福島原発災害の復興問題・復興課題にどうアプローチするか、福島原発周辺地域・自治体の行方をめぐって(その1)、震災1周年の東北地方を訪ねて(72)

 2012年3月末に東北3県を訪ねて以来、もう7カ月も経った。ブログの「震災1周年」の看板に偽りがあるといけないので、8月末に福島県に補足調査に出かけたのだが、それから2か月が過ぎている。福島原発災害の復興問題・復興課題をどう論じるかをめぐってなかなか焦点が定まらず、問題解明のアプローチ(切り口)の設定に手間取っていたからである。それほど原発災害構造は複雑であり、またその広がりは捉えきれないほどの広範囲に及んでいるといえる。

 これまでの岩手県宮城県の場合は、まず県レベルの復興計画の骨格と特質について述べ、次に市町村レベルの復興計画の典型例を分析するという流れで記述してきた。岩手県の場合は山田町、宮城県の場合は石巻市雄勝地区についてである。なかでも雄勝地区の場合は地元関係者や被災者から詳しい情報提供を受け、また現地にも度々出かけて話を聞いたので、相当突っ込んだ分析をすることが出来た。この11月上旬にも再度現地入りして、被災者の方々と意見交換することになっている。

 しかし福島県の場合は、従来の方法をそのまま踏襲することが必ずしも適切だとは思われない。その理由としては、(1)『福島県復興ビジョン』(2011年8月)や『福島県復興計画(第1次)』(2011年12月)が策定された当時、原発災害の全容が当事者でさえ必ずしも的確に把握されていたとはいえないこと(この状況は現在に至るも基本的に変わっていない)、(2)このような状況下で復興ビジョンや復興計画の内容を演繹的に解析しても、その内容の解明には限界があること、(3)市町村レベルの復興計画の内容は原発周辺地域・自治体とそうでない自治体とでは全く様相が異なり、典型事例を取り出して分析することが難しいこと、などがある。

 そこで数ある復興問題・復興課題の中から、原発周辺地域・自治体の復興(帰還)プロセスが今後どのように展開するかに絞ってテーマを設定し、それに関連する幾つかのサブテーマ(避難、除染、仮の町構想など)について論じようと考えた。具体的には、目下、避難を強いられている原発周辺地域・自治体および被災住民がふるさとへ帰還しようとするとき、そこにどんな障害や困難があるかを分析することによって、それら地域・自治体のこれからの行方を展望しようと思ったのである。

 このテーマに関しては、目下、2つの対照的なアプローチから接近したいと考えている。第1は、原発を基本的に維持する立場から、福島原発周辺地域・自治体を地域限定的に“処理”(処分)したいと考えている政府・財界・東電など「原子力ムラ」の意図を解明することである。第2は、目下避難を余儀なくされている原発周辺地域・自治体(浪江町双葉町大熊町富岡町楢葉町葛尾村飯舘村南相馬市田村市・川俣町の一部、および役場などが帰還した広野町川内村)のなかから、もっとも積極的な復興(帰還)プロセスを提起している自治体を選び、その復興理念や復興手法を学ぶことである。

 当面は「原子力ムラ」の方から始める予定だが、このアプローチの難しさは肝心の政府発言が曖昧模糊として真意がなかなか掴みにくいことだろう。というのは、民主党政権の(お粗末な)関係閣僚がこれまで被災地で度重なる失言・暴言を繰り返し、その都度世論の批判を浴びて閣僚辞任に追い込まれてきたからである。したがって最近では政府・閣僚発言が慎重になり、その意図を解明することが難しくなった。しかし過去の発言を辿っていくと、歴史的事実は隠しようがないので最有力な情報源であることには変わりない。

 次の有力な情報源は、「原子力ムラ」メンバーの学者・専門家の発言だ。これら政府・財界・東電の代弁者たちは、原発事故発生直後はテレビに連日出演して楽観論を振りまき、被災者と国民をミスリードした(欺いた)。そのことの報いだろうが、以降、国民の誰もが彼らの発言を信用しなくなり、マスメディアでの露出頻度もめっきり減った。「原子力ムラ」にとっては、当面「御用済み」となったのである。

 その代わりと言っては何だが、目下、復興問題・復興課題に関して最も活発な発言を続けているのが、「原子力ムラ」の隣村に住む「開発ムラ」(土建ムラ)の面々だろう。原発災害を引き起こした張本人が、「原子力ムラ」といわれる政財官学メディア利益共同体であることはいまや誰一人知らない者はない。だがそれにも増して、国土・地域・都市計画の分野では政財官学を横断する巨大な「国土開発ムラ」が根を張っているのである。

 その中核を構成するのが次の4大陣営、すなわち(1)ゼネコンといわれる巨大土木建設業や民間デベロッパーなどの不動産開発資本、(2)中央・地方の建設族(土建)議員、(3)国土交通省(旧建設省)及びそれに連なる地方の官僚群、(4)中央・地方の各種審議会を独占している土木学会・建築学会・都市計画学会などの学会重鎮たちだ。これら「開発ムラ」は、上は国の国土計画から下は自治体の開発計画に至るまで公共事業の立案や配分を一手に取り仕切り、戦後の「開発主義国家=土建国家」の中枢権力として絶大な影響力を誇ってきた。

 なかでも百近い肩書きを持ち「開発ムラのドン」と称される伊藤滋氏(東大名誉教授、都市工学)が、原発事故直後に国土計画協会の機関誌『人と国土21』(第37巻第1号、2011年5月15日発行)で語った巻頭言・「地域と国土計画的観点から原子力災害を考える」は注目に値する。国土計画協会(国土交通省の外郭団体)の会長でもある伊藤氏の発言は、政府の原発災害地域に対する考え方を事実上代弁したものであり、その後の国の復興構想に多大の影響を与える重要発言だったからである。(つづく)