参院選では「野党共闘」の顔、衆院選では「単独路線」の顔、民進党はいったいどちらの顔が本当なのか、「ジキルとハイド」を演じる二重人格的な党運営は自己破綻をきたして身を亡ぼす、2016年参院選(衆参ダブル選)を迎えて(その18)

 前回の拙ブログで、民進党が国民から期待されないのは、野党共闘に対する民進党の「やる気」のなさにあると書いた。しかし参院選だけを見ると、3月25日の野党幹事長・書記局長会談で32の1人区のうち7選挙区で野党統一候補が決まったことが確認され、さらにその後1選挙区が追加されて、野党共闘成立は現在8選挙区(青森、宮城、栃木、長野、徳島・高知、熊本、宮崎、沖縄)になった。他の18選挙区でも候補者一本化に向けた協議が進んでおり、残る6選挙区は調整中といわれる(朝日新聞、2016年3月28日)。

 民進党以外の共産、社民、生活の3党では、参院選の共通政策づくりと衆参同日選も想定した衆院選協力が議題に上っており、安保法制廃止に加えて来年4月の消費増税中止、原発ゼロの日本をめざす、などの共通政策のたたき台が目下検討中だ。だが民進党内では、衆院選は「政権選択選挙」であり、基本政策の異なる野党(とりわけ共産党)と協力することには否定的な声が強く、野党共闘のこれ以上の進展には消極的だとされている。枝野幹事長も「衆院選参院選とは異なる。衆院選は〝政権選択選挙″だから野党共闘はしない」と繰り返し言明している。

 このように民進党は、次の衆院選参院選とは異なる「政権選択選挙」だから野党共闘はしないという(屁)理屈で選挙協力を拒んでいるが、私にはこの(屁)理屈がまったく理解できない。だいたい政党支持率10%程度の民進党が40%もの支持率を維持している自民党を破って「政権政党」になる可能性など100%ないと言ってもいいし、また国民の誰もそんなことを思っていない。馬鹿もほどほどにしてほしいが、誰が考えても次の衆院選民進党の「政権選択選挙」などになりようがないのである。

 それに安保法制廃止が野党共闘の柱であり、そのためには安倍改憲政権を打倒することが政治目標なのだから、当面の目標としては改憲勢力が衆参両院で3分の2議席を占めることを阻止することが野党共闘の中心課題にならなければおかしい。衆参両院の3分の1以上の議席を獲得することが野党共闘の政治目標である以上、この点では参院選衆院選も性格が全く同じで何ら変わることがないのである。まして、改憲勢力が3分の2議席を持っていない参院選野党共闘するのだから、改憲勢力がすでに3分の2議席を確保している衆院選ではなおさら野党共闘が必要になる。参院選では野党共闘するが、衆院選では野党共闘しないということになれば、衆院改憲勢力が3分の2議席を占めている現状を変えることはできないし、「そのままでいい」ということになりかねない。

 私は衆院京都3区の有権者だから、民進党の「タテマエ」と「ホンネ」がよく分かる。民進党京都府連は前原氏(民主党元代表)の強い影響下になり、衆院4月補選に関しても3月の党定期大会で「いずれの選挙でも共産党と共闘しない」との大会決議を採択した。京都の民進党は「野党共闘しない=自公政権と協調する」ことが彼らの「ホンネ」なのであり、前原氏らは「タテマエ」として安倍政権打倒の旗印を掲げてはいるが、その意図は安倍政権の安保政策に反対するからではなく、安倍政権に代わって政権の座に着きたいだけのことなのである。

 民進党全体がそうだとは言わないが、衆院選民進党があくまで野党共闘を拒否するのは、前原氏に代表されるようなグループが「隠れ自民党」として民進党内で大きな影響力を維持しているからだろう。彼らにとっては日米軍事同盟下で安保政策を強力に推進することこそが使命であって、この点では自民党国防族と何ら変わることがない(むしろそれ以上だ)。前原氏らが民進党を離党しないで党内にとどまっているのは民進党全体を与党化し、「中身は同じだが形の違うボトル」をつくって政権交代を目指すことなのである。

