橋下維新が“雪崩的大敗“をするかもしれない理由と背景(2)、「大阪都構想=大規模都市再開発」では堺市を再生させることができない、堺市の商店街再生のカギは“都心商店街”の再開発ではなくて“地域商店街”の充実にある、堺市長選の分析(その20)、改憲勢力に如何に立ち向かうか(50)

 阪神・淡路大震災復興事業の肝いり事業として鳴り物入りで喧伝された神戸市・新長田駅前再開発事業が、いま破綻に直面している。大正筋商店街など“地域商店街”として栄えてきた地域一帯を阪神大震災を契機に大規模再開発し、神戸市の“西の副都心”として発展させようとする都市計画事業が、震災後20年近くになってついに破綻状態に陥ったのだ。

 そのありのままの姿が、9月21日に放映されたNHK―ETV特集『“復興“はしたけれど〜神戸 新長田再開発・19年目の現実〜』(再放送9月28日午前0時45分、金曜深夜)で白日のもとに明らかにされた。NHK仙台放送局(神戸放送局ではない)が1年がかりで制作した優れたドキュメンタリ―番組で、東日本大震災の復興にあたって「神戸市の誤りを再び繰り返えさせたくない!」との担当ディレクターの強い決意が実を結んだ番組である。再放送は今週の金曜日の深夜ではあるが、ぜひ多くの人に見てほしいと思う。

 そんなことで9月25日夜、神戸・新長田で関係者の内輪の会合があり参加する途中、堺市の商店街の見学も兼ねて橋下維新の街頭演説を現場で聞いた。堺市の中心部、山之口商店街での街頭演説だ。山之口商店街堺市のなかでも最も古い歴史を持つ商店街であり、第2次大戦後までは大阪の心斎橋筋商店街と並ぶ繁華街だったという。だが、現在は100軒近い商店のうち約半分が店を閉めてシャッター通りになるなど、昔の面影はもはや見る影もない。

 橋下氏はここで30分余りもかけて人出の少ない商店街を練り歩き、その後は例によって候補者が5分、橋下氏が30分という大演説をぶった。前半戦の選挙戦術にミスがあったので、ラスト5日間で戦術転換して終盤戦を乗り切ると表明した直後の本格的な街頭演説である。私もどんな新しいことを言うかと聞き耳を立てたが、その期待は見事に裏切られた。「転換」したのは、堺市を巻き込んで大阪都構想を強引に実現するという主張を「住民投票で決める」と言い換えただけのことなのだ。

 橋下氏は、「大阪都構想の中身は設計図を見て判断してください。まず試してみて、嫌なら住民投票で止めればよい。住民投票で現行のままがいいのか、改革を望むのか、住民が決めればよいのです」と繰り返し強調した。だがこの話は、私が9月2日の堺区タウンミーティングで聞いた話とは明らかに違う。橋下氏は「先に大阪市で(特別区設置を認める)住民投票が成立し、堺市が後から入ってくる場合には住民投票がない」と発言した。そして「維新の市長が通り、1年半後の堺市議選で維新・公明で過半数を取れれば、2015年4月に「大阪都」(大阪市廃止)が実現し、2017年には堺市が入った形での新しい大阪都になる」と念を押したのである。

 このように、橋下氏は当初は「住民投票なし」の堺市合併を考えていたのだが、形勢不利と見るやその主張を引っ込めて、住民投票で決めると言い出した。これはもう「戦術転換」というよりは“戦略転換”ともいうべき方針の大転換である。しかも「大阪都構想の中身は設計図を見て判断してください」といいながら、そのくせ設計図については何ひとつ説明しないのだから、これなどあたかも「空手形=カタログ詐欺」ともいうべき悪質な手法そのものではないか。

 しかし橋下氏の演説の重点は、商店街の活性化ひいては堺市の活性化は「大阪都構想=大規模都市再開発」でしか実現できないことを一義的に強調するところにある。彼の論法は、一点豪華主義の大規模プロジェクトでしか堺市は活性化できず、そのためには堺市大阪都構想に参加する他はないというものだ。その例としてことある度に持ち出すのが、「梅きたグランフロント」「あべのハルカス」などの大規模プロジェクトの誇大宣伝であり、その一方で一切口にしない(できない)のが、大阪市内で至る所で見られる「シャッター商店街をいかに再生させるか」という具体策についてである。

 私は、竹山市長が木原前市長時代の堺東駅前都市再開発事業を中止したことは賢明な判断だったと思っている。もしこの大規模再開発計画を強行されていれば「第2の新長田駅前再開発」になったことは確実であり、堺市は膨大な予算を注ぎ込んだ挙句、神戸市と同様に「計画的なゴーストタウン」を造る破目になったと思うからである。「梅きたグランフロント」や「あべのハルカス」などの“都心商店街”プロジェクトは、大阪大都市圏に1つか2つあれば十分なのであって、大阪市での梅田・難波・阿倍野が競合する「3都心計画」は、すでに「オーバーショップ」(過剰店舗状態)に陥っているからである。

 橋下氏が山之口商店街の街頭演説で「梅きたグランフロント」「あべのハルカス」の大宣伝をぶち上げていたちょうどその時、近鉄百貨店は、開業3カ月の計画売上高が9割にも届かない業績報告を記者発表していた。その前に開業した「梅きたグランフロント」もその後思うように売上高が伸びていないことは周知の事実だ。堺市の再生にとって必要なのは、“都心商店街”の再開発ではなくて“地域商店街”の充実にある。堺東駅前再開発は梅田・難波・阿倍野の“都心商店街”と張り合うのではなく、伝統的な堺市の情緒を残した下町風の“地域商店街”として発展させればよいのである。

 また与謝野晶子の生家にも近く、歴史的な環濠地域に位置する山之口商店街は、その歴史風土を生かした“地域商店街”として再生させる方向を考えたい。堺市がその気になれば、堺大好き人間の多い堺市のこと、きっと多くの市民が優れたアイデアを出してくれるに違いない。新長田駅前再開発事業に参加して店を開いた商店主たちは、いま「自分たちのまちの将来を他人に任せたことが間違っていた」と日々悔やんでいる。私も堺市民や商店主たちが「下氏の「口車」に乗せられ、“大規模プロジェクト幻想”に踊らせられないことを祈るばかりだ。(つづく)