被災直後の“願望アンケート調査”が復興まちづくり調査だと言えるのか、被災者を利用したにすぎない都市基盤整備調査、平成大合併がもたらした石巻市の悲劇(8)、(震災1周年の東北地方を訪ねて、その42)

石巻市震災復興基本方針」が2011年4月27日に発表されて以降、9月12日の「被災市街地復興推進地域の決定について」までの4ヶ月半、驚異的なスピードで石巻市の「復興まちづくりアンケート調査」と「都市基盤整備復興計画」の策定作業が進められた。全ては宮城県のいう「災害に強いまちづくり宮城モデルの構築」すなわち高台移転・職住分離・多重防御3点セットを実行するためであり、その前提となる被災地市街地に“建築制限または禁止”をかけるためだ。

建築基準法第84条には、都市計画事業の必要がある場合、災害発生から2ヵ月間に限って被災市街地の建築制限を認める条文がある。しかし、宮城県の強硬な主張によって「建築制限(禁止)期間」が6カ月に延長され、2011年9月11日までが有効期限となった。そして9月12日に被災市街地復興特別措置法第5条にもとづく「被災市街地復興推進区域」を指定すれば、さらに震災発生から2013年3月10日までの2年間、建築制限(禁止)を続けることが可能になったのである。

石巻市の復興まちづくり作業は、被災者の意向やニーズとは何ら関係なく県や市当局のスケジュールに従って流れ作業のごとく進められた。「市民アンケート調査」も「町内会・市民意見交換会」も全ては「建築制限(禁止)区域」を指定するための準備手続きの一環であり、「被災市街地復興推進区域」を指定して高台移転・職住分離・多重防御3点セットを実施するための単なる“通過儀礼“にすぎなかった。

石巻の都市基盤復興に関する市民アンケート結果』(2011年6月3日)によると、調査概要は以下のように記されている。
【目的】市民のまちづくり復興への意識調査
【期間】5月1日〜5月15日、2週間
【聴取方法】罹災者を対象とし、罹災証明や住宅の応急修理の発行窓口(市役所)や避難所、仮設住宅、市内の大手スーパーなどで実施。窓口へのアンケート配置のほか、臨時職員等(約30名)が市民に口頭で依頼するなど積極的な取得を実施。
【収集数】9806件(5/22集計)、内訳:石巻N=8396、河北N=168、雄勝N=273、北上N=368、牡鹿N=418、河南・桃生N=126、無記入N=57
【聴取内容】①性別、②年齢区分、③被災前職業、④被災前住居地区、⑤被災前の住居区分、⑥住居の被害状況、⑦今後の住まいの希望、⑧今後の住まいの希望場所、⑨必要だと思う防災体制、⑩今後のまちに望むもの、⑪自由意見

 調査目的が「市民のまちづくり復興への意識調査」というのであれば、少なくとも調査項目は、(1)市民の被災実態を物質面と精神面から明らかにし、(2)被災者にとって復興とは何か、被災者は復興のために何を一番望んでいるか(ニーズ)を解明し、(3)そのため被災者が当面どんな施策を求めているか(政策の優先順位)を明確化するなど、復興の道筋を現実的に示すための質問を用意しなければならない。

しかし、実際に行われた「聴取(質問)内容」は、①〜⑥の事実確認項目群と⑦〜⑩の「まちづくり願望」項目群で構成されていて、両者の質問群の間には何の関係性も見出せない。つまり大津波で家や家族を失い、茫然自失の状態に陥っている被災直後の市民に対して、「今後のお住まいの希望は」「今後のお住まいの場所は」「防災体制で必要な対策は」「あなたが住むまちに望むものは」などといった“単なる願望”(夢物語)を聴いても何の意味もないということだ。

それに調査方法も杜撰きわまるもので、これではとても「市民アンケート調査」などとして公表できるものではない。調査場所も避難所・仮設住宅・市役所窓口・大手スーパーなどに分散していて、とにかく臨時職員が手あたり次第に集めた「街頭アンケート調査」レベルのものでしかない。したがって回収率(回収数/人口)は、市全体で僅か6.5%、高い支所(北上11.4%・牡鹿11.2%)で10%余り、低い支所(河北1.5%、河南・桃生0.5%)では1%を切るなど、「とにかく市民アンケートをやった」という“アリバイ作り”の域を出ないものだ。大体数パーセント(なかには1%以下)程度の回収率で「民意が測れる」などと考えている方がどうかしている。

ともあれ、こんな調査結果が市のホームページに恥ずかしげもなく堂々と公表されているにもかかわらず、市民の側からはさしたる批判もなく、世にいう学識経験者・専門家が「まちづくりアドバイザー」(助言者)として復興まちづくりに参加しているのだから、石巻市は「不思議の国」という他はない。だが問題は、この「不思議の国」が被災者や市民にとっては必ずしも「幸せのまち」でないことだ。次回は、具体的なまちづくり現場での矛盾について語りたい。(つづく)