 なかなか進展しない衆院選での野党共闘にしびれを切らしたのか(見切りをつけたのか)、共産党の山下書記局長は3月28日、記者会見で「衆院小選挙区選挙協力を追求しつつ、候補者擁立をすすめる」方針を発表した。理由は以下の通りである(しんぶん赤旗、2016年3月29日)。
―3月23日の共産、維新、社民、生活の4党の党首会談での合意、「5野党間で速やかに衆院小選挙区での選挙協力のための協議に入るべきである」という合意を踏まえて、3月25日の5野党書記局長・幹事長会談で、私は衆院小選挙区での選挙協力について5野党党首間で確認されたことであり、衆参ダブル選挙の可能性もあるもとで速やかに協議に入るべきだと改めて提起しました。それに対し、民主党枝野幸男幹事長は「難しい」「協議には入れない」と繰り返し表明しました。枝野氏が「協議に入れない」理由としてあげたのは主に「党内を説得できない」「既に立候補している人を降ろせない」というものでした。一方、同党の玄葉光一郎選対委員長は、民進党として「単独過半数238は立てる」と述べ、既に200人近くを擁立しています。自らは候補者を擁立しながら「立てたら降ろせない」、選挙協力の協議に入ることさえ拒否するというのは、5党首合意を誠実に履行する態度とは言えません。民進党がこうした態度をとるもとで、わが党として総選挙をたたかう独自の準備を急ぐ必要があります。そのことが、結果として、民進党を含む野党間の衆院小選挙区での選挙協力を前に進める力にもなると考えます。以上の理由から、わが党として衆院小選挙区の候補者の擁立を進める方針を確認しました。

 民進党衆院選での野党共闘を拒否している状況は、安倍政権にとっては衆参同日選挙を実施する「またとない機会」を与えるだろう。たとえ参院選で部分的に野党共闘が実現しても、衆院選で野党各党がバラバラで戦う状況が生まれれば、選挙戦全体としては衆院選に比重がかかり、参院選での野党共闘の影が薄くなるからだ。このことが延いては参院選でも野党統一候補に不利な情勢をもたらし、衆参両院で安倍政権が3分の2議席をとる可能性を広げることにもなりかねない。いずれにしても由々しき事態だと言わなければならない。

 民進党にこの際はっきりと言いたい。岡田氏に「ジキル」を、前原氏に「ハイド」の役を演じさせるような二重人格的な党運営を止めてほしいということだ。岡田氏も枝野氏も衆院補選が行われる北海道5区と京都3区を同一視し、「両補選で勝利して参院選の弾みにしたい」などといったノーテンキなことを言っているが、北海道5区は「ジキル」方式で、京都3区は「ハイド」方式でやるというのでは、民進党はもはや同一政党とは言えないだろう。両補選の選挙結果次第では、参院選あるいは衆参同日選の前に民進党の二重人格的行動の矛盾があらわになり、自己破綻状況が明白になって「身を亡ぼす」前兆になるかもしれないのである。

3月27日の民進党結党大会に来賓として招かれた安保法制に反対する学生グループ(SEALDs)の奥田愛基氏は、「民進党が、民と、国民とともに進むというスローガンがウソじゃなくて、本気で言ってほしいなと思います。僕らはアホじゃない。僕らはバカじゃない。この政治家がウソをついているか、本当のことを言っているか、なんとなくしゃべっているのを聞いたら分かります。だって、それがみんなだまされているんだったら、戦後最低の投票率にならない。僕たちは政治家の人たちに対して、ありがとうと言ってみたいです。単純に応援したり、がんばってくださいと言ってみたいです。そして僕たちもがんばります。よろしくお願いします」と挨拶をした(産経ニュース、2016年月27日)。

 この奥田氏の言葉に込められた真意をどれだけ多くの大会参加者が受け止めたか、私は知らない。しかし、今からでも遅くはない。民進党衆院での野党共闘に踏み切るべきだと思う。そのためにはまず衆院京都3区補選では民主党京都府連の大会決議を撤回し、本格的な野党共闘体制を再構築しなければならない。でもそうではなくて、これまでの京都の民主党のように民進党がすべてに頬被りして「ジキルとハイド」を演じ続けるのか、いま民進党野党共闘への「やる気」を通り越して政党自体のアイデンティティ(存在証明)が問われている。(つづく)