「東京一極集中=世界都市東京」を目指すアベノミクスは、「地方創生=地方植民地化」を推進する「都市国家構想」と連動している、安倍政権における目玉政策と経済動向の乖離(3)、「地方創生」キャンペーンの意図と役割を分析する(その12)

少しブログが滞ってしまった。(11月8日の午後1時から同志社大学クラークチャペルで開催される公開シンポジウムで「京都の市電をまもる会」の話をすることになり、その準備に時間をとられていた)。今回からテーマを再び「アベノミクス」に戻すことにしよう。すでに繰り返し述べたように、安倍首相は取って付けたように「地方創生」を言うが、その真意は2020年東京オリンピックを機に東京一極集中を加速させ、「世界都市東京=都市国家構想」の実現を目指していることに変わりない。しかしこの点に関しては、マスメディアのなかでもほとんど指摘されていない。

「世界都市東京」を司令塔とする「都市国家構想」とはどんなものか。一言で言うと、それはグローバル資本の拠点である「世界都市東京」を頂点にして国内の都市ヒエラルキー(階統的ネットワーク)を形成し、それ以外の周辺地域である地方は事実上「植民地化」して、日本国土を一元的に支配しようとする極め付きの集権的地域支配構想である。

具体的なイメージは、「21世紀半ば日本は人口が8千万人台になり、半分以上が東京圏に住むといいます。東京圏への集積とともに各地にコンパクトに人々が住む地方都市が存在する巨大な都市国家になる可能性は高い。東京が稼いで国を支え、地方は独自文化と自然を維持し、人々が互いに非日常を求めて交流する」(市川宏雄、朝日新聞オピニオン欄、2013年12月12日)とあるように、21世紀半ばの日本は「世界都市東京」と地方都市群からなる「巨大都市国家」となり、地方は都市国家の「残余空間=植民地」となって独自の文化と自然を維持すればよいというのである。

この財界イデオローグに代表されるような「都市国家構想」は枚挙の暇もないが、すでにその萌芽は1970年代からニューヨークを中心とする「世界都市」論のなかに見出される。そして1980年代に入ってからは、多国籍企業の世界的広がりとそれにともなう国際金融市場(グローバルマネー)の形成につれて、グローバル経済の拠点となる「世界都市」が実体的にも登場するようになり、その主な特徴は、アメリカの地理学者ジョン・フリードマンによって次のように整理されている(加茂利男、『世界都市―都市再生の時代の中で―』、有斐閣、2005年)。

(1)資本主義の世界システムの中で、法人の拠点、金融センター、グローバル・システムや地域・国民経済の結節点としてその機能を果たす都市
(2)多国籍企業がその基地として立地し利用するため、複雑な国際的・空間的ヒエラルキー(階統秩序)の中に位置づけられる都市
(3)グローバルな管理機能の集積を反映して、法人の中枢部門、国際的な金融・輸送・通信・広告・保険・法務など高次ビジネス・サービスなどが成長する都市

これまでも東京はニューヨーク、ロンドンなどと並ぶ「世界都市」として喧伝され、国内では間断なく東京一極集中が続いてきた。これだけなら不思議でもなんでもないが、現在の際立った特徴は、それが「アベノミクス」を下敷きにした都市政策として精力的に推進される一方、「地方消滅」と表裏一体となった国土再編政策にまで発展してきていることだろう。つまり、日本創生会議(座長、増田元総務相)の「人口急減社会=地方消滅」プロパガンダを背景にして、このままで行けば「地方消滅」するなどと煽り、この事態を回避するには「地方創生=地方中枢拠点都市集中」を推進しなければならないというのである。

 だが、安倍政権の掲げる「地方創生」は表向き「地方重視」のように見えても実体はそうではない。たとえば、今国会に上程された「地方創生法案=まち・ひと・しごと創生法案」の「第一条」(目的)の冒頭には、「この法律は、我が国における急速な少子高齢化の進展に的確に対応し、人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、将来にわたって活力ある日本社会を維持していく」云々と、いかにも東京一極集中に歯止めをかけるかのような表現になっているが、よく読めば実はそうなっていない。

 それは「東京圏への人口集中を是正する」と明確に規定するのではなく、「東京圏への人口の“過度の集中”を是正する」という表現になっていることでもわかるように、安倍政権はもともと東京一極集中に歯止めをかける意思など毛頭ないのである。「過度の集中を是正する」ということは、「適度の集中であれば構わない」ことと同義であり、安倍政権はこれからも「適度の集中」であれば東京圏への人口集中を進めると言っているのである。

 言うまでもないことだが、日本人口はこれから一段と減少傾向を強めるとされるから、東京圏への人口集中に明確な歯止めをかけない限り、地方圏から東京圏への人口流失を食い止めることは出来ない。言い換えれば、東京一極集中を断固として是正しない限り、「地方創生」など何の意味も持たないというべきだろう。それを余すところなく示したのが、安倍政権が成長戦略の目玉と位置付ける東京圏の「国家戦略特区」事業計画案が「地方創生国会」の開会直後、10月1日の東京圏の特区区域会議において提示されたことだ。

 事業計画案の中身は、三菱地所三井不動産などデベロッパーが参画して、東京都心10、横浜1の「国家戦略特区」11区で一体的な国際ビジネス拠点を整備するというもの。都市計画法などの容積率の大幅規制緩和制度を活用して外資系企業を誘致しやすい環境を作り、国際都市(世界都市)として東京を再生しようという狙いだ(日経新聞、2014年10月1日)(毎日新聞、10月2日)。石破国家戦略担当相は、会合後の記者会見で「東京圏はいろいろなポテンシャルを秘めている地域。日本全体を牽引しなければならない」と強調し、舛添東京都知事は「私たちの意見がまとまって入っている。大変結構だ」と相槌を打ったという(毎日、同上)。

 また最近の日経新聞の「国家戦略特区特集」(2014年10月30日)では、石破担当相が「東京を経済成長のエンジンとしてさらに発展させていきたい。(略)特区を通じて東京を『世界で一番ビジネスをしやすい街』にして、世界に肩を並べて競争していく拠点にする」と息巻き、地方創生国会が空転している状況など「どこ吹く風」といった有様だ。またこれに呼応して、木村三菱地所会長は「東京でこれほどの規模の開発が進むのはバブル期以来だが、これも東京五輪の開催決定が追い風となった。このチャンスをとらえて東京に足りない機能を補う必要がある。オフィスや商業、住宅、文化・娯楽、教育などの機能を都市へ一段と集中し、魅力を高めることが必要だ』と気炎を上げた。(つづく)