“住民投票の擬人化”とは、偽装市民団体による住民投票作戦のことだった、「維新色をできるだけ排除した任意団体」(大阪の未来を創る会)の組織は可能か、大阪維新の会内部資料が暴露した橋下維新の実体(その6)、ポスト堺市長選の政治分析(15)

 住民投票に関する橋下維新の危機意識は並大抵のものではない。内部資料(現状認識)では「敗北すれば大阪維新壊滅」とまで言い切っているぐらいだから、相当切迫した状態だといえるだろう。なぜなら大阪都構想に関する協定書が大阪市議会で果たして議決されるのか、また住民投票にまでたどり着けるのか、目下の状況では“五里霧中”だからだ。

 橋下維新が住民投票に漕ぎつけるためには公明党の協力が不可欠だ。なにしろ前回の衆院選挙では公明と選挙協力を結んで(競合選挙区で維新が候補者を立てず)議席を譲ってやったのだから、「貸しは返してもらう、もらえる」と考えるのが当然だろう。だが、公明はそんなヤワな政党ではない。次の衆院選が当分ないことを見越して(その時までに維新は影も形もなくなっているだろうから)、借りは返さなくても(猫ババしても)構わないと踏んでいるのである。

 でも「是々非々」を党是とする公明のことだから、仮に維新と公明との間に何らかの政治取引(裏取引も含めて)が成立し、法定協議会や大阪市議会で公明が大阪都構想賛成の側に回ったとしよう。そうなると大阪府・市両議会で維新与党が過半数を占めることになるから、大阪都構想に関する協定書が承認され、舞台はいよいよ住民投票に移ることになる。だが誰もが認めるように、この住民投票は維新にとって「一か八か」の大勝負(最大の難関)になることは間違いない。なぜなら昨今では日々刻々と大阪都構想に賛成する世論が少なくなり、逆に反対する意見が増えてきているからだ。

 朝日新聞が2013年11月16、17両日に大阪府民を対象に実施した世論調査によれば、橋下大阪市長の支持率は今年2月の前回調査の61%から49%に低下し、不支持率は25%から31%に上がった。1年9か月前の大阪市長就任時の支持率は70%だったので、今回ははじめて過半数を割ったことになる。また「大阪都構想」に関する賛否は、過去7回の調査ではいずれも賛成が上回り、前回は賛成48%、反対36%だったが、今回は賛成32%、反対37%とこれもはじめて反対が賛成を上回った。大阪市民に限っても賛成33%、反対36%という数字が出ているので、来秋予定の住民投票にいよいよ赤信号が点灯したのである(朝日新聞2013年11月20日)。

 大阪維新の会内部資料は「現状認識」のなかで次のように言う。「住民投票の困難性、擬人化しない住民投票の困難性⇔敗北すれば大阪維新壊滅」。最初、「擬人化しない住民投票の困難性」という表現を見たとき、私はその意味を十分に呑み込めなかった。しかし「全体戦略」(その1・問題意識)(その2・活動主体)の項目まで読み進んだとき、なんとなく「こうなのではないか」と思い当たるようになった。そのヒントを与えてくれたのは、「任意団体」に関する次の一文である。

 ・「市民への訴求主体⇔議員のみから住民運動へ」
 ・「議員のみの活動で限界はないか、新たなうねりが必要では」
 ・「『(仮)大阪の未来を創る会』(維新色をできるだけ排除)」
 ・「非維新、政治無関心層も巻き込む強力な受け皿団体(経済界、著名人)」
 ・「大阪全体で都構想が必要だという空気感を醸成する」

 この活動主体に関する新しい方針提起を読むと、「兵隊型組織」ともいうべき従来の橋下維新の活動形態や活動主体を抜本的に変えなければ、住民投票に勝てないという問題意識(全体戦略)が鮮明に浮かび上がってくる。つまり橋下代表や松井幹事長のイメージが「挑戦者」から「権力者」に変わった状況の下では、橋下代表が先頭に立って維新を引っ張り、議員がその後を兵隊のように付き従うといった軍隊型の政治スタイルではもはや市民にアピールできないというのである。

 くわえて、肝心かなめの橋下市長支持率が今後下がることはあっても上がることはない見通しの下では、橋下代表に代わる新しい牽引車を見つけなければ大阪維新を維持できないということもある。それが「住民運動市民運動といった新たなうねり」を起こさなければという方針提起となり、活動主体として「維新色をできるだけ排除した任意団体」・「(仮)大阪の未来を創る会」を立ち上げるという具体的提案に行きついたのだろう。

 それでは「大阪の未来を創る会」とはいったいどんな組織なのか。それは非維新・政治無関心層も巻き込むような「維新色を排除」した強力な受け皿団体であり、有体にいえば“偽装市民団体”といった類の組織である。この任意団体は経済界や著名人が音頭を取り、大阪全体で大阪都構想が必要という空気感を醸成するものでなければならないというのだから、正確に言えば“翼賛市民団体”とも言うべき性格のものであろう。

 それにしても「橋下維新」から「橋下色」を抜き去ったとしたら、果たして「維新」は維持できるのだろうか、私は「橋下維新−橋下=維新」ではなく、「橋下維新−橋下=ゼロ」にしかならないと思う。つまり、新しい活動主体として「維新色をできるだけ排除した任意団体」すなわち「(仮)大阪の未来を創る会」を立ち上げるという提案は幻想にすぎず、要求がないところに住民運動市民運動も起らない(起こせない)ということだ。また、こんな偽装市民団体の音頭をとる(間抜けな)著名人も経済界も見つからないということだ。(つづく)