菅政権の“延命手段”に利用された東日本復興構想会議、宮城県震災復興計画を改めて問い直す(8)、(震災1周年の東北地方を訪ねて、その25)

 いまから思えば、東日本復興構想会議は菅首相の“延命手段”のひとつにすぎなかったということであろう。もっと有体に言えば、当時の「菅降ろし」の嵐の中で「死に体」状況に陥っていた菅政権が、不遜にも東日本大震災を奇貨として利用し、絶体絶命の危機を乗り切るための「政治的チャンス」として利用したということだ。

最近の国会事故調査委員会の議論の中でも次第に明らかになりつつあるように、菅首相が行かなくてもいい原発事故の現場を視察して指揮命令に無用の混乱を与えたのは、危機管理の先頭に立つ首相の「パフォーマンス」を国民に印象付けようとするためのものだった。また復興構想会議の設立は、2010年7月参院選挙で菅首相が突如打ち上げて大敗した「消費税10%」の公約を“震災復興税”との名目で復活させ、自らの政権延命に繋げようとする政治的布石だった。

菅首相の政治的意図は、復興構想会議の議長に起用された五百旗頭防衛大学校長の言動によっても証明される。第1は、五百旗頭氏が初会合(4月14日)の議長挨拶の中で原発事故問題への対応を復興構想会議の任務から外すと(菅首相から指示されたことを)臆面もなく言明したことだ。第2は、同じ場で「震災復興税」の導入が復興構想会議の基本方針だと示唆したことである。そして第3は、(これは後になってわかったことだが)それ以外の内容は菅首相から何ひとつ指示されていなかったことである。

このことは原発事故対応の見通しがつかない混乱状況のなかで、とりあえず復興構想会議という場を設定して復興対策の議論を開始しながら、結果としては膨大な復興コストを賄うためには「震災復興税やむなし」との世論形成を狙ったものであろう。だが原発災害に直面する佐藤福島県知事を前にして、「原発問題は議論から外す」という露骨な議長発言(首相指示)はさすがに多くの委員から反発を招いた。「原発問題を論じないで何のための復興会議か」という意見が相次ぎ、五百旗頭議長はついに原発問題を議論の対象に取り上げざるを得なくなったのである。

過去のいかなる大災害と比較しても、東日本大震災の最大の特徴は原発事故(炉心メルトダウンにともなう深刻な放射能汚染)という“人災”をともなっていることだ。だがこともあろうに、菅首相原発問題を復興会議の対象から外すことを決め、五百旗頭議長もそれに唯々諾々として従った。救いようのない不見識さだというべきだろう。だから菅首相が選んだ復興会議(親会議)委員のなかにも、仙石官房副長官が選んだ検討部会(下部組織)専門委員のなかにも原発問題の専門家はだれ一人としていなかった。

本来ならば、原発問題を取り上げることに方向転換した時点で専門家を緊急に補充すべきであった。だが、菅首相も五百旗頭議長もそれに必要な措置を取ることはなかった。いわば原発問題の素人集団が「原子力災害からの復興に向けて」(第3章)を書き、お座なりの『復興への提言』をまとめたのだ。被災者や被災地にとって、これを「悲惨のなかの絶望」と言わずして何であろうか。

一方、震災復興税に関しては、五百旗頭議長は事前に十分な手はずを整えて臨んでいる。議事録を読むと、議長は「お手元に議長提出資料といたしまして、方針の5項目のようなものがあると思います。(略)4番目は、全国民的な支援と負担が不可欠である。かってない支援の輪が広がっておりますが、それで足りないところは沢山ある。それに対してしっかりとした対処をしなければならないと思います」とサラリと述べているだけで、震災復興税に関してはことさら言及している様子はない(だから議論にならなかった)。

しかし議長提出資料の基本方針には、「4.全国民的な支援と負担が不可欠である」との項目が挙げられ、その下には紛れもなく「かってない支援の輪(義援金)+公債+震災復興税」との記述が付されている。また会合後の記者会見で五百旗頭議長は、「今回の震災から復興するための財政的な負担の確保には、あらゆる方途を尽くすべきだ。復興のための経費は阪神・淡路大震災の比ではなく、財源が義援金と公債だけでいいのか」と強調し、「財源については、国民全体で負担することを視野に入れなければならないということで、基本方針の中に『震災復興税』ということばを入れた。ただ具体的にどうするかはこれから議論を詰めることだ。会議の下に置く『専門部会』でも問題の功罪を論じてもらい結論を得たい」と踏み込んだ。

会議の席上では明言せず、その後の記者会見で「震災復興税」が復興会議の検討課題であるかのごとく語るのは、明らかに議長のミスリードといわなければならない。しかも議長の指示に従ったのか、検討部会の初会合(4月20日)においても、飯尾部会長が「震災復興税」の検討を前向きに進めるとの態度を表明し、このままでいくと部会が先行して「震災復興税」導入の具体案をつくる可能性が出てきた。

このような動きに対しては、「復興プランができる前に税の話が先行するのかおかしい」との声が親会議の中から噴出し、「検討部会の部会長が親会議よりも自分の考えを前面に押し出すことには違和感を覚える」との抗議の声が高まった。なかでも、第2回会議(4月23日)に提出された達増岩手県知事の意見、「今後の復興構想会議の議論の方向性や検討の柱建てについて」の影響は大きかった。

同提出資料は、「1.震災復興税については岩手県は反対である」、「2.そもそも震災復興税等復興財源については政府で検討すべきであり、当会議においてその議論をするのが適当かどうか疑問である。もし議論をするのであれば、日本政府の財政に関する詳細なデータや特定のマクロ経済政策が日本経済にどのような影響を及ぼすかといった検討が必要である」というものであった。(つづく)