このままだと、野党は参院選(衆参ダブル選)で大敗することになりかねない、政権批判層が野党選挙協力の不調で「受け皿」がなく漂流している、2016年参院選(衆参ダブル選)を迎えて(その4)

 この間続けて2つの世論調査を分析してきたが、11月25日発表の日経世論調査(1月22〜24日実施)および26日発表の産経世論調査(1月23、24日実施)の結果が出て改憲状況をめぐる国民の世論状況が改めて明らかになったような気がする。結論的に言えば、安倍政権が改憲議席3分の2以上の獲得を直接選挙目標に掲げなくても、改憲勢力改憲発議に必要な3分の2以上の議席を占める可能性が大いにあるということだ。そう判断せざるを得ない理由を幾つか挙げよう。

 第1は、両調査とも実施日が甘利経済財政再生担当相の金銭授受疑惑(収賄疑惑)が伝えられた直後であったにもかかわらず、それが内閣支持率・不支持率に何ら影響を与えていないことだ。日経調査では前回12月調査と比較して、支持率は1ポイント低下の47%、不支持率は2ポイント低下の34%でほとんど変化がない。産経調査も甘利明経済再生担当相の金銭授受疑惑への対応についての質問で「納得できる」22%、「納得できない」72%という回答が出ているにもかかわらず、内閣支持率は前回12月調査に比べて1ポイント上昇の49%、不支持率は1ポイン低下の40%と僅かながら逆に支持が増えている有様だ。

 甘利疑惑は安倍政権への「重大な打撃」であり「最大の危機」だと各紙が挙って書いているにもかかわらず、世論が全く反応しないのはなぜか。こんなことでは陪席閣僚の不祥事のみならず、政権中枢を担う主要閣僚の汚職疑惑までがこのまま見過されることになりかねない。安倍首相は手負いの閣僚を数多く抱えてこのまま突っ走り、国民はそれをただ手をこまねいてみているだけなのか、私には理解出来ないことばかりだ。

 第2は、夏の参院選で投票したい政党に関する回答が、日経調査では改憲政党(自民+公明+おおさか維新)のシェアが47%と半数近くに達していて、反対野党(民主+共産+維新+生活+社民)の14%を大きく上回っていることだ。産経調査では同様の質問はないが、支持政党でみると改憲政党47%、反対野党17%となってほぼその傾向は共通している。このままだと「態度未定」(日経、41%)、「支持政党なし」(産経、36%)のほとんどを取り込まないと改憲政党の圧勝を許すことになるが、その決め手となる野党選挙協力に対する回答についてはどうか。

 日経調査では夏の参院選で「選挙協力すべきだ」39%、「新党をつくるべきだ」21%、「現状のままでよい」26%、産経調査では民主党共産党などが「野党統一候補」を立てようとする動きについて「賛成」49%、「反対」37%と、野党選挙協力に対しては一定の支持が示されている。だが、現実の動きはそれには程遠い。特に民主党岡田代表に対する右派マスメディアの牽制(干渉)は異常なものがある。以下、読売、産経、日経3紙の最近の論調をみよう。

【読売社説2016年1月19日:岡田民主党1年、「左傾化」で支持は広がらない】
民主党岡田代表が就任から1年を迎えた。この間、読売新聞世論調査民主党の支持率は7〜11%で、自民党の3分の1以下に低迷している。安全保障政策などで「左傾化」していることが要因の一つだろう。昨年の安保関連法案審議では、本格的な対案の国会提出を見送る一方で共産党などとの共闘に傾斜し批判を浴びた。国会で政府を追及するだけでなく、廃案を求める市民団体の国会周辺でのデモに参加したことは象徴的だ。厳しい日本の安保環境を顧みず、情緒的に反対を煽る勢力と同一視された面は否めない。(略)参院選での共産党との選挙協力に岡田氏が当初、前向きな反応を示したことには、党内や支持団体の連合から異論が相次いだ。天皇制や自衛隊日米安保条約を否定する政党との連携は「野合」批判を免れまい。左傾化は保守や中道の支持層を失う。

産経新聞1月20日:民主、参院選競合区で次々公認、共産の呼びかけ〝無視″】
 民主党は19日の常任幹事会で夏の参院選の1人区で新たに2人の公認を内定した。1人区の公認計12人は全て共産党と競合し、共産党選挙協力に関する協定を呼びかけているのを無視するかのようだ。着々と擁立作業を進めるのは、共産党が自主的に候補を降ろすように仕向けるための「圧力」ともいえそうだ。(略)民主党共産党の〝自主的降板″に期待したいのが本音だ。共産党よりも地力があるとの自信があり、同党が候補を降ろさなければ野党共闘を崩した〝戦犯″になるとの計算も働く。

日経新聞1月24日:永田町インサイド、前原・細野・長島氏語る】
 安倍1強」といわれる与野党情勢で、民主党が逆境から抜け出せない。対決姿勢にかじを切り(安倍)政権との違いをみせる中、外交や安全保障政策で現実路線を標榜する保守派はどう考えるのか。代表格の前原元代表、細野政調会長、長島元防衛副大臣に鼎談で聞いた。(略)―共産党との選挙協力にはやはり反対か。細野氏「岡田代表共産党とは「選挙協力」の言葉は使っていない。やっぱり目指す社会像、国家像が違うわけだから」。長島氏「全くあり得ない」。

 また1月25日の沖縄県宜野湾市の市長選で自民、公明両党推薦の現職、佐喜真氏が、共産党社民党、沖縄大衆党などの支援を受けた志村氏に大差をつけて再選されたことも野党連携を一段と不透明なものにしている。この情勢を分析した1月26日の毎日新聞は、選挙結果を受けて「民主党内の保守系議員や支持組織の連合に根強い『共産との連携で票が逃げる』との見方がますます強まりかねない状況だ」と伝え、「民主内には『共産が前面に出すぎた。共産との連携はやはり難しい』(中堅)との指摘が出ており、むしろ共産党との連携反対派に口実を与える格好となった」とみている。

 こうした政治情勢は、国民世論の動向に暗い影を落としている。夏の参院選でどの政党に投票するかで「態度未定」の回答が41%(日経調査)に上っていることがなによりもそのことを示している。「安倍政権に批判的な層の『受け皿』が乏しく、行き場を失っている」との日経の分析はまさにその通であり、この事態をどう打開するかに参院選(衆参ダブル選)の帰趨がかかっている。(つづく)