大阪ダブル選挙の争点を逸らす朝日世論調査(1)、橋下主義(ハシズム=ファッシズム)は終焉のときを迎えた(その3)

 過去の選挙公約を一切反故(ほご)にして、次から次へと目先の新しい政策を打ち出し、有権者に選挙公約の意味を考える機会を与えない。そして「目くらまし選挙」に打って出るというのが橋下氏(ハシズム)の常とう手段だと、この前の日記で書いたばかりだ。なのに、今日11月1日の朝日新聞を見て大いに驚いた。朝日新聞社朝日放送(ABC)が揃いもそろって、この橋下流に乗っているからだ。両朝日は、橋下氏の意図する“大阪愚民選挙”にいつから肩入れするようになったのか。

 大阪府内の有権者を対象にした10月末の電話世論調査で、両社は選挙公約について次のような3項目を質問している。( )内は回答結果。
(1)大阪維新の会は、知事が学校の教育目標を決めることなどを盛り込んだ教育基本条例案府議会に提案しています。この教育基本条例案に賛成ですか。反対ですか。(賛成48%、反対26%)
(2)大阪維新の会は、府の幹部職員を公募し、職員の人事評価や処分を厳しくする職員基本条例案を府議会に提案しています。この職員基本条例案に賛成ですか。反対ですか。(賛成58%、反対22%)
(3)市長と知事のダブル選挙で最大の争点は何だと思いますか(以下の3つの回答の中から1つ選択)。①大阪都構想への賛否、②教育基本条例や職員基本条例への賛否、③ほかに大きな争点がある。(大阪都構想48%、教育・職員基本条例案25%、ほかの争点19%)

私自身もこれまで数えきれないほど多くの社会調査をしてきたが、今回の世論調査の項目には少なからず問題を感じる。というよりは、世論操作につながる本質的な欠陥(危険性)があるように思う。もっと言えば、この世論調査の表面的な結果によって、橋下主義(ハシズム=ファッシズム)があたかも世論の支持を得ているようなムードが醸成され、選挙の行方に大きな影響を与える可能性があると懸念するのである。

問題点の第1は、橋下氏が3年前の大阪府知事選で掲げた公約、たとえば「子どもが笑う大阪」と今回の教育基本条例案が全く矛盾するにもかかわらず、その政策の整合性が全く意識されていないことである。「子どもと親が泣く」教育基本条例案が、橋下氏の「子どもが笑う」公約とは無関係にただ「賛否」を問われることに対しては唖然とする他はない。

第2は、教育基本条例と職員基本条例の内容を意図的に曖昧化して本質を逸らしていることだ。「知事が学校の教育目標を決めることなどを盛り込んだ教育基本条例案」、「幹部職員を公募し、職員の人事評価や処分を厳しくする職員基本条例案」といった誤った例示がどれだけ両条例案に関する理解を歪めるか、メディア関係者なら誰でもわかることだ。

第3は、今回のダブル選挙の争点を事実上大阪都構想と曖昧化した教育基本条例・職員基本条例に限定しようしていることだ。ここでは、府議会や専門家の反対を押し切って橋下知事大阪都構想の拠点にしようと府庁舎のWTC移転を強行したこと、東日本大震災の余波でWTC庁舎の耐震性に致命的な欠陥があってとして拠点構想を断念したことなど、その結果巨額の財政損失を生み出したことなどどこにも出てこない。ただ「大阪都構想」という政策を内容抜きで取り上げ、それが争点になるかどうかを訊いているだけだ。

第1の問題点をもう少し丁寧に説明しよう。周知のごとく橋下氏は、若いお母さん向けの「子どもが笑う大阪」という公約を掲げて当選した。橋下氏に投票した大阪府民の多くは、この公約を素朴に信じた人が多い。だが「子どもが笑う大阪」を公約に掲げて当選したはずの橋下知事が真っ先に手を付けたのは、こともあろうに大阪が世界に誇る「大阪国際児童文学館」の閉鎖(移転・縮小)だった。

大阪国際児童文学館は、子どもが好きな人なら誰もが知っている国内最大の児童文学館である。同館は1979年の国際児童年を記念して財団法人設立が計画され、児童文学研究の第一人者、鳥越信早大教授から12万点に及ぶコレクションの寄贈を受けて1984年5月5日の「子どもの日」に開館した。大阪府職員(営繕部)が精魂を傾けて設計した建物は、デザイン的にも優れた公共建築として建設省から日本の「公共建築百選」に選定された。

館長もスタッフも充実していた。歴代館長には名高い児童文学者が並んでいたし、財団理事長には橋下知事が大好きな司馬遼太郎氏も就任していた。スタッフも「児童文学研究のメッカ」という名にふさわしく、30名もの専門研究職員が配置されていた。鳥越コレクションには、貴重書として名高い「赤い鳥」「コドモノクニ」などの大正・昭和初期の児童雑誌全巻が揃えられ、児童文学の傑作が相次いで発表された「立川文庫」の初版本もすべて揃っていた。

こんなユニークな存在が国際的にも評価され、開館以降、大阪国際児童文学館国会図書館でもないのに年間2万点にも上る児童関係図書が民間出版社から無償で寄贈されるようになった。出版社のみならず一般の利用者からの寄贈も多かった。大阪国際児童文学館は、大阪府民のみならず全国の児童文学愛好者から支援され、東京上野の国際子ども図書館(資料40万点)を遥かに上回る70万点を超える図書資料を所蔵するまでに成長したのである。

ところが誰に知恵を付けられたのか知らないが、橋下知事は“マーケティング”の観点から児童文学館の場所は中央図書館(東大阪市)のほうが便利で使いやすいと突然主張し、多数の児童文学者や府民市民、地元自治体などの反対を押し切って2009年末に閉館を強行した。しかもそのやり方が、“スパイ”もどきのあくどくて汚いものだった。橋下知事は自分の私設秘書に命じて館内を「隠し撮り」させ、「映像を見る限り、来場者を増やす努力を行っている形跡は全く見られない」と勝手に決めつけて閉鎖を強行したのである。

「子どもが笑う」どころか、「子どもの心を踏みにじる」ことに平気な橋下知事の極めつきは、カジノ合法化をめざす「国際観光産業振興議員連盟(カジノ議連)」の国会議員らが出席した「ギャンブリング・ゲーミング学会」(2010年10月28日)での発言だった。橋下知事は、「ギャンブルを遠ざける故、坊ちゃんの国になった。小さい頃からギャンブルをしっかり積み重ね、全国民を勝負師にするためにも、カジノ法案を通してほしい」と並みいる国会議員らにカジノ合法化を求めた。加えて「増税よりカジノ。収益の一部は教育、福祉、医療に回す。隣の兵庫県知事が反対しても無視。猥雑なものは風俗店でも何でも全部大阪が引き受ける」と広言したという。

恐るべき発言だ。子どもの頃からギャンブルを仕込み、全国民を勝負師にするなど、まるで「ヤクザ映画」を地で行くような話ではないか。橋下知事のいう「子どもが笑う大阪」とは、子どもにギャンブルを仕込むことだったのだ。また「猥雑なものは全部大阪が引き受ける」といった発言は、大阪の品格をいやしめ、大阪を「ギャンブルと風俗の町」にすると言っているのと同じだ。橋下氏はどうしてこれを大阪ダブル選挙の公約にしないのか。(つづく)