護憲運動のシナリオを「政党の組み合わせ」から市民主導の「国民投票の体制づくり」にシフトしよう、各地域での「96条の会」結成が当面の急務の課題だ(その1)、改憲勢力に如何に立ち向かうか(14)

 昨年末の総選挙における革新政党の惨敗以来、私の脳裏を占め続けてきたのは夏の参院選に向けての護憲勢力の結集、なかでも護憲・反原発を掲げる諸政党の連携だった。だが改憲勢力が衆参両院で3分の2を占める情勢が現実味を帯びているにもかかわらず、政党間のセクト主義がそれ以上に抜き差しならないものであることを痛感したのもこの半年間だった。護憲・反原発を基盤とした諸政党の選挙協力など「夢のまた夢」だったのである。

 神戸では総選挙後の4月14日、「とめよう壊憲!護憲結集!討論集会」が開催された。憲法の改悪に反対する元教職員ひょうごネット共同代表の佐藤三郎氏らが中心となり、護憲を掲げる各政党に参加を呼びかけて参院選に向けての政党間協力の機運をつくろうというのがその趣旨だった。集会は大成功だったが、参加しなかった政党もあり、また参院選が目前に迫っていたこともあって具体的な話はこれからということになった。

 この6月30日には、第2回目の護憲討論集会が「6/30護憲円卓会議」と題して神戸(兵庫勤労市民センター)で午後1時半から開かれることになっている。佐藤氏の呼び掛け文によれば、「(前回の)護憲結集討論集会では、「護憲政党代表の意見を聞かせてもらい意見交換を」としましたが、6/30護憲円卓会議では「護憲結集をリードできる市民活動をどう構築するか」という視点からの意見交換の場としておりますので、護憲四党所属の方も政党の方針に拘らずご自分のご意見をお聞かせ下さい」というものだ。

 発言予定者も前回の政党を中心としたメンバーから、今回は市民各層が平等に発言する円卓方式に改められた。要するに、護憲運動の結集に際して政党に(過度の)期待をかけるのを止め、市民がその中心的な担い手になろうというわけだ。私はこの発想の転換を大いに歓迎したいと思う。なぜなら、先日の東京都議選の結果を見ても、また直近の世論調査の動向を見ても護憲政党の勢力はせいぜい2割程度にとどまっており、大半が改憲勢力で占められているからである

 目前に迫った参院選では自民党の圧勝が確実視される以上、自民・維新・みんなの改憲勢力に加えて、公明の抱き込みと民主の分断(改憲グループの巻き込み)に成功すれば、衆参両院で改憲勢力が3分の2を占めるという状況が直ちに実現する。この国会勢力分布は、安倍首相が参院選後に96条改憲に踏み切るには十分な数字であり、もはや国会内(だけ)での護憲闘争の限界は明らかだろう。

 だが、5月中旬から6月中旬にかけて実施された朝日新聞の郵送世論調査結果(6月26日公表)をみるとき、不思議なことに政党への投票意向と憲法改定に関する賛否には相当なギャップがあることに気付く。今回の朝日新聞世論調査は通常の簡単な電話調査とは異なり、全国の縮図になるように341選挙区を選んで各投票区の選挙人名簿から平均9人を選び、調査票を郵送して1ヶ月以上の調査期間の後に回収するという本格的な世論調査だ。

 質問項目も多くかつ懇切丁寧に設計されている。たとえば憲法9条に対する賛否は、9条全文を示した後に賛否を問うというように、いわば「熟考型世論調査」ともいうべき内容だ。それに回収率も通常の場合よりは10%以上も高い73%に達しているのだから、回答者が真剣に考え、熟考の末に返答した結果があらわれているといってよいだろう。

 まずは、政党支持率参院選投票意向率をみよう。
(1)政党支持率:「改憲グループ」56%(自民48%、維新5%、みんな3%)
「中間あいまいグループ」10%(公明4%、民主6%)、「護憲グループ」4%(共産2%、生活1%、社民1%)
(2)投票意向率:「改憲グループ」70%(自民53%、維新10%、みんな7%)
「中間あいまいグループ」16%(公明6%、民主10%)、「護憲グループ」6%(共産4%、生活1%、社民1%)
 つまり、どこからみても改憲政党の圧勝という以外の予測は成立し難い。

 一方、憲法改定に関する世論は政党支持率や投票意向率とは反対の結果が出ている。
(1)憲法9条への態度:「変える方がよい」37%、「変えない方がよい」54%
(2)憲法96条の発議要件の2分の1への緩和:「賛成」37%、「反対」55%
(3)憲法9条を変えやすくするために96条を変えるという考え方:「賛成」33%、「反対」58%
(4)改憲政党が3分の2を占めることへの態度:「占めた方がよい」45%、「占めない方がよい」46%

 つまり参院選では7割の有権者改憲政党に投票するとしながら、憲法9条と96条に関しては過半数が「変えない方がよい」と考えているのである。このギャップは憲法改定が参院選争点の全てでないことの反映であるが、実はそこにこそ政党支持とリンクしない護憲運動の可能性が示されていると言える。むしろ「政党の組み合わせ」によらない「市民主導」の護憲運動の方が、広範な世論を獲得できる地平がそこに開けていると云えるのではないか。(つづく)