橋下「慰安婦・風俗必要」発言と株価暴落によって改憲動向にストップがかかるかもしれない、「憲法改正」に関する世論が激動している(その3)、改憲勢力に如何に立ち向かうか(7)

 「政治は一寸先が闇」だというが、「政治も経済も一寸先が闇」といった荒れ模様になってきた。5月13日から始まった橋下「慰安婦・風俗必要」発言問題に続いて、昨日5月23日には株価が1000円以上も暴落するという思いもかけない展開になったからだ。

 円安と連動した株価操作は、アベノミクスの「成長の3本の矢」のなかでも最も中核的な経済政策だ。円の大量発行によって「異次元」の金融緩和を行い、円安を誘導して自動車産業など輸出産業の利益回復を図る。株式市場に国際的な投機マネーを呼び込んで株価上昇を演出し、国内の景況感や景気意識を刺激する。要するに、すべてはトヨタ野村証券のための経済政策なのであるが、それが連日のニュースになって安倍内閣の高支持率を支えてきた。

 私は常日頃から、国民大衆には「食えない民主主義」よりも「食える独裁」の方が支持されるとの観点から政治情勢を分析してきたが、安倍内閣はまさに「食える独裁」を目指して系統的に政策展開をしてきた極右政権そのものといえる。左手には「食える=成長の3本の矢」を掲げ、右手には「独裁=自民党憲法改正草案」を引っ提げて、立憲主義を全面否定する専制国家をつくろうというのである。

 しかし、アベノミクスにとっての致命的な弱点は、「食える」ための経済政策がいまだ国民の口元には届いていないということだ。各紙の世論調査においても安倍内閣の経済政策には期待するが、景気回復の「実感はない」という結果がほとんどであることがそれを示している。たとえば、株価暴落の直前5月20日に発表された毎日新聞世論調査は以下のようなものだ。

 「安倍首相の経済政策によって、景気回復が期待できると思いますか、思いませんか」→「期待できる」59%、「期待できない」33%
 「金融緩和政策などで株価が上がっています。あなたは生活する上で、景気がよくなっていると実感していますか」→「実感している」13%、「実感していない」80%

 つまり安倍政権の経済政策には期待しているが、まだその恩恵には与って(あずかって)いないというのが国民の実感であり、株価上昇などによる景気回復は目下のところ「目の前にぶら下げられたニンジン」でしかないのである。その「ニンジン」が突然消えたのだから、国民が戸惑うのも無理はない。安倍首相は、手品師のようにいつまでも「空手」の左手を掲げて聴衆の目線をくらませ、右手の改憲を隠して置けなくなったのである。

 これまで安倍政権の政治戦略は、夏の参院選までは経済政策に重点を置いて景気回復(感)を実現し、安倍内閣の高支持率を参院選につなげて改憲に必要な3分の2以上の議席を結集するというものだった。ところが、参院選までは封印するとしたはずの地肌が徐々に出てきて、「河野談話村山談話を見直す」、「侵略という定義は定まっていない」などの安倍首相の本音が露わになり、それに便乗した橋下「慰安婦・風俗必要」発言が飛び出したのである。

 橋下氏と安倍首相の歴史認識は同根であり、その極右的体質はむしろ一心同体とさえ言えるほど酷似している。橋下氏は安倍首相の忠実な代弁者なのであり、それが橋下氏一流の「慰安婦・風俗必要」発言になっただけの話なのだ。だがあまりにも率直な(ドギツイ)橋下発言には、さすがのハシズム支持者も唖然とした。私などは「仰け反った」と言ってもよいが、とりわけ女性には強い嫌悪感と拒否感が広がった。

 維新の会がまだ隆盛を誇っていた頃、安倍首相はわざわざ大阪まで出向いて橋下・松井両氏と歓談し、参院選後の改憲に向けて実質的な協力体制を話し合ったほどの間柄だ。両者の間には共通点こそあれ何のわだかまりもない。それなのに橋下発言以来、安倍首相は「維新と自民とは何の関係もない」と繰り返し表明し、橋下氏と同一視されるのを避けるようになった。そして産経・読売・日経などの右派マスメディアも、いまや掌を返したように橋下発言を非難している。橋下発言と安倍首相を「一緒にされてはたまらない」というのである。

 問題は、維新とみんなの選挙協力がご破算になり、自民党の一人勝ちの勢いが強まったことだ。そうなれば、自民党改憲勢力を結集しなくても独自で改憲に踏み切ることができる。ただしその場合の条件は、安倍内閣自民党の支持率が現在のような高水準で維持できることであり、そうでなければ国民投票内閣総辞職のリスクを冒すことになる。

 多くの国民は安倍政権に景気回復を期待してはいても、改憲を期待しているわけではない。各紙の世論調査は、国民が安倍内閣に期待する最上位の政策は経済政策であり、改憲は最下位にとどまっていることを示している。さすれば、安倍政権が「食える独裁」の第一歩である景気回復を実現できなくなると、次のステップである改憲が難しくなる。「食えない独裁」は最低であり、国民の誰もが望まないからである。(つづく)