「本市発展の中心的役割を担う」のは、都心建設ではなくて“魅力あるまち・市街地の形成”にある、堺市長選の分析(その29)、改憲勢力に如何に立ち向かうか(59)

 いま世界の現代都市計画の趨勢は、“魅力あるまち・市街地の形成”に向かっている。インフラ整備だけの都市計画で出来上がったまちは、文字通り「骨格だけの都市」でしかない。神戸新長田駅前のような「計画的ゴーストタウン」が「残骸のまち」と言った様相を呈しているのはそのためだ。必要なのは「骨格づくり」ではなく、「職住遊学」という多様な都市機能がバランスよく調和した、美しく輝く「身体(からだ)=まち=市街地」をつくることなのである。

 都市成長時代の近代都市計画は、膨張する都市を将来予測し、都市を計画的にコントロールするため、まず「マスタープラン」づくりから始まった。10年後、20年後の経済成長や人口増加などの予測にもとづき、それに見合う道路・宅地・公共施設などの需要を計算して都市のインフラ整備計画がつくられた。土木公共事業が都市計画の根幹となり、土木技術者が都市計画の主流を占めてきたのはそのためだ。

 また都市構造は機能的に分化・純化され、商業地域、工業地域、住宅地域といったように「用途純化」型の土地利用計画によってコントロールされてきた。これは、用途混在型の土地利用が公害問題や都市の混雑を引き起こしてきた反省にもとづくものであったが、そのことが一面では単調で魅力ない市街地形成につながったことは否定できない。いま改めて多様な都市機能が混在する「下町」の魅力が見直され、職住遊学(働く・住む・遊ぶ・学ぶ)が有機的に一体化している「モザイク」型の市街地が注目されているのはそのためだ。

 21世紀の都市は、量的にも質的にも20世紀の都市とは違う。都市は「成熟=縮退の時代」に入ったのであり、都市の「縮退」を制御して「衰退」を食い止め、都市の「成熟」を実現するためには、都市計画の専門家や行政マンではなく、そこで生活をしている住民が“まちづくり”の主役にならなければならない時代が登場したのである。理由は簡単明白だ。いくらインフラが整備されていても、そこに住民が住み続けなければ都市は衰退するのであり、居住人口が減少して「空き家」「空き地」が目立つようなまちは衰退していく他はないからである。

 堺市の「都心」として位置づけられている堺東駅一帯は、これまで商業業務機能の集積による活性化策が検討されてきた。巨大な商業再開発ビルの建設が「決め手」とされ、再開発計画が幾度も立案されてきたのはそのためだ。だが、この計画コンセプトは決定的に間違っている。そこに住む人たち、暮らす人たちの姿が見えないからだ。「鉄とコンクリート」の再開発ビルでは“魅力あるまち・市街地”はつくれないのである。

 東京中央線沿線の吉祥寺駅周辺一帯(武蔵野市)の賑わいを思い浮かべれば、誰もが堺東駅前再開発計画の誤りに気付くだろう。吉祥寺駅周辺には巨大な再開発ビルは見られない。雑然とした地域でありながら若者が溢れ、お洒落な店や住宅が混然一体となっているまちなのである。そこに住んでいるのは、小さな仕事場やオフィスで働いているホワイトカラー、ブルーカラーであり、様々な店を開いている小店主たちであり、下宿している学生たちなのだ。そこに「住む」ということは、「まちで暮らす」ということなのであり、マンションをやみくもに建設すればよいということではないのである。

 ヨーロッパの都市で都市再生に成功した例としては、スペインのバルセロナが有名だ。バルセロナはオリンピック開催(1992年)を契機に都市インフラの整備を行うかたわら、旧市街地の再生に全力を挙げてきた。「市街地改善特別プラン」と名付けられた都市再生プロジェクトは、旧市街地全域を「修復区域」に設定し、小さな広場や公共施設を「都市再生の核」として市街地の中に埋め込み(これを「インフィル」という)、そこから“滲みだす”ように市街地再生の輪を“部分から全体へ”と広げてきたのである。

 都市再生プロジェクトは、「全体」(マスタープラン)から降りてくるトップダウン型の巨大な再開発計画では成功できない。都市再生プロジェクトの本質は、市街地(まちなか)の整備に代表されるように「部分」から整備を始め、スポット的に一定程度の成果を生み出して連鎖的に面的な整備を進めながら、最終的には地区「全体」を再構築するというボトムアップ型のまちづくりにある。この“部分から全体へ”という計画コンセプトこそが、まさに都市の成熟時代にふさわしいまちづくりの手法であり、住民がまちづくりの主体にならなければ成功できない方法なのである。

 人々の生活の質を高め、都市全体の再生を軌道に乗せることに成功したバルセロナの都市計画は、世界中のプランナー・建築家に衝撃を与えた。イギリスの建築家リチャード・ロジャースは、著書(邦訳『都市、この小さな国の』、鹿島出版会)のなかでその成功の鍵を次の6点にまとめている。

(1)高密でコンパクトで伝統があり山と海が結びついた都市の特徴を生かすこと、(2)公共空間の開発をあらゆる所得層の市民を巻き込む手段として活用すること、(3)大きな戦略のもとで都市の各地域で局所的なプロジェクトを生じさせること、(4)参加の実感と都市に対する誇りを人々に与えること、(5)責任者の任期と政党を超えて継続する強力なコンセンサスを形成すること、(6)優れた才能を持つデザイナーを採用すること。

 堺市がいきなりバルセロナの真似をすることはでないであろうが、せめても吉祥寺駅周辺の“魅力あるまち・市街地の形成”の教訓ぐらいは学んでほしいと思う。次回は泉北ニュータウンの再生について考えたい。(つづく)