護憲運動の主軸を憲法9条から96条にシフトしよう、各地域での「96条の会」結成が当面の急務の課題だ(その2)、改憲勢力に如何に立ち向かうか(15)

 これまで憲法9条の擁護を基軸として「九条の会」が果たしてきた歴史的役割はいくら評価しても足りることはない。日本の憲政史上、これほど大きな影響力を持った国民運動は存在しなかったし、「九条の会」がなければとっくの昔に9条改悪が実現していたかもしれない。にもかかわらず、私はいま護憲運動の主軸を憲法9条から96条にシフトさせなければならないと思う。なぜか。

 理由は簡単だ。安倍政権が参院選後の「黄金の3年間」(改憲勢力が衆参両院で3分の2を占める2017年参院選までの3年間)に96条を改定する策動を本格化させるからだ。改憲勢力のターゲットが9条から96条にシフトするのだから、それに対抗する護憲運動も9条擁護から96条改定反対にシフトしなければならない。ただそれだけのことだ。

 しかしこの点に関して護憲運動が留意しなければならないことは、一般的な世論動向のなかに「憲法改正に賛成」という意見が多数存在することだろう。これまでマスメディアの世論調査の定番として設けられてきた質問項目、「あなたは憲法改正に賛成ですか、反対ですか」(という改正の内容を明示しない訳のわからない抽象的な質問)に関しては、常に「賛成」が「反対」を上回ってきたからである。

 5月22、23両日に実施された共同通信社の「参院選第1回トレンド調査」(参院選に関する有権者の意識の変化を追う連続5回の世論調査、次回は5月29、30両日に実施予定)においても同様の結果が出ている。関連する質問項目を以下に挙げよう。
(1)比例区投票意向率:「改憲グループ」38%(自民29%、維新5%、みんな4%)、「中間あいまいグループ」14%(公明6%、民主8%)、「護憲グループ」4%(共産3%、社民1%)、「まだ決めていない」38%
(2)投票先を決める判断基準:「景気、雇用など経済政策」35%、「年金、医療など社会保障制度」28%、「消費税増税の是非」9%、「憲法改正の是非」8%、「原発再稼働の是非」6%
(3)与党が参院過半数を占めることの是非:「過半数を占める方がよい」56%、「過半数を割る方がよい」28%、「わからない」16%
(4)憲法改正に賛成か反対か:「賛成」50%、「反対」34%、「わからない」16%

 この質問項目と回答分布を素直に読めば、国民(有権者)一般の選挙関心はもっぱら「経済と社会保障」に集中して「憲法改正」や「原発再稼働」に関する関心は低く、したがって政党選択も改憲が判断基準にならずに「与党過半数賛成」となり、改憲に対する態度も具体的内容を理解しないままに「改憲賛成」という結果に導かれることになる。つまりこの世論状況は、安倍政権が憲法改正に対する国民の無理解・無関心を利用して衆参両院で3分の2を改憲勢力で占め、一気に96条改定に突っ走ろうという作戦が成功裡に推移していることを示しているのである。

 となれば、護憲運動に課せられた現下の課題は、憲法9条に関する意見の相違を乗り越え、96条改定を阻止するためにあらゆる護憲勢力を結集することが求められるといえるだろう。「九条の会」を一回りも二回りも大きくした護憲運動を展開しなければ、安倍政権の96条改憲策動に対抗できないと思うのである。また、そうしてこそ国民投票改憲策動に止めを刺すことができるし、同時に「長期政権」になると言われている安倍政権の息の根を止めることも可能になると思うのである。

 先の神戸護憲集会で、私は「円卓方式」で護憲運動を展開しようと提案した。その趣旨は、護憲政党と市民がフラットな立場で討議し行動することが護憲運動のさらなる発展につながると考えたからだ。今回の集会名称はその趣旨に応じたものになっているが、さらに言えば「護憲」の中身を具体的に示すことが次の課題ではないかと思う。なぜなら「護憲=憲法を守ろう」との一般的な呼びかけだけでは、「あなたは憲法改正に賛成ですか、反対ですか」という質問に対して「賛成」が多数を占める国民世論を変えることができないと思うからだ。

 しかし先の朝日新聞世論調査が示すように、憲法の条項を具体的に明示して条文の内容を丁寧に説明すれば、9条の場合も96条の場合も「改憲反対」の回答が多数を占めるようになる。国民の憲法意識・憲法判断が依然として健在である以上、「守るべき条項」「改定に反対する条項」を具体的に示してこそ護憲運動は成功するのではないか(一般的な護憲運動では成功しない)。

 この点において、「九条の会」はまさしく憲法9条が改憲の危機に直面した状況下で生まれてきた護憲運動であった。そしていま現在、自民党改憲草案を下敷きにした96条改定が俎上に載せられようとしている。「国のかたち=立憲主義」を根底からぶち壊そうとする96条改憲策動を阻止するためには、「九条の会」を上回る国民的護憲運動を組織することが必要であり、現下の護憲運動のターゲットはまさに96条改定阻止にこそ設定されるべきであろう。

 方法は多様であっていい。かって「九条の会」がそうであったように、東京で先日発足した「96条の会」の地域版を全国津々浦浦につくるのもその一つ。「九条の会」がウイングを広げて96条改定反対を運動課題に取り上げるのもその一つ。また両者が合同してシンポジウムや集会を開催することも考えられるだろう。要するに、地域の雰囲気や実状に合わせて自由自在に96条改定反対運動の輪を広げ、来るべき国民投票時にはそのエネルギーを全国的に総結集する体制をつくればよいのである。(つづく)