“都市縮退時代”に都市拠点の形成は可能か、都市拠点が形成されなければ都市軸も要らなくなる、堺市長選の分析(その28)、改憲勢力に如何に立ち向かうか(58)

 21世紀に入ってからの国(国土交通省)の都市政策に関する基本認識は、「都市成長の時代は終わり、都市縮退の時代に入った」というものだ。「縮退」と言う用語は国交省の造語であまり聞き慣れない言葉だが、言わんとすることはわかる。要するに、これまで都市成長・都市拡大を散々煽ってきた国交省が人口減少によってもはや拡大路線を維持できなくなり、“撤退”を始めたということだ。つまり、伸びきった戦線を縮小して“後退”するというのである。

 しかし「撤退」や「後退」といった言葉は響きが良くないので(かって日本帝国陸海軍が敗戦を「転戦」と呼んだように)、それに代わって「コンパクトタウン(化)」と言う言葉が最近では盛んに用いられるようになってきた。そして「コンパクトタウン」を実現するためには、開発区域を縮小して都市機能を効率的に集積するという方針が鋭意推奨されてようになったのである。中小規模の地方都市では、激しい人口減少の波に洗われている以上、「縮退計画」がこれからの時代の主流になっていくことはまず間違いない。

 このように人口減少に直面する地方都市の場合は、都市機能を集積する拠点はいわば「整理集約拠点」ともいうべきものであって、都市拡大のための「前進基地」ではない。登山に例えれば、下山に必要な「ベースキャンプ」みたいなものだ。都市成長時代と都市縮退時代とでは「都市拠点」の意味も役割も質的に変化するのであって、言葉が同じだからと言って読み違えてはならないだろう。

 堺市の場合はどうか。堺市の都市拠点は明らかに「前進基地」としての位置づけであり、都市発展にとって中心的な役割を果たす都市機能の集積拠点としての役割を与えられている。しかも都市拠点は1つではない。現在の「都心」(堺東駅一帯)に加えて、中百舌地域と臨海部に2つの「新都心」の形成を新たに押し進めるというのである。「いったい正気で考えているのか」と思っていまう。

 言うまでもないことだが、「都心」を形成するには莫大な投資を必要とする。これを全て公共投資でやるというのであれば、堺市の財政は直ちに破綻するに違いない。神戸市の「副都心」建設事業である新長田駅前都市再開発事業の場合は、阪神大震災の「復興事業」(別名では「ショックドクトリン=災害便乗主義」)と言う名目で獲得した国庫補助金を注ぎ込んだから可能になったのであって、通常の場合であれは到底実現不可能だ。

 また「副都心」建設事業が成功したからと言って、そこに「副都心」ができるかどうかは別問題である。新長田駅前都市再開発事業が「計画されたゴーストタウン」になっていることは、先日のNHK番組で余すところなく検証されている。過大で無謀な「副都心」建設事業がどれほど商店主や地域住民を苦境に追い込んでいるか、どれだけ地域一帯を荒廃化させているか、その後遺症は底なしに深いと言わなければならない。

 公共投資がダメなら民間投資があるではないか、と誰かが言うかもしれない。だが、この期待が実現することはまずないだろう。堺市に現存する「都心」が衰退しているのは、市場原理にもとづく民間投資が不足していることの結果であって、この市場原理を一介の都市再開発事業が覆せるわけがない。なぜ堺市の都心に民間投資が来ないのか、その原因を分析せずして3つの都心建設を進めるなどと言うのは、およそ「子供の火遊び」と何ら変わるところがないというべきだ。

 結論的に言えば、『堺21世紀・未来デザイン』の計画コンセプトであるところの「都市拠点」「地域生活拠点」「都市軸」の3本柱で、堺市の都市計画を進めるという考え方自体がもはや時代遅れなのだ。「本市発展の中心的役割を担う都心の活性化」という考え方自体が悲しいほど古いのである。「都市拠点」をつくり「都市軸」で結ぶという都市像が21世紀の時代に合っていないのである。

 20世紀すなわち都市成長時代の都市計画は、「都市の骨格=インフラ」を整備することが至上課題だった。インフラ整備が遅れれば交通マヒが起り、断水で日常生活が脅かされ、災害時には不安な一夜を過ごさなければならなかった。また、都市機能を充実させ、都市格を上げようとすれば、都市の土地利用計画を通して用途地域(商業地区、工業地区、住宅地区など)をコントロールし、都心・副都心を建設して都市の機能分化・高度化を計画的に進めることが有効な方法だった。

 かくして同心円状の整然とした都市構造がモデル化され、都心を核に商業業務地域(セントラル・ビジネス・ディストリクト)が形成され、その周辺には一般市街地が広がり、郊外には住宅地や工業地帯が立地し、それらの間を鉄道・道路の交通ネットワークで結ぶ―――。こんな都市イメージが理想の都市となったのである。私の世代が都市計画の教科書で習ったのは、「ツリー型都市構造=機能的都市像」が定番の、いわゆる用途純化型の「近代都市計画=機能的都市計画」と言われるものであった。

 だが、堺市の場合は部分的に問題があるとはいえ、基本的には「都市の骨格=都市構造」はすでに形成されている。だから、「21世紀の未来デザイン」は、機能的都市計画の延長としての都市拠点や都市軸の建設ではなくて、「現代都市計画=持続的まちづくり」の課題である“魅力ある市街地の形成”に向かわなければならない。これまで等閑視されてきた市街地や住宅地の環境を「住みたくなるまち」「住み続けたくなるまち」「愛着のあるまち」に変えていくために、“持続的まちづくり”に全力を傾注しなければならないのである。持続的まちづくりを推進するキーワードは何か。私はそれを“職住遊学”が一体化する市街地形成にあると考えている。次回はその説明をしよう。(つづく)