市民の「圧倒的支持」を得て大阪都構想の膠着状態を突破したいとの橋下市長の思惑が市民・有権者に見破られ、出直し市長選は史上最低投票率の23.6%に終わった。それも白票を含む無効票が過去最高の6万7500票に達するとのおまけつきだ。あまりにも惨めな結果だというほかはない。にもかかわらず橋下市長は、「歴代市長より多い37万票をいただいた。大阪都構想の議論を進め、最後は住民投票で是非を決めることへの信任を得た」と強気そのもの。虚勢とはいえ、その厚顔さに驚かない者は誰一人いないだろう。
とはいえ3月23日の開票後、さすがの橋下氏も記者会見に顔を見せることはできなかった。当選した本人が記者会見に出られないほど開票結果にショックを受け、どのように弁明するかについて頭を整理できなかったからだろう。そこで身代わりの松井知事を出し、「市長は明日からの公務の準備があるから出られない」との下手な(見え透いた)言い訳をさせたわけだ。見苦しいことこの上ない。
その点、松井知事は正直だ。「一時は投票率が10%台になるかもしれないと思っていた」と舞台裏の懸念を率直に告白している。史上最低の投票率はそれほど維新にとっては打撃だったのであり、どのように言い抜けするかがわからないほど維新内部は混乱を極めていたのである。ところが翌日24日の記者会見では、驚くべきことに橋下市長は一転して強気に出た。投票率よりも得票数を前面に出し、「大阪都構想の議論を進める」「住民投票で是非を決める信任を得た」と一方的にまくし立てた。その真意はなにか。
橋下氏は稀代の“トリックスター”だ。彼が右手を出すときは左手で何をしているかを見なければならない。記者会見の模様を報じた各紙は、一応言葉の裏を解説したものの、実は橋下氏の本当の狙いを解き明かしていない。私の解釈はこうだ。
(1) 橋下市長はもはや大阪都構想も住民投票も断念している(誰が見ても実現不可能だ)。しかし大阪都構想は大阪維新の会の「レゾンデートル」(存在意義)であるがゆえに、それをそのまま言うわけにいかない。大阪都構想を放棄した瞬間に維新は即崩壊するからだ。橋下氏が「投票率0.5%でも大阪都構想はやる」と府議・市議たちに言い続けなければならない理由がそこにある。
(2) 大阪維新の会の府議・市議たちは動揺の極みにある。1年後に迫っている統一地方選で自分が当選できると思っているのは、ごく一握りの議員を除いてほとんどいない。多くの議員は橋下氏にこのままついていくか、それとも離れるかを迷っている。しかし大半の議員は親離れのできない未熟な「橋下チルドレン」だから、自立できる状態にない。離党できるのはそれだけの実力のある議員に限られるのである。
(3) 橋下氏および維新幹部の目下の焦眉の課題は、この「迷える子羊ども」を群れから離さないことだ。維新府議団幹事長は24日の府議団総会で「『無駄な選挙』と言われた中で、前回の地方統一選を上回る票を取った。悲観することはない」と呼びかけたと言う(朝日新聞、3月26日)。これが“橋下37万票発言”の政治背景をすべて物語っている。つまり橋下市長に投じられた37万7千票は、2011年4月の大阪市議選で維新が得票した33万7千票よりも4万票も多いので「安心しろ」というわけだ。
(4) だが、この呼びかけは慰めでしかない。橋下市長の得票数は前回市長選の75万票から半減したのであるから、次期統一地方選では維新議員得票数も半減する(あるいはそれ以上に減る)と見なければならない。知名度ゼロ、実績ゼロ、外人部隊の新人候補たちが前回当選できたのは偏(ひとえ)に「橋下ブランド」のお陰であって、それがなければ、彼らは吹けば飛ぶ「紙切れ」のような存在だからだ。
3月24日夜、府議会では自民党提案の選挙区区割り変更案が可決された。来年4月の府議選から合区・再編で9選挙区が新設され、うち7選挙区で維新現職同士が重なるのだと言う(朝日、同上)。維新は前回府議選の1人区では圧勝しているので、1人区が合区すれば2人のうち1人が自動的に減ることになる。また、この事情は1人区と2人区の合区の場合でも基本的に変わらない。
しかしそれ以上に、選挙区が変わらなくても1人区では維新がほぼ“全滅”すると言うのが私の見立てである。1人区(小選挙区)の恐ろしさは「たった1人」しか当選できないので、維新ブームに乗って当選した府議は足場がないので議席を維持することはきわめて難しい。「追い風」が「向かい風」に変わったとき、維新ブームに乗って当選した(だけの)議員たちにはそれに耐えるだけの体力が備わっていないのである。
大阪市会議員選挙区の場合は1人区はないが2人区は6区、3人区は9区ある。維新が議席を持っていないのは3人区の西淀川区だけで、2人区では全て1議席を確保し、3人区では2議席確保が4区、1議席が3区あって、いずれも議席数の少ない選挙区で維新が圧倒的なシェアを占めているのが特徴だ。これは議席数が少ないと「小選挙区効果」があらわれ、そのときの風に乗った候補が当選しやすいことの反映だろう。
しかしこのことは、次期市議選では府議選と同様、維新は激しい逆風にさらされることになる。得票数が半減すれば2人区、3人区での議席がほぼゼロになることも考えられ、全体の議席数が2分の1から3分の1に激減することもあながち的外れとはいえなくなる。そのことは誰よりも維新市議自身が日々実感していることであり、今度の出直し市長選はなによりもその証となったのである。(つづく)