橋下維新が“雪崩的大敗“をするかもしれない理由と背景(1)、維新陣営の「戦術転換」は通用するか、堺市長選の分析(その19)、改憲勢力に如何に立ち向かうか(49)

 橋下維新が堺市長選で「戦術転換」するのだという。前半戦では「都構想でも堺はなくならない」と受け身に回ったことを反省し、後半戦は「都構想で堺市の行政サービスが充実する」との“前向きのメッセージ”を出していくのだそうだ(朝日新聞2013年9月24日)。

 9月23日の泉北ニュータウン・泉ヶ岡駅前の演説ではその初日らしく、橋下大阪市長は早速、「堺市民は大阪都構想食わず嫌い症候群にかかっている。まず食べなくては!」、「大阪都になれば、泉北高速と地下鉄相互乗り入れできる」、「泉北ニュータウンが再生できないのは、堺市大阪府とうまくいかないからだ。千里ニュータウンはうまくいっている」、「大阪府庁、大阪市役所、堺市役所バラバラでやっていた仕事をひとつにして金持ち大阪をめざしましょう」などとまくし立てたそうだ(【堺からのアピール:教育基本条例を撤回せよ】、以下同じ)。

 また、「大阪市の住民サービスは堺市よりいい。中学給食やっている。塾代助成もやっている。英語教育も小一で世界最高水準。クーラも入れている。地下鉄もタダ。大和川をはさんでこんな差があっていいんですか」、「アベノハルカスこれからどんどん発展。これも府市一体だから進んでいる」、「都構想は食わず嫌いでなく、最後は住民投票で決めればいいんです」、「都構想がプラスかどうか住民投票で決めればいいんです。プラスになる提案しかしません」ともいったそうだ。

 私は千里ニュータウンの計画や調査研究に実際に携わってきた関係者だから言うが、「(大阪府市一体だから)千里ニュータウンがうまくいっている」なんて“真っ赤なウソ”だ。まず第1に事実関係として指摘しなければならないのは、千里ニュータウン吹田市豊中市にまたがっているのであって、大阪市にあるのではないということ。そもそも千里ニュータウン大阪市にないのだから、“大阪府市一体”で千里ニュータウンの再生などできるはずがないのである(よくもこんな“大ウソ”を公衆の面前で言えるものだ!)。

 第2に、「大阪都構想」は当初、大阪市堺市だけでなく周辺9市(豊中・吹田・摂津・守口・門真・大東・東大阪・八尾・松原の各市)を含めて提案されていた。ところがいつの間にか周辺9市の話は消えてしまい、堺市だけが標的になっている。だから、大阪都構想の話が消えた豊中吹田市において千里ニュータウンが「うまくいっている」のは、「大阪都構想のおかげ」などと言えるわけがない。また堺市大阪都構想に加わらないために、泉北ニュータウンが「うまくいっていない」などというのも事実に反する。高度成長時代に「大阪のベッドタウン」として開発された泉北ニュータウンが、いま再生の時期を迎えているだけのことだ。

 それから、「大阪市の住民サービスは堺市よりいい」などとは、よくも抜け抜けと言えたものだと思う。大阪市民なら誰でも知っているが、橋下市長は「大阪市の行政サービスはぜいたく三昧(ざんまい)」などと広言し、3年間で548億円削減・住民施策104事業を切り捨てする「大阪市政改革プラン」を目下実行中なのである。そのなかには、敬老パスの有料化、学童保育補助金削減、老人憩の家事業への補助金廃止、市立幼稚園・保育所の民営化、総合生涯学習センター・男女共同参画センター(クレオ大阪)の廃止、区民センター・屋内プール・スポーツセンターの削減など、ありとあらゆる「住民サービス切り捨て」のメニューが含まれている。

 そればかりではない。橋下市長は大阪市が誇る吹奏楽団を解散させようとしたばかりか、大阪フィルハーモニー交響楽団人間国宝を抱えた文楽協会への補助金大幅カットを強行した。また大阪府知事時代には、世界的に評価の高い府立国際児童文学館を廃止し、府が創設した大阪センチュリー交響楽団への補助金を廃止して存続の危機に追い込んだ。こんな「住民サービス切り捨て」と「文化破壊」をトレードマークとする橋下市長が、「大阪府庁、大阪市役所、堺市役所バラバラでやっていた仕事をひとつにして金持ち大阪をめざしましょう」などというのだから恐れ入る。彼のいう「大阪都=金持ち大阪」とは「金持ちのための大阪」なのであり、そのための原資を住民サービスの削減によって生み出そうとする仮借ない“住民切り捨て行政”なのである。

 堺市民の中には、維新の戦術転換への警戒感が広がっている。橋下氏がこれまでの「大阪都構想」についての大言壮語から具体的な行政課題について選挙演説の重点を移してくるようになると、堺市民がその「舌先三寸」に騙されないかと懸念する人が多いのだ。しかし、私はその心配はまったく要らないと思う。橋下氏がいう「大阪市の住民サービスは堺市よりいい」の実態を一つ一つ事実にもとづいて明らかにしていけば、それで十分反撃できると思うからである。

 橋下維新の“雪崩的大敗”を予感させるような出来事をひとつ紹介しよう。9月24日朝日夕刊の「都構想、争点設定の仕方誤った」、「堺市長選で橋下氏、代表としてのミス」という短い記事がそれだ。そこで関連記事をインターネット検索したら、『日刊スポーツ』にもっと詳しい内容が報じられていた。私はスポーツ新聞をあまり読まないので、こんな記事が掲載されているとは知らなかった。でもスポーツ紙に政治の話題が掲載されるときは、それが大衆的に浸透していることの指標だというから、朝日の記事よりも影響は大きいだろう。

 橋下市長、堺市長選で早くも“敗戦の弁”
 29日投開票の堺市長選で、情勢調査で劣勢を伝えられる日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長(44)は24日午前、大阪市役所へ登庁し、早くも“敗戦の弁”を述べた。「たいへん厳しい状況だと思います」。堺市長選の感触を問われ、こう切り出した橋下氏は、争点の設定ミスを悔やむ発言を繰り返した。

 「堺がなくなる、市民のみなさんには増税になって、堺市民の税金が奪われると、向こうは訴えていますし、その点を批判していますが、まず僕たちは『住民投票がありますから、安心してください』と言わなければならなかった」。「だから、今回の選挙は『みなさん、都構想の中身、設計図をのぞいて、見てみませんか』と呼びかけるべきだった。だって、住民投票を経ないと実現しないわけですから。でも、今回は住民投票を飛び越えて都構想の是非になってしまった。住民投票がある以上、市民の不利益にはならない。ここを争点にすべきだった」

 橋下氏は「争点の設定を誤った」とし、21日からの3連休中に西林氏らに作戦変更を指示。あくまでも都構想を強引に実現させるものではなく、住民投票を経て現行のままがいいのか、改革を望むのか、住民が決めるものだとする主張に変えるよう求めた。だが、それも「遅きに失しました」とし、もはや巻き返しも厳しいと見ている。「代表としての僕のミスですね」。橋下氏は険しい表情で語り、まだ5日、選挙戦は残されているが、様相はさながら“敗軍の将”だった。

 橋下代表のこの発言をどう見るかは、人によって大きく異なるだろう。橋下氏一流のパフォーマンスであり、最後の5日間で「どんでん返し」をするためのトリックだと考えることもできる。でも、私はそうは思わない。選挙戦終盤にきて、もはやどうにもならなくなった状況について(彼らしくなく)弱音を吐いたと見るのが自然ではないか。次回は、橋下維新の“雪崩的大敗”の背景を語りたい。それは公明党の出方についてである。(つづく)