復興庁・福島県の「復興拠点構想=中長期・広域の復興の将来像」は成立可能か、中間貯蔵施設の現地調査受け入れが復興計画に与える影響(8)、福島原発周辺地域・自治体の行方をめぐって(その33)、震災1周年の東北地方を訪ねて(103)

大熊町住民の意向が「戻りたい」1割、「戻らない」5割弱、「未定」4割であることはすでに述べた。これらはいずれも昨年9月段階での調査結果であり、しかも「現時点=当時」での判断であるから、住民意向が今後どのような方向に変化していくかについては注意深く見守る必要がある。

この点について参考になるのが、「現時点でまだ判断がつかない」と回答した世帯に対する次の質問だろう。質問は「大熊町に戻るかどうかを判断するために必要な情報」のなかから該当する回答を選択する(複数回答)ものであるが、過半数の世帯が挙げたのは、「道路など社会基盤の復旧時期の目途」79.7%、「放射線量の低下の目途」78.9%、「受領する賠償額の確定」59.6%、「中間貯蔵施設の情報」54.9%、「どの程度の住民が戻るのかの情報」50.7%である。

この回答から読み取れることは、(1)このまま放射線量が下がらず、(2)生活インフラの復旧が遅れ、(3)賠償額が確定しないままで、(4)中間貯蔵施設が建設されれば、(5)住民がまとまって戻ることは難しいので、(6)現時点でまだ判断がつかない世帯の大半は、戻らないと決めている世帯に合流することになり、(7)結果として、全世帯が帰還不能に追い込まれるということだ。

となれば、復興庁や福島県が考えている「仮の町=復興拠点(ニュータウン)」への居住意向が俄然注目されることになるが、「復興の拠点を設ける場合の居住意向」に関する回答は、「居住する」782世帯(22.8%)、「居住しない」829世帯(24.2%)、「現時点では判断できない」1739世帯(50.8%)となり、居住意向を示した世帯は僅か1/4弱に過ぎない。加えて「居住する」782世帯の世帯主年齢別内訳は、「10〜30代」70世帯(9.0%)、「40〜50代」221世帯(28.3%)、「60代以上」482世帯(53.7%)となって、仮に実現したとしても現在以上の高齢化が進んだ「超高齢タウン」になる可能性が大きい。

また、「復興拠点に移転するまで待つことが可能な期間」に関する回答は、居住意向を示した782世帯のうち「1年以内」108世帯(13.8%)、「3年以内」384世帯(49.1%)、「5年以内」204世帯(26.1%)となって、「3年以内」が全体の6割強を占める。しかしこれまでの復興計画の進展ぶりからして、復興拠点の建設が「3年以内」という短期間で実現できるとは誰も考えていないであろうし、これをたとえ「5年以内」に延長したところでそれが可能だとも思われない。

それに、そもそもこの調査の前提となる「中長期・広域の復興の将来像」が「中長期=10年後も視野」に入れてのことだから、復興拠点への居住意向を示した世帯の9割が「5年以内」しか待てないというのであれば、10年後も視野に入れた「中長期の復興将来像」の前提そのものが崩れることになる。

一方、「現時点で戻らないと決めている」1563世帯に対して「今後の生活拠点に転居する時期」を尋ねた質問の回答は、「すでに新しい生活拠点に転居済み」159世帯(10.2%)、「転居時期が決まっている」114世帯(7.3%)、「転居時期は決まっていない」1224世帯(78.3%)となって、戻らないことは決めたものの、圧倒的多数(8割弱)の世帯は転居時期をまだ決められないでいる。

しかし、転居時期が決まっていない1224世帯に対する「転居時期の判断基準」の回答選択肢(複数回答)のなかで、「受領する賠償金が確定した段階」65.0%、「希望転居先での住宅が確保された段階」59.0%の2つが突出しており、この両条件が整った段階で転居行動が本格化することが予想される。おそらくその時期は賠償額が確定する5年後あたりからだと思われるが、この時点で「復興の拠点」が何らかの具体的な姿をあらわしていなければ、個人個人が思い思いの判断で移転先が分散していくことになるだろう。

 現在、大熊町住民が避難生活を送っている場所は、回答を寄せた3424世帯のうち、いわき市980世帯(28.6%)、会津若松市842世帯(24.6%)、郡山市246世帯(7.2%)と全体の6割が3市に集中している。だが「今後の避難期間中の生活をどこで過ごしたいか」の回答になると、同じ「浜通り」に属する「いわき市」への居住希望が圧倒的に高くなる。このことは緊急避難の場合は一時的に遠隔地に移住することはあっても、避難生活が長期化すると大熊町に近い「浜通り」へ居住希望が集まる傾向を示すものであり、「復興拠点」になるとさらにその傾向が高まるものと予想される。

ちなみに、上記3市の大熊町避難世帯が今後の居住希望先として選択した回答は、いずれも「現時点ではわからない、判断できない」が半数前後を占めるものの、大熊町から遠く離れた会津若松市の避難世帯の場合は「同市市内」の17.9%に対して「いわき市希望」の方が25.1%と高くなり、浜通りに比較的近い「中通り」の郡山市の場合は「同市市内」24.8%、「いわき市希望」12.6%と逆になり、いわき市の場合は「同市市内」34.3%、「いわき市以外を希望」4.9%といわき市での居住希望が圧倒的になる。

このことは、大熊町には戻らないと決めたものの、現在時点では転居時期が決まっていない1224世帯(全体の35.7%)の相当数がいわき市に住居を求めることを意味し、今後いわき市内での居住地の確保が焦眉の課題になってくることが予想される。以上、これぐらいで大熊町アンケート調査の分析は終わりにして、これらのことから推察される復興庁・福島県の「復興拠点構想=中長期・広域の復興の将来像」についての意見を述べよう。(つづく)