共産党の「候補擁立見送り」の英断を讃える、橋下維新は出直し市長選という“泥沼“に足を取られて沈んでいくだろう、大阪出直し市長選をめぐって(その2)

 前回の拙ブログに対して、思いのほか多くの読者から賛否両論のコメントを寄せていただいた。その数は昨年の神戸市長選をめぐる論戦をはるかに上回るもので、大阪出直し市長選への(全国的な)関心の高さを物語るものだ。コメントに対する個別の応答はできないので、今回のブログでもって私の考え方を(冷静に)述べたい。

 言うまでもなく、今回の出直し市長選の最大の焦点は、各党が橋下氏の対立候補を擁立して選挙戦を戦うか、それとも見送るかどうかだった。自民、公明、民主各党は早々に見送りを決めていたが、ひとり共産党だけが最後の最後まで候補者擁立にこだわっていたからだ。共産党大阪府委員会)は当初、出直し市長選について「選挙戦を通じて大阪都構想への反対を訴えるべきだ。橋下氏に審判を下すため共闘を呼びかけていく」との方針を掲げ、市議会野党間で調整が進まない場合は、共産党の独自候補を擁立する意向だと伝えられていた。

 ところがこの方針が明らかになるや、大阪府委員会には党大阪市議団をはじめ多くの支持団体から「異議申し立て」が殺到し、党内の意見が対立して収拾がつかなくなったという。野党間の共同候補擁立を追求するといっても、自民、公明、民主の各党がすでに見送りを決めている以上、この時点での候補擁立は共産党独自候補の擁立を意味し、果たしてその判断が妥当であるかどうかを巡って激しい議論が起ったのである。

 「擁立派=主戦論」は、他党が戦わないのであれば「絶好のチャンス、断固戦うべし!」という勇ましいもので、その方が共産党の政策宣伝や党勢拡大にもつながり、たとえ負けても得るものは大きいという党独自路線を強調するものだった。これに対して「見送り派=慎重論」は、これまで積み重ねてきた反維新包囲網を継続する立場から、他党派との協調を重視する共闘路線に立つものだった。

 紆余曲折の末、ようやく2月14日になって「日本共産党大阪府委員会は、橋下市長による「出直し市長選挙」に反対します。この立場から「大阪都ストップ・維新政治打破」へ幅広い勢力との共同候補の擁立を追求します。共同候補擁立が実現しない場合は、「維新政治打破」を求める共同を大切にする見地から、「独自候補擁立」という立場はとらず、橋下氏と「維新の会」に痛打をあびせるたたかいへともに力をつくすものです」との(当初の方針とは正反対の)声明が発表された。これで主要各党は橋下氏の対立候補を擁立しないことで足並みを揃え、橋下氏は無投票当選になるか泡沫候補との選挙戦になるかは別として、再選が確実(ただし残任期間のみ)になったのである。

 この出直し市長選は、日本の(地方)政治史上極めてユニークな性格をもつ首長選になるにちがいない。橋下維新という「ネオコン」と「ネオリベ」が合体した急進的右翼政党に対して、旧保守から革新リベラルまでの各政党が幅広い共同戦線を組み、しかも対立候補を立てないで「不戦勝・不戦敗」に持ち込むという“奇策”に出たからだ。

 この奇策は、これまで橋下氏が得意とする「劇場型対決選挙」に慣らされた人たちにはわかりにくいだろう。また「自共対決」といった2分法的な単純図式で選挙を戦ってきた人たちに対しても混乱を惹き起すだろう(共産党内の主戦論者がそうだった)。政策の吟味はともかく勝ち負けだけをハッキリさせる「劇場型対決選挙」とは違って、勝ったのか負けたのかがわからないような「不戦勝型・不戦敗型選挙」はとにかくわかりにくいのだ。

 このような市民の戸惑いは、読売新聞世論調査(2月4〜5日実施、6日発表)や朝日新聞世論調査(2月8〜9日実施、11日発表)にもあらわれている。橋下氏の辞職・出直し選について「評価しない」「反対」の人が圧倒的に多いにもかかわらず(読売61%、朝日56%)、出直し市長選では橋下氏の対立候補を「擁立した方がよい」「立てるべきだ」とする人が過半を占めているのである(読売57%、朝日59%)。

 この一見矛盾するような結果をどう解釈すればよいのか。私の分析は、市民は大阪都構想の内容がよくわからないので、一方では「もっと時間をかけて他の案も議論すべきだ」(読売70%)、「(橋下市長が言う)日程にこだわる必要はない」(朝日71%)などと慎重審議を求めながら、その一方では対立候補を立てて「早く決着をつけてくれ」との複雑な心理状態に陥っている(煽られている)のではないかというものだ。

 おそらく橋下氏の意図した出直し市長選は、大阪都構想の中身はよくわからないまでも、出直し市長選をやるのであれば「とにかく白黒をつけてほしい」との大衆心理につけこむ形で計画されたものだろう。だとすれば、主要政党が候補者擁立を見送る今回の「肩透かし作戦」は、橋下氏が期待する劇場型対決選挙の出現を阻止するうえで大いに効果があるというものだ。橋下氏を「不戦勝」に追い込んで勝負させず、再選市長の残任期間で「白黒をはっきりさせる」ことになるからだ。

 出直し市長選が無投票当選になるか、それとも泡沫候補との無意味な選挙戦になるかは目下のところわからない。しかし無投票当選になれば、6億3千万円もの莫大な予算を使った「今回の出直し市長選はいったい何だったのか」という疑問と反省の機会を市民に与えるだろうし、泡沫候補との無意味な選挙戦になれば、橋下氏自身が空しい消化試合を強いられることで市民の間に虚無感と嫌悪感を惹き起すだろう。

 いずれにしても橋下氏にとっての出直し市長選は「出直し」にならず、徒労と消耗感だけが残る“泥沼選挙”の様相を深めるだけだろう。橋下氏が現状打開の奇手として選んだ出直し市長選の結果は「不戦勝」に終ることによって、再出発した瞬間から橋下維新が沈んでいく泥沼の運命をたどる他はないのである。その意味でも「候補見送り」と言う奇策を編み出した野党各派に拍手を送りたいし、遅ればせながら苦渋の決断をした共産党大阪府委員会に敬意を表したい。(つづく)