安倍内閣・自民党の高支持率を分析する(11)、読売新聞の世論調査は、安倍政権の「集団的自衛権限定容認論」を広めるための“政策的キャンペーン”としか言いようがない、維新と野党再編の行方をめぐって(その14)

 拙ブログの「辛口コメンテイター」である旅マン氏のコメントがいみじくも示すように、世論調査の回答者が新聞社に対して態度を変えることは「よくあること」といわれている。ただし回答の内容を変えるというよりは、調査を依頼してきた新聞社によって調査に応じるかどうかの態度が変わるほうが多いと聞く。つまり馴染みのある新聞社の調査には応じるが、そうでない場合は断る確率が高いのである。

 朝日・毎日の購読者には親子2代にわたるとか、数十年のフアンだといった熱烈な読者が少なくない。そんな人のところへ読売・産経からランダムに調査依頼が来ると、もうそれだけで「拒否反応」を起こして調査に応じないケースも少なくない。同様に、読売・産経の場合も購読者には自営業者や農家が相対的に多いので、日頃お付き合いのない新聞からの調査依頼には「仕事多忙」との理由で断る場合が多いといわれる。こうして各新聞社の世論調査にはそれぞれの購読者層の意見がより強く反映することになり、新聞社の「色合い」がより強く出ることになるのである。

 しかし、今回の集団的自衛権に関する朝日新聞・読売新聞の世論調査(以下、朝日調査、読売調査と言う)の場合は、調査結果が両紙の「色合い」程度の差ではなく真っ向から対立する内容になり、これほどの違いは新聞社の「色合い」だけでは到底説明することができない。結論的に言えば、私は、読売調査は安倍政権の打ち出した「集団的自衛権限定容認論」をキャンペーンするために仕組まれた極めて意図的な「世論調査=世論誘導」ではないかと強く疑っている。その理由は以下の4点である。

 第1は、国の安全保障政策の基本を変更するというこれほどの重大な問題であるにもかかわらず、回答者に考える時間を与えるような調査方法、たとえば一定期間調査票を回答者の手元に留め置いて記入してもらう郵送法などの調査方法が採用されず(国民の真意が明らかになると困るのだろうか)、相変わらずコンピューターでランダムに電話をかけて即回答を求めると言う安易な調査方法が続けられているということだ。考えてもみたい。日頃十分考えたこともない集団的自衛権に関する質問をいきなり浴びせられたら、まともな回答をできる人がどれだけいるかわかるはずではないか。

 第2は、質問形式が集団的自衛権の「限定容認論」に導くための意図的な調査設計になっていることだ。一般的に言って、国家の基本を規定する安全保障政策などに関する世論調査は、まず当該政策に対する国民の基本的認識(賛否)を問い、次に賛否の理由をそれぞれ明らかにしたうえで、最後に(賛成する場合は)その具体的形態を問うのが常道だと言える。ところが、読売調査の場合はこのような手順を踏むことなく、集団的自衛権の行使容認を前提とした「たった1つの質問」でいきなりその場合の具体的形態までを問う「結論ありき」の形式となっている。

 第3は、回答の選択肢として提示された3回答のうち肯定2、否定1と肯定側の回答が増やされ、肯定側の回答が多くなるようになっていることだ。「賛成」「反対」の2つの選択肢であれば回答者も判断しやすく、かつ肯定・否定の立場は平等になる。しかし「全面的に使えるようにすべきだ=全面容認」、「必要最小限の範囲で使えるようにすべきだ=限定容認」、「使えるようにする必要はない=否定」の三択になると肯定・否定の割合は2:1となり、どうしても肯定側の比重が高くなる。

 しかも回答が「全面容認」→「限定容認」→「否定」の順番に並べられているので、このような調査とりわけ電話で読み上げられて即座に回答を求められるような調査方法では、回答者は先に読み上げられた回答から選択する傾向が強くなる。この場合は「全面的に」というのは少し行き過ぎだが「必要最小限の範囲」であれば「まあいいか」ということで、最終的には「限定容認論」が浮かび上がる仕掛けになっているのである。

 第4は、これが最大の問題点(狙い)であるが、読売調査が安倍政権の改憲路線と同じく集団的自衛権の「必要最小限の範囲(中身)」を具体的に明らかにしないまま回答を求め、国民に考える材料を提供しないで「限定容認」という結論を引き出していることだ。言い換えれば、集団的自衛権の行使がいったいどのような形で展開され、その結果どのようなことが起こるのかということには一切触れず、「必要最小限の範囲」という一見抑制されたような印象を与える言葉の響きを利用して回答を求め、その結果を「行使容認論の国民への広がりが鮮明となった」との恣意的な結論を導き出していることである。

 これに対して朝日調査(郵送留め置き法)の場合は、(1)まず集団的自衛権に関する基本認識を問い(行使できない立場を維持する63%、行使できるようにする29%)、(2)「行使できるようにする」と回答した人にはその方法を確かめ(憲法を変えなければならない56%、政府の解釈を変更するだけでよい40%)、(3)集団的自衛権を行使する場合、自衛隊アメリカと一緒に戦うことについての可否を問い(一緒に戦ってよい16%、一緒に戦うべきでない71%)、(4)この他、行使する場合の戦争に巻き込まれる不安の有無、東アジアの軍事的緊張の行方などについても丁寧に調査している。要するに、集団的自衛権の行使容認がどのような結果をもたらすかを国民に問いかけ、考える材料を提供して世論のありかを探っている。どちらがマスメディアとしてのとるべき態度なのか一目瞭然だと言わなければならない。

 ところで、この読売三択方式の世論調査が4月19、20日実施の毎日新聞世論調査でも採用され、結果は集団的自衛権の「全面容認」12%、「限定容認」44%、「否定」38%と言う内訳になった。3月段階の二択調査では「賛成」37%、「反対」57%だったので、同じ新聞社の調査であるにもかかわらずまるで正反対のような結果が出たのである。この結果に驚いたのか、毎日新聞は5月17、18日の調査で再び二択方式に戻した結果、「賛成」39%、「反対」54%に戻った。世論調査の質問設計がどれだけ回答に影響を与えるのか、もう少し探ってみよう。(つづく)