被災者に対する“情報公開”と“合意”なき高台移転計画は必ず破綻する、平成大合併がもたらした石巻市の悲劇(番外編7)、(震災1周年の東北地方を訪ねて、その58)

2011年12月10日、石巻市震災復興基本計画(案)意見交換会において雄勝支所から提出された「高台移転計画の方針決定に係る経過概要」には以下のような内容が記されている。おそらく防災集団移転促進事業に関する国交省への申請書類にも、同趣旨の「住民合意」の経過が記入されるのであろうか。でなければ(住民合意がなければ)、事業認可に連なる大臣同意が得られないからだ。

「9月15日の雄勝地区震災復興まちづくり協議会に、本庁基盤整備課及び震災復興支援本部石巻事務所コンサルタントの担当者が高台移転事業説明を行い、その後の協議会での高台移転事業推進決定を受け、9月16日に開催した雄勝総合支所内連絡調整会議において雄勝総合支所として高台移転の方向づけを決定した。さらに9月28日、雄勝地区長会議で高台移転について本庁基盤整備課及びコンサルタントから説明を行い、地区会長会としても高台移転の方向で行くことを最終確認した。」

この文章(だけ)を読めば、「復興まち協」も地区会長会(区長会)もすでに9月段階で高台移転計画に賛成しており、防集事業推進を決定したかのようにみえる。だが「番外編4」でも書いたように、外部公募委員が半数を占めるような「復興まち協」が、そもそも組織の性格からし雄勝地区の将来(運命)にかかわるような高台移転計画を決定できる訳がない。「復興まち協」は市条例にもとづく公的な地域組織でもなければ、地域を代表する住民組織でもない。それは支所が便宜的に設けた単なる任意組織にすぎないのであって、高台移転計画を決定するような権限は一切与えられてないからだ。

もしこのようなことが許されるのなら、支所担当者が「公募委員」と称する自分の息のかかった人物を「復興まち協」に自由に送り込み、意のままに高台移転計画を“決定”できることになる。でも自分の地域の運命が「見も知らぬ公募委員」の手で左右されることなど、通常の住民意識や市民感覚では到底理解できないし、また住民自治の原則を根底から踏みにじるものであることは言うまでもないことだ。

くわえて、「復興まち協」の議事録は一切公開されていない(議事録がつくられているかどうかも分からない)ことも、地域組織としての必要条件(正統性)を欠いていることの表れだろう。これほどの重要案件がどのような議論と手続きを経て“決定”されたのかもわからないようでは、「密室協議」だと言われても仕方がない。

また7月末の「要望書」の提出以来、「復興まち協」の出席者はガタ減りとなったと聞いているので、会議が成立していたかどうかも疑わしい。もし支所担当者が「高台移転計画の方針決定に係る経過」を正当なものだと言い張るのであれば、彼はそれに必要な全ての資料を(「復興まち協」の正統性の根拠も含めて)公開に付さなければならない。

一方、地区会長会(区長会)の“最終確認”についても疑問が大きい。もともと「復興まち協」の委員に選ばれた部落区長は10名だけで、20を超える地区代表の過半数は参加していない。壊滅的な被害を受けた部落(浜)の代表の多くが参加しない「復興まち協」など何の存在意義もないと思うが、それはそれで高台移転への反対意見を弱めようとする支所なりの意図があったのであろう(公募委員には高台移転推進論者が多い)。

したがって「高台移転計画の方針決定」に関しては、「復興まち協」委員以外の部落区長への根回しが必要となり、それが“最終確認”の場を設けることになったと思われる。だが問題は、「復興まち協」においても地区会長会においても一部を除いて区長たちの発言がほとんどなかったことだ。長年にわたって「お上からのお達し」を承ることに慣れてきた高齢の“物言わぬ区長”たちの大半は、出席も疎らであり、会議に出てもただ黙って「座っているだけ」だったという。

それに平常時ならまだしも、ほとんどの地区では被災後住民が町外に離散しており、住民が集まって区長の報告を聞くとか議論するとかの機会は全くなかった。この状態はいま現在においても基本的に続いており、いわば伝統的な部落自治が崩壊しているのである。だから区長が出席してたまたま発言したとしても、それは彼自身の個人的意見であって、「部落の総意」だということにはならない。地区会長会での高台移転計画に関する最終確認の実態は、区長たちを集めた単なる説明会にすぎず、そこでの「暗黙の了解」を以て“最終確認”としたのであろう。

もし、支所が高台移転計画について本格的な住民合意を得ようとするなら、地区ごとの高台移転計画案を添付した詳しい説明書付きの「全世帯アンケート調査」あるいは本格的な“住民投票”によって賛否を問うべきだ。これまで「復興まち協」委員以外には一切情報を提供せず、各地区での申し訳程度の説明会の開催を以て「住民の意見を聞いた」とするのはあまりにもご都合主義過ぎる。事実、2011年10月4日から14日の間、雄勝地区内6会場、地区外1会場で行われた高台移転事業説明会には、地区内174人、地区外140人、計314人が参加しただけで、震災前人口4300人の10%にも満たなかった。(つづく)