なぜ、雄勝町地区の復興まちづくりは進まないのか(五)、「復興計画(素案)」に対する雄勝地区住民の批判は正当かつ本質的なものだ、平成大合併がもたらした石巻市の悲劇(14)、(震災1周年の東北地方を訪ねて、その48)

亀山市長・本庁幹部職員約20名、市議数名、雄勝支所長・支所職員数名、雄勝地区住民約100名が参加した「石巻市震災復興基本計画(素案)」に関する意見交換会(2011年11月27日)は、雄勝地区復興まちづくりの歴史的な第3ステ―ジの幕開けとなった。市長挨拶の後、地区住民の前に初めて公開された「復興計画(素案)」に対して中心地住民の批判が集中し、意見交換会は激しい質疑応酬の場となった。

雄勝地区における「復興計画(素案)」の意見交換会は、“世界の復興モデル都市”を目指す石巻市に対するはじめての「市民の本格的な批判の場」だったと言ってよい。市当局は専門家会議の意見を参考にし、市民アンケート調査の結果に基づいて「素案」をつくったと強調したが、宮城県の「高台移転・職住分離・多重防御」の復興原則に対して何ら批判できず、県や市の方針の枠内でしか発言しない(できない)「専門家会議」(研究者・建築家など)の意見などおよそ検討にも値しない。また5月時点の「市民アンケート」が“イカサマ”に近いものでしかないことはすでに述べた。

これに対して、『ブログ・石巻市雄勝町の復旧復興を考える』に掲載された意見交換会の地区住民の意見や批判はまことに本質的かつ本格的なものであり、復興計画の依って立つ原点を示したものであった。以下、主要な項目ごとに整理してその内容を紹介しよう

【地区住民の意見・質問】
(1)復興計画の策定方法・手続きについて
 ・(支所の行った高台移転の)意向調査の半数が「まだ決めてない」「未回答」というのが現実ではないか。
 ・先に建築規制をかけると、まちづくりも何もあったものではない。
 ・町外に3000人となった現状で市の考える「住民の意向」とは何なのか。
 ・今まで住民の声を聞かなかったことが問題でないか。
 ・高台移転の説明会に行った。何回も住民には情報を与えた、説明したというがそんなことはない、一回もない。説明会では懇談会を開くといったがそれもない。
 ・私は雄勝を再生してほしい。ゆっくりでもいいから。
 ・支所は地区会長会とまちづくり協議会をもって雄勝の総意としているが、協議会は委員36名のうち最近は半分も来ていない。10名の地区会長のうち3、4人しか出ていない。きちんと町の意見が吸いあがるような協議会であり、決め方をとってもらいたい。
 ・まちづくり協議会を傍聴したが、被災にあった人は何名もいない。被災にあった人の意見を無視してすぐ「高台移転だ、高台移転だ」という。被災にあった人が「高台移転はちょっと」と言うと、被災してない人が「一回決まったのにまた戻すのか」と(脅す)。だから、またこれから協議会に意見を求めたらまた同じことを繰り返す。それなら住民みんなにアンケートとればいい。住民投票をすればいい。

(2)復興計画の内容について
 ・最低限の防波堤、立派な避難道路、立派な避難所があればいい。
 ・57年間雄勝で生きてきたが、何回も山津波がおこっている。チリ津波も体験した。逃げ道さえつくってくれれば1000年に1回でなくてもチリ津波程度に対応できるくらいでいい。
 ・高台移転のみ話があるようだが、今の土地を2、3mかさあげして、そこから道路を3m高くしてそれから防波堤をつくる、それでいい。まだ決まってないのだから変更できないのか。
 ・折衷案はどうか。高台移転と規制をかけないで住みたい人はそこに住ませる。本人の自由だから。
 ・街はかたまらなければだめだ。
 ・雄勝は土盛りできる。今なら1軒も建ってないからできる。28個所の高台をつくって道路をつける費用よりもはるかに安くできるのではないか。
 ・雄勝地区(中心)を高台でなく元の姿に戻してもらいたい。それだけなんです。
 ・防潮堤は今までの様に薄いのではだめ。今回の津波では押した波でなくて裏側からの引き波で倒れてしまった。だから道路を兼ねた防潮堤を、幅を広く、高さを高く、頑丈にして造ってもらえれば、そこから漏れた水は家を押し流す程の力はない。
 ・釜(地区)や大街道(地区)は堤防をつくって住めるのに、雄勝はなぜダメなのか。

(3)高台移転について
 ・高台移転というのは雄勝に適さない。山と海の境界線すれすれにへばりついて住んでいるのが雄勝なんだ。
 ・原(地区)が高台移転の候補地だそうだが、台風の時に土石流がすごかった。何でそんなとこに移転するのか。
 ・地域によっては高台移転の方がいい場所もある。しかし雄勝地区(中心)の一番広いところに建築制限をかけるとみんな高台に(行くことに)なるが、そんな場所はない。
 ・隣の高台に行くのに降りて非可住のとこを通ってまた登る、そんなのでは 生活にならない。2,3mかさあげすれば住める。
 ・雄勝地区の総論で話しても意味ない。雄勝に何戸が建つのか、買上金額はいくらなのかなど具体的に教えてほしい。
 ・5戸まとまって移転なら補助(金)を出すのでなく、一人で造成した場合でも補助を出してほしい。7、8割でもいいから補助する制度を作ってほしい。そうすれば長い間に家が増えてくる。
 ・28か所の高台候補地を地区会長が出したというが、それは地区のみんなが  「ここに上げてほしい」といったのではない。役所からいわれると地区会長がまじめだから「ここがいい」とたまたま出しただけで、これが住民の総意ではない。
 ・荒地区が昭和8年津波後に高台に移ったのは正解。市にとってこれがモデルケースだろうが、町の中心を再生するのにそれでいいのか。荒地区は28戸だから高台で済んだ。しかし、他の地区は真似しなかった。この手法は限界集落をつくるだけだ。

(4)建築制限について
 ・憲法29条にある個人の財産権を侵していいのですか。
 ・建築制限なんてかけないで欲しい。市は余計なおせっかいをしないでほしい。
 ・これだけ建築規制に反対意見が多いのに、あくまでも高台移転にもっていくのか、それとも新たに見直すのか、その辺をお聞きしたい。


【市の回答】
 ・建築規制(建築基準法第39条)については、住民の皆さんの合意をつくった後にかけるというのが大前提。[支所長]
 ・11月6日締め切りの意向調査は一次調査。最終確定まで2回、3回と徹底的に意向を調査する。[支所長]
 ・買上価格については、国の方針を待ってから。[建設部]
 ・堤防や高盛道路で囲まれた生活は住みにくいだろうということで集団移転が出てきたが、どうしても(元の場所に)住みたいというなら、しっかり検討したい。[市長]
 ・高台移転になった場合にのみ建築制限がかかるわけであって、ならなかった場合には規制はありえない。[建設部]
 ・ねばり強い防潮堤の整備が必要。[市長]
 ・雄勝エリアの素案は雄勝総合支所からあがってきているもの。本庁は住民との話し合いの元に方針が出されたと理解していた。今回、いろんな意見が出たので改めて総合支所と検討していきたい。[市長]
 ・支所の計画の練り方はまちづくり協議会との積み重ねで出したものだが、今日はこういう(建築規制反対、かさ上げで住みたい)話が圧倒的に多かったということで、もう一回調整しながらとりまとめという方向で進めていきたい。[支所長]

 通常の自治体であれば、市長・建設部長・支所長などが公開の席上で上記のような意見を表明したのであれば、少なくとも「復興計画(素案)」の雄勝地区に関する部分は抜本的に書き直されてしかるべきだろう。だがそうはならなかったところに、石巻市における“復興ファッシズム“の本質が見て取れる。(つづく)