無期限」でやってもらいたいところだが、でもこの状況は、電力各社にとってはかなり悩ましいところだろう。なにしろ「清廉潔白」だとして「ゼロ回答」したいのは山々だが、もし「ゼロ回答」をした後に内部告発でも出てくるようなことがあると、九電と同じく「ウソつき会社」との烙印を押され、電力企業に対する国民の不信は決定的なものになってしまうからだ。

といって、今頃になって「実はやりました」とでも報告すれば、折も折だけに「これまでなぜ隠していたのか」という企業責任を厳しく問われることになる。そこでこんな馬鹿げた報告はできないので、おそらく各電力会社では、今後の資源エネルギー庁に対する報告では、「一切白(しら)を切る」ことに足並みをそろえるのではないか。

でも電力各社が、原発建設に関する国主催の地元説明会にこれまで「中立」の姿勢で臨んでいたなど、誰も思わない(信じない)。なぜかといえば、実際に説明会が開催された地元で少しでもヒアリング調査をすれば、各社がどれほど周到な準備で説明会に社員や協力社員を「サクラ動員」しできたか、すぐにでもわかることだからだ。

しかも、それが大して悪いことでもなく、コンプライアンスにも反しないと関係者が思っていたことは、動員された「サクラ」たちが、堂々と社名の入った制服や作業服を着て参加していたことでもわかるというものである。それがこれまでは(過去5年間)は「普通」であり、「当たり前」のことだったのである。

九電が今回の説明会でやったことは、これまでの各電力会社の「慣例」を踏襲したに過ぎない。ごく「当たり前」のことをやるのだから、社内外に悪びれることなく堂々と「要請(指示)」したのである。それが悪いとか、社外に漏れれば社会問題になるとかの意識が全くなかっただけの話なのだ。「社内の常識は世間の非常識」であることに、九電がこの期に及んでまだ気付かなかっただけの話なのである。

同様のことは、この間の原発事故問題に対する米倉経団連会長の一連の傲慢な発言にもみてとれる。東電原発事故に対する反省のかけらもなく、原発が再稼働しなければ「国民生活が困る」「企業が海外に逃げる」といった脅し文句で事態を乗り切れるといまだに思い込んでいるらしい。まさに「世間の非常識の塊」ともいうべき人物だ。

おそらく、事態は「九電やらせメール事件」を契機にしてこれから劇的な展開を見せるのではないか。それは「会社の塀の中」で安住してきた日本型企業社会の崩壊の前兆であり、連合など企業内組合と自民・民主など保守政党を基礎にした企業国家崩壊の前兆でもある。電力各社や経団連・同友会に言いたい。「明日はわが身」であると。(つづく)