安倍内閣・自民党の高支持率を分析する(1)、「政策評価=絶対評価」と「気分評価=相対評価」という2つの評価基準、維新と野党再編の行方をめぐって(その4)

 時の内閣や政党に対する評価基準には、「政策評価絶対評価」と「気分評価=相対評価」という2つの基準があるのではないかと思う。憲法原発、所得、雇用、社会保障、教育など国の基本政策に強い関心を持つ人たちは、政策の良し悪しで内閣や政党を評価する。政策が評価の対象になるのだから、自分が肯定する政策を掲げる内閣や政党は「支持」、そうでなければ「不支持」ということになる。評価が白黒にはっきりと分かれ、判断基準も明確だ。

 毎月行われる各紙の世論調査において内閣・政党支持率が細かく変動するのは、このような人たちがその時々の政策に鋭く反応しているからだと考えられる。だが、その数はそれほど多くなくて調査対象者のせいぜい1〜2割、回答者の中では2〜3割を占める程度だろう。国民全体から見れば、私の言う「政策派=絶対評価層」はかくも少数派なのである。

 となると、残りの多数派は「気分派=相対評価層」ということになるが、この人たちはいったいどんな判断基準で内閣や政党を評価するのだろう。結論的に言えば、この人たちは個々の政策に対する賛否とは切り離して(政策判断を相対化して)意中の内閣や政党を支持するのだと思われる。そしてこの層が国民多数の世論を形成しているのだから、この“気分構造”を分析しないと安倍内閣自民党の高支持率の原因や背景を解き明かしたことにならない。

 実は、私の周辺でも“気分派”が多数を占めていて、政策派の私はいつも少数派なのである。だから政策談義は煙たがられていっこうに成立しないし、最後は「難しいことを言うな!」と敬遠されるのがオチとなる。憲法の話も原発の話も世間話として出ることは出るが、それ以上の議論には発展しない。会話はオルグではないので、これでは政策談義は深まらないのである。

 といって、“気分派”が何も考えていないのかというとそうではない。政策以前の話として、実は「好き嫌い」の問題があるのである。安倍内閣自民党の支持率が高いのは、少なくとも安倍首相や自民党を「好き」とはいえないまでも「嫌いではない」と考えている国民が多数存在しているということだ。この現実を直視しないと国民世論は変えられない。

 「好き嫌い」の問題は厄介だ。感覚的な問題なので論理的に説得できる類の話ではない。それは長年の生活体験のなかで形作られる感情であり、歴史的に形成されてきた人格と不可分に結びついている感情だ。だから、その人の意中の政党を否定することは、その人の人格を否定することと同じだと受け取られても仕方がない。安倍内閣自民党を支持する連中は「アホ」だと言うのはたやすいが、そこからは感情の対立以外の何物も生まれない。

 おそらく戦後半世紀以上にわたって続いてきた自民党長期政権のもとで暮らしてきた生活体験が、安倍内閣自民党を意中の存在とする根強い政党感情の基盤になっているのだろう。政治学の分野でよく使われる「現実保守」というキーワードは、政策的には支持できなくても依然として自民党を支持する広範な「保守的感情=現状維持気分」の存在を意味する。しかも間違った政策の下で世の中が不安定になればなるほど「現実保守」の勢いが増すのだから、政策派からいえばこれほど厄介なことはない。

 でも、考えてみてもほしい。革新政党や革新勢力が国民的支持を得たのは経済が発展し、暮らしが豊かになっていった(問題はあったとはいえ)高度経済成長の時代だった。そして経済が冷え込み、新自由主義政権のもとで生活が不安定になるにしたがって「保守回帰」の傾向が鮮明になった。並行して新自由主義政策と対峙する革新政党が精彩を失い、政党支持率数パーセントの枠内に押し込められたのも世の中が不安定になってからのことだ。

 政策対決を言うのはたやすい。政党の存立基盤が政策にある以上、政策抜きの政党活動はありえないし、政策を棚上げにした政党連立もあり得ない。でも政策対決は必要条件であっても十分条件ではない。政策対決すれば国民世論が自動的に自民党から離れ、革新政党に来るといった観念的な思い込みは歴史的にも現在的にも事実に反する。重要なことは、安倍内閣自民党の政策に同意できないにもかかわらず、依然として(以前にも増して)安倍内閣自民党を支持している人たちの“気分構造”を分析し、そのなかに潜んでいる矛盾した感情の出口を見出すことなのである。

 私は、各社の世論調査の中の支持政党別クロス集計を重視する。残念なことに世論調査結果は単純集計だけが表示され、クロス集計結果は文中の一部に記述されているに過ぎない。しかし、憲法9条集団的自衛権に関する質問に関しては、自民党支持者のなかにも「解釈改憲反対」が多数を占めるという結果が出ている。読者の方々には詳しいデータをどうすれば入手できるか教えていただきたいが、それが可能になればもう少し突っ込んだ分析ができると思う。私自身も努力してみたい。(つづく)