“財界による、財界のための、財界の地方計画”、宮城県震災復興計画を改めて問い直す(3)、(震災1周年の東北地方を訪ねて、その20)

 宮城県復興計画の性格をワンフレーズで言いあらわすとすれば、それは“財界による、財界のための、財界の地方計画”ということになるだろう。より具体的に言えば、「財界による=野村総研による計画策定支援」、「財界のための=東北州実現のための」、「財界の地方計画=選択と集中を原理とする地方再編計画」と言うことができる。

 もともと財界は、第1次全国総合開発計画以来、5次にわたって改訂されてきた国土開発計画をフルに活用して資本蓄積を図ってきた。国土開発計画にもとづく中長期の公共投資計画によって、企業立地と資本活動に必要な資源開発とインフラ整備を大々的に推進し、開発利益を独占することで経済成長を謳歌してきたのである。

ところが転機が訪れたのは、経団連が1990年代半ばに従来の開発主義政策から構造改革政策へ国家戦略を転換した直後の政策提言・『新しい全国総合開発計画に関する提言−新たな創造のシステムによる国土・地域づくりを目指して−』(1996年7月)だった。経団連は「これまで策定されてきた4つの全総計画に対する評価」と「新しい全総計画の位置づけと求められる役割」について次のように述べている(要旨)。

(1)全総計画を実効あるものにする各省庁の政策が、多様性の重視という国民の指向や本格的な国際化・情報化の進展といった時代の大きな潮流を見落とし、従来までの全国一律を基本とした発想から脱しきれなかったために、地域が個性を伸ばせないまま大競争時代の到来という大きな流れのなかで取り残されるという事態を招いてしまった。

(2)今後の基本方向としては、「国土の均衡ある発展」という目標を改めて掲げるとしても、各地域が同質で同じような形態での発展を目指すということを意味するものであってはならない。新しい全総計画では地域がそれぞれの特徴を活かした独自の発展を遂げていくため、地域の「個性化」「自立化」さらには「地域間競争」を促していくことを基本に据えることが何よりも重要である。

4全総までの国土開発計画の一貫した理念(建前)は、地域間格差の是正による「国土の均衡ある発展」だった。国土開発計画は国土の生産力の発展を主目標としながらも、他方では少なくとも地域格差の解消など地域間の平等実現の目標を掲げていた。1全総(1962年)の工業分散による「地域間の均衡ある発展」、新全総(1969年)の産業拠点開発とネットワーク化、3全総(1977年)の「人間居住の総合的環境の整備」、4全総(1987年)の「多極分散型国土の構築」などがそれである。

だが5全総(1998年)では、経団連の批判と提言を受けて、計画理念としての「国土の均衡ある発展」は放棄され、新自由主義的な「地域の選択と責任にもとづく地域づくり」に代わった。「地域の個性化・自立化」との名のもとに「自ら生活圏を育て上げていく」ための「地域間競争」が全面的に強調されるようになったのだ。国土計画の目標と役割が、自民党政府と中央官僚の合作による地域分散型の公共投資配分計画から、市場原理に基づく財界・多国籍企業主導の地域再編計画すなわち地域投資の「選択と集中」へと大きく舵が切られたのである。

国土計画の新自由主義的改革の行き着く先は、国土総合開発法(1950年)の改正と国土形成計画法(2005年)の制定だった。そして改正法にもとづく「多様な広域ブロックが自立的に発展する国土を構築するとともに、美しく暮らしやすい国土の形成を図る」とする新しい国土計画(全国計画、2008年)が策定された。国土総合開発法から国土形成計画への移行は、以下の3点に要約される。
(1)国土計画の目標と役割が「公共投資による地域開発=国土の均衡ある発展」から「市場原理にもとづく地域投資の選択と集中=国土の効率的再編と経営管理」に変わった。
(2)国土計画の体系が「都道府県を基礎とする全国計画」から「道州制と広域市町村合併を推進するための全国計画と広域地方計画」の2本立てとなった。
(3)国土計画の参加主体が「国家主導=官主導」から「「新たな公」の担い手=多様な民間団体の参加」へ拡大された。

東北地方をはじめとする「広域地方計画」は、道州制を想定した国土8ブロックで2009年中に全て策定された。この中で注目すべき事実は、各ブロックに設置される広域計画組織の最高責任者に電力会社の元社長・会長が数多く就任していることだ。東北圏計画は東北電力、北陸圏計画は北陸電力、近畿圏計画は関西電力、四国圏計画は四国電力、九州圏計画は九州電力というように、実に8ブロックのうち5ブロックの計画責任者が電力会社の最高幹部で占められている。つまり「広域地方計画」は電力会社の支配圏にもとづいて策定されているのであり、このことは道州制の実現が電力会社の経営戦略に合致していることを示している。

同時に興味深いことは、広域ブロックの産業・都市の成長政策を検討する国土審議会の「広域自立・成長委員会」の委員長に寺島実郎氏(日本総研理事長)が就任していることだ。寺島氏は宮城県震災復興会議の副議長として、「国の大きな復興計画に関する議論より(宮城では)挑戦すべきテーマがクリアに出ているので、宮城の計画が震災復旧のモデルになるのではないかと期待している」(河北新報、2011年5月11日)と述べている。つまり、宮城県の震災復興計画を「東北圏広域地方計画」の突破口に位置づけているということだろう。

すでに策定されている東北圏広域地方計画の主なポイントとしては、(1)基幹産業である農業・水産業の収益力の向上、(2)次世代自動車関連産業集積拠点の形成、滞在型観光圏の創出、(3)リサイクル産業集積等を活かした循環型社会づくりの3点が挙げられている。村井宮城県知事が震災復興計画として実現しようとしている「農地の集約による大規模農業の創出」や「漁港の集約と漁業権の民間企業への開放」などのプロジェクトは、この東北圏計画の具体化に他ならない。(つづく)