事大主義の「東北再生委員会」ではなく、社内の「東北再生取材班」にこそ復興提言をさせるべきだった、河北新報はいかに復興を提言したか(3)、(震災1周年の東北地方を訪ねて、その29)

河北新報社は、今年元旦に3分野11項目の提言を発表して以来、社内に「東北再生取材班」を編成して全国に取材網を広げ、提言を実現するための課題や道筋を探ってきた。

その成果は、これまで第1部「世界に誇る三陸水産業振興」(10回、1月24日〜31日)、第2部「高台移住の促進・定着」(8回、2月22日〜29日)、第3部「新たな『共助』の仕組みづくり」(8回、3月24日〜4月2日)、第4部「地域の医療を担う人材育成」(8回、4月25日〜5月5日)、第5部「自立的復興へ東北再生共同体を創設」(8回、6月4日〜10日)の計42回にも及んでいる。

解明すべきテーマを設定し、そこに取材チームを集中的に投入して解決すべき課題の方向を見出すというこの種の「調査報道」(企画報道)は、ジャーナリズム本来の姿であり、被災地の報道機関ならではの真骨頂だと言える。巷間溢れている「お下がり記事」(記者クラブでの当局情報をそのまま垂れ流しているだけの報道)などに比べれば、はるかにリアリティがあり迫力に富んでいて興味が尽きない。

とりわけ「東北再生取材班」のとった被災地と全国を結んで共通課題を相互比較的に掘り下げるという取材方法は、被災地だけでは得られない新たな情報と視点をもたらすもので、これからの復興を考えるうえでの有意義な記事が多く新たな地平を切り開くものだ。また、被災地視点から発掘される新しい事実と実態に基づく報道は、社告の思惑を超えて読者に訴えてくるたくましいエネルギーに溢れていた。

だが、第1部から第5部までのシリーズ全体を通して読んだ感想を忌憚なく言えば、それは「東北再生委員会」といった東京コンプレックスに満ちた“中央志向・政府目線”の大仰な組織などつくらなくても、社内の「東北再生取材班」を駆使して自由に語らせ、情報発信した方がはるかに優れた提言ができたのではないかということだ。外部の(それもいわゆる知名度の高い)専門家やタレントに頼らなければ新聞社の権威を保てないなどという事大主義はジャーナリズムの堕落そのものであり、ジャーナリストの成長を妨げる以外の何物でもないからである。

このことは、とくに第1部「世界に誇る三陸水産業振興」シリーズで感じたことであるが、もし取材班が宮城県復興計画とコラボする再生委員会の提言項目に縛られずに自由に全国取材し、その地で真面目に漁港・漁場・漁村づくりに取り組む漁業者や研究者の意見や実態をそのまま報道することができていれば、自ずと東北沿岸被災地域の復興のあり方が導かれただろうということだ。取材班が見た全国の漁港の先進例は、「選択と集中」による漁村・漁業の構造改革的淘汰の結果ではなく、「持続的発展」を目標とする地道な協業・共同作業の現場に他ならなかったからである。

だが、再生委員会の提言項目のなかでもひときわ破綻が露わになったシリーズは、第5部「自立的復興へ東北再生共同体を創設」だった。第1部から第4部までのシリーズが分野ごとの政策に関する提言項目の具体化を目指すものであるのに対して、第5部はこれらの諸政策を統括する“総司令部”を創設しようという統治機構そのものにかかわる戦略的課題だったので、その破綻が早くも明らかになったことは、河北新報の提言全体の権威を著しく損なうものになった。再生委員会の提言は次のような内容だった(要旨)。

(1)東北の自立的な復興を実現するためには、被災地起点で構想する広域行政組織「東北再生共同体」の創設が不可欠だ。

(2)財源配分、事業の優先順位付けなど復興に向けた自治体間の利害調整を長期にわたって担い、被災3県の連携に加えて他の3県も含めた東北全体のグランドデザインを描いていくには、6県を包括した広域的な行政組織が必要である。

(3)具体的には、1980年代初頭にフランスが分権改革の一環として導入したレジオン(道州)が参考になる。州政府には域内で大規模開発を実施する際の計画立案と資金調達という役割が与えられている。国内では関西広域連合(2010年12月発足)が一つのモデルとなるだろう。

(4)長期にわたる復興を支えるためには、資金調達のレベルから新たな仕組みの構築が求められる。東北6県による「東北共同復興債」を発行し、津波被災地や原発事故被害が続く福島を東北全体で支える意思を表明する。官民の財政・資本力を裏付けとして投資や経営支援をバックアップする組織として「東北再生機構」の新設も必要だ。東北再生機構は、投資機能に加え、起業の提案や市場の開拓など踏み込んだ経営支援にも積極的に関与する。

(5)6県が財産権を有する広域行政組織として「東北再生共同体」が創設されれば、東北全体で支え合う仕組みが実質化される。共同体が復興債の格付けの裏付けになるため、国内外から広く資金を調達しやすくなる。こうした起債の仕組みを可能とするため、国には特別法の制定を強く求める。

(6)自治体や事業者とともに事業計画を策定し、必要な資金を市場から調達する役割を東北再生共同体と東北再生機構が担う仕組みが実現すれば、財政システムの一国多制度化に一石を投じ、地方分権の推進に弾みがつく。

 「東北再生共同体=東北再生機構」の提言は、再生委員会のオリジナルなものではない。有体に言えば、野村総研震災復興支援プロジェクトチームの『震災復興に向けての緊急対策について、第2回提言、東北地域・産業再生プラン策定の基本的方向』(2011年4月4日)のコピーにすぎない。村井宮城県知事が政府の復興構想会議で提起したにもかかわらず取り上げられなかったので(得策でないと判断されたので)、その代わりに河北新報が復活させたのであろう。だが、この試みは成功しなかった。(つづく